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第9話 光





ーー悲しみも苦しみも、いつも怒りに変えてきた。素直に辛いと言ってしまえば、もっと楽に、器用に生きられたかもしれない。
こんな生き方じゃ、いつまでも居場所なんて無いことは分かっていた。

分かっている、分かっているけれど、圧倒的な絶望と怒りを前に膝を折り壁に寄りかかることなど、環境が、状況が、周りの人間が、何より自分が、許さなかった。

気づいて欲しかった。愛して欲しかった。それだけだった。

本当は、ティモッテオが心から自分を愛していることだって、わかっていた。9代目の実子という体で引き取ったためにそう育てざるを得ず、いつのまにか引き返せなくなり、それに苦悩していたことも知っていた。だからこそ、矛先の定まらない怒りは内側で燻るばかりだった。

ボスになれば、全て取り返せると思っていた。力さえあれば、自分以外の全員に、自分以上の怒りと憎悪を与えることができるとも。
しかし、どんなに抗っても、どれほど無様に傷ついても、手に入りはしなかった。
それでもⅩを掲げる名に、ボンゴレに縋るしかなかった。それらが自分の全てだったのだから。

それで自分は辛かったのだろうか。
今となってはどうでもいいが。

思い出せないのか、忘れてしまったのか。
まるで今まで、死んでいたかのようだ。
今となってはどうでもいいが。

愛を求める本心から無意識のうちに目を逸らし続け、愛などというものを忌み嫌った日々。
それも、今となってはどうでもいいか。




胸中は、ただ空っぽだった。
流れた涙も、辛いなんて感情も、まるで他人に起きた出来事のように感じ、拒むでもなく、求めるでもなく、近づいては過ぎ去っていく。
過去も未来も遠くにあった。見渡す限り"今、この瞬間"で、自分の名前も思い出せないほど。

ただ一つ、テレサの心だけが傍にあった。
励ますでも奮い立たすでもなく、悲しみの雨に曝される心に寄り添い、一緒に濡れてくれる。孤独な道に立ち尽くす身をやさしく包み、一緒に立ち止まってくれる。そして、髪を撫でる手は止まることはなく、その小さな心音はいつまでも傍にあるのだろう。
そんなことを根拠もなく思えるような、そんな存在。

8年の眠りの間に骨の髄まで染み込んだあの氷の温度が、どれほど憤怒を内側に燃やしても暖まることなどなかった体が、今でも身体中を這いずるあの日の怒りが、全てはテレサの腕の中で穏やかな眠りにつこうとしていた。

XANXUSは目を閉じると、深く息を吐いた。
人はこれを安寧と呼ぶのだろう。



いつのまにか雨は止んでいたようで、雲が晴れ、朝を告げた。
部屋の照度を感知して照明が自動で消える。

XANXUSは半分眠っていたような心地で、テレサの腕から身を起こした。
目線より下にくるテレサは、なんだかずっと大人びて見えた。それもそうだ。実質氷の中にいた8年は死んでいたも同然なのだから、テレサより4つ年下と言えるのだ。

静かに口付け、その小さな身体を抱きしめた。テレサにはそれがXANXUSなりの感謝の形に感じられた。

身体を離すと、朝日が一層強く部屋を満たした。
陽の光がテレサの横顔を照らすと、薄い涙の幕が張った瞳がより一層はっきりと輝き、吸い込まれるようだ。見惚れるXANXUSに、テレサは柔らかく穏やかに微笑んだ。


それが、本当に綺麗だと思った。


少なくとも自分が見てきたどんな絶景と呼ばれるものよりも、そして自分でも驚くことに、焦がれてきた玉座から見下ろす風景にも勝るのではないかとさえ感じた。


本当に綺麗だと思った。


無言で立ち上がり、テレサを抱きかかえると、ベッドに向かった。今日も今日とて仕事はあるし、夜には暗殺の仕事も入っているから、徹夜になるかもしれない。少し眠ろうと思っていた。

テレサは拒むことなく、XANXUSに身を預けた。
ベッドにテレサを横たえ、自分もその隣に寝転がった。そして、抱きしめ目を瞑った。
テレサも、XANXUSの意思に沿うように目を閉じた。それはまるで、赤子が気まぐれに眠るのに合わせて一緒に寝てあげる母親のようだった。

XANXUSは、沈んでいく意識の中ぼんやり考えていた。
まるで、今までの30数年をかけて、ゆっくりとゆっくりと、テレサの元に歩いてきたかのようだ、と。それだけのために、怒りと共に生きてきたかのようだ、と。
そしてこうも思うのだ。



ーーそれならば、いいか。



XANXUSは笑みを浮かべて、ゆっくりと眠りに落ちた。





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