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第1章

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リンク「名前、教えてくれる?」


先導する少年の声についていく。

「こっちだ!」
「ああ」

今、私がいるのは【迷いの森】。コキリ族の住処からまた更に森の奥深くへと行く道。マーロンにある私の生まれ育った土地も広い街道を一つ曲がると細く暗い道が入り組んでおり、歩き慣れた地元民のみが迷わず歩ける、まさに迷いの街なんて言っていたが、そんなもの比べ物にならなかった。
いくら歩いても歩いても同じ景色が広がっている。同じように見える木が永遠と続き、最初に右を曲がったのか?それとも左に曲がったのか。そもそも最短ルートをちゃんと辿っているのだろうかなんて戸惑うほどに。
大抵は木の大きさや枝の伸び方などで現在地がわかると登山家達はいうが、些細な違いさえ見つけられないほど、私には全て同じに見えた。

「サリア、きっとスカイが来たって言ったら喜ぶぜ」
「そうかな」
「ああ!最近は奥に行ってそのまま帰ってこねぇから、心配してたんだ。きっとスカイが来たら元気出て帰ってくるさ」

同じ世界をぐるぐると歩いているように錯覚するが、不思議と森の神殿に近づいていることだけはわかっていた。それは、森に木霊するオカリナの音が段々と近づいてきているから。

その音がハッキリと聞き取れるようになった頃だ。

「…俺が案内できるのはここまで。ここから先は行けるよな」

先を走るように歩いていた少年が立ち止まってこちらを振り向いた。

「ミドくんとはここでお別れ…?」
「ここから先はサリアしか行けないんだ。だから俺、他の人が入ってこれないようにここで見張っててやるよ!」
「ああ、すぐ戻ってくるから」
「おぅ!!」

笑顔で手を振る彼をこんなところに置いていくなんて…とスカイの方を見たが、彼は迷わず背を向けて進んでいった。彼にとっては慣れていることなのかもしれないが、置いてかれぬよう走りながらも小さく振り向いて彼に手を振った。彼もそれを見てニッと笑いながら手を振り返す。

「小さな子供一人だけ置いていくの?」
「小さな?」
「迷いの森は危険なんでしょう?彼は…迷わないみたいだったけど、それでも…」
「ミドが何年生きてると思う?」
「え?」

突然の質問に呼吸を忘れる。
何年?見た目からして6歳くらいだろうか、いや、それよりも小さく感じる。しっかりしているから大人っぽく見えるけれど…。なんて、全部間違い。

「俺と同じくらい生きてるよ。確実に」
「うそ…」
「ほんと」
「そんなふうには…」
「狂ってるだろう?コキリ族は」

振り返った先は闇が広がっていた。もう、ミドの姿を目で確認することはできない。もう一度前を見た先でこちらを見ていた彼の瞳は、木々の影に覆われてより一層、暗く見えた。

「彼らに寿命があるのか、100年経てば成長するのか、誰も知らない。彼らの少しはとても長い時だし、ハイリア人の俺とマーロン人の君とでは大きく違うんだ」

違う、そう言い切った彼は私から視線を外すように地面を見つめた。
そんな彼を見つめているのはとても苦しくて…。

「スカイ…」

どうしてそんな顔をするの。寂しそうな顔をしないで。
手を伸ばした。自然と。彼の頬に。
ビクッと震えてこちらを見た彼は驚いた後、少し困ったように笑った。私、どんな顔してたんだろう。きっと彼よりも悲しい顔をしていたに違いない。

「大丈夫だよ、うろこ。そんな顔をしないで」

彼は頬に当てた私の手をそっと握ると軽く目を瞑り、そのままゆっくり頰から私の手を離した。

「俺のことより自分のことを心配すべきだと思うよ」
「え?」
「ここから先はただ歩くだけじゃ無理なんだから」

ただ歩くだけじゃ無理?突然登山になるのだろうか?いや、高い山は見当たらなかった。険しい道が続くのだろういか。獣道を歩くのかもしれない。もしかしたら熊が出るかも、なんて。

熊だったらよかったのに。

「無理無理無理無理無理です」
「大丈夫だから」
「必ず迎えにくるからあの魔物を倒すまでここで待ってて」
「置いてかないでー!!!」

不思議な道具で空を飛ぶように消えた彼。
美しい森にも魔物がいるなんて常識、なぜ、ゼルダ姫は教えてくれなかったのか。

魔物というのは、どれも歪な形をしている。
有名なドラゴンだって、馬をモチーフにしたものもいれば、トカゲやワニをモチーフにしたものもいるように、存在するようでありえない構造。普通の生き物とは違う物。だから魔物と呼ばれるのに。
目の前にいるそれは…まさに!!

「ぶ、ぶた…」

実際は豚というより猪に近いのだが、突然のパニック状態で語彙力など飛んで逃げてしまった。え?猪にビビってんの?って?
目の前の魔物が猪ならまだ良かった。猪の顔を持ちながら、その体は巨体を誇るボディビルダー。肩に鎧をつけて真っ直ぐ持った武器は誰かを殺すために存在している。息を殺してジッとしていても少しの息遣いでバレてしまうのではないかと腰を抜かしそうになる。それほどその魔物には威圧感があった。彼は森の神殿の門番だと言ったが、なるほど、確かに門番と呼ぶにふさわしい。

ここでジッとしていても彼が戻って来る前に死ぬ、そう覚悟した。

ああ、私、ここで殺されるのね。やっぱり人生なんてロクなもんじゃねぇ。

ギュッと目を閉じて速やかに殺されるのを待った。

「でぇああああ!!」

そういえば、飛んで行った彼は一体、何をしてるのかしら。

「でぇあ!!せぇ!はああああ!!!」

スカイさんと思われる声に続いて醜い声を上げながら巨体が次々と倒れていく音。まさか…。

「…うそ…」

ゆっくりと目を開けた。倒れた魔物はまるでその場所にいなかったように塵となって消え、残されたルピーを片手に彼はこちらを見ている。

「1週間くらいは飯の心配しなくて済みそうだ」
「そこじゃない!!!!」
「魔物のことか?ああ、だとしたら心配しなくていい。もう全部倒したから」
「そこでもない!!!!」
「とにかく急ごう。時間が経つと魔物はすぐ復活するんだ」
「え、あ、ちょっと、スカイ待って…!!」

あの巨体を、それも何人もいたはずなのに、目を閉じたその数秒で倒した彼。本当に貴方はただの狩人なの?

なんとなくわかってはいた。ゼルダ姫が友人と呼んだり、兵士たちが尊敬していたり普通の人じゃないってことくらい。だけど、こんなの想定外すぎる。
マーロンにだっていた力自慢の大男達。だけど、彼らだってあの魔物を倒すことはできない。
普通の男性より華奢な彼が一体、どうやって倒したっていうの?

でも、わかっていることはひとつだけある。
ハッキリと確証はないけれど、本能的に悟ったこと。

彼はまだ本気を見せていない。
もっと、強いってこと。

そんなことを考えているなど彼は知らず、隠れていた私が彼の元へ行くよう手招きをした。まだまだ先へと歩いていかなければならないよう。
猪野郎たちの屍を超えて、真っ直ぐ一本道を進んだ。
木々に覆われた森だが、人工的な神殿が存在するように、人が通るための道が用意されていた。散歩するには険しすぎるが(魔物もいるし)獣道を歩くんだと覚悟していた身としては楽だ。

歩く度に、神殿に近づく度にハッキリと聞こえてきたオカリナの音。その正体。大きな切り株に座る少女。

「待ってたヨ」

森に愛された緑の髪と瞳を持つ少女。

「……久しぶり、サリア」

コキリ族の子供たちとは違って、少し躊躇いがちに彼は言った。

「その子が、言っていた子ネ?」
「ああ」
「こんにちは。はじめましてサン」
「は、はじめまして」

マーロンやハイリアとも違う独特の訛り。

「迷わなかった?」
「ミドが案内してくれたから」
「そう。よかっタ」

先ほどの少女たちは子供たちと戯れているという感覚に近かったが、彼女は違う。コキリ族に会っている。まさにその表現に尽きる。
私よりずっと子供に見えるのに、目の前にいる彼よりも大人びている少女。まるで全てを見てきたかのように。

「気をつけてネ、ココは迷いやすいから」

ニッコリと笑う彼女。先程の魔物が門番だというなら、彼女こそ森の番人。神殿に選ばれた賢者。言われなくとも女の勘が騒いでた。

「サリア、森の神殿にも魔物が…」
「やっぱり…そうなのネ」
「詳しく調べるには森の神殿の中にある何かを探さなきゃいけないんだ。何か、心当たりはあるか?」
「あるヨ。でもそれは私より…」

彼女は笑顔を崩さない。

「リンク、アナタのほうが知ってるんじゃないノ?」

リンク?一体誰のこと、なんて視線を辿った先にいた彼。

「…俺はリンクじゃないよ」
「……さぁ、どうかしら」

彼を誰かと間違えているってこと…?
彼に似た誰かがいたのだろうか。

「あの、森の賢者さん」」
「ワタシのこと?」
「あ、えと、違いました?」
「……ううん、合ってるヨ。でも、ハイリア人がそう言うなんて変だと思って」
「え?」
「そうでしょう?森の神殿が選んだのはワタシなのに、ハイラル人が決めた賢者は別の人だったカラ」
「え!?」

彼が答えてくれるのではと視線を投げかけたが彼は視線を逸らすだけ。

「…サリア、とにかく俺達は森の神殿に入るよ」
「気をつけてネ」
「ああ」
「うろこも」
「え!?私の名前…」

彼が先に教えていたのか?それとも彼女は知っていたのか?

「森はアナタに興味津々ヨ。リンク、しっかり見てあげて」

突然の莫大な情報量。パニック状態の私を置いて、彼は先ほど持っていた不思議な武器を装着する。なぜ、みんな私を置いて会話してしまうんだ。誰か私に今の状況を細かく説明してほしい。
ゼルダ姫、説明不足すぎませんか。

「じゃあ、行くよ」
「いってらっしゃい」

目を閉じてうんうん唸っていたら、腰のあたりをギュッと抱きしめられた。ぎょっとして目を開けたのがいけなかった。

「いやああああ!」
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