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第9話 光





雨音に満たされた室内を照らすのはかすかな間接照明だけだった。

XANXUSは、自分のことを全て話した。
出生のこと、母親のこと、16歳の時に知った真実、9代目との確執、8年の眠り、そして10代目に負けたことーー
こうして語ってみればあっさりした話なもんだ。と、思考はそう思わせるものの、話せば話すほど、古傷と言う名の感情は、強く強く存在を主張した。

XANXUSの声が途絶えると、長い長い沈黙が降りてきた。
テレサは何を考えているのか表情からは読めないが、XANXUSは何を思うでもなく、痛みを受け止めることに集中していた。
やがて、テレサが口を開く。

「…………触れても、良いですか……?」

傷に、というのは言外の意だ。
XANXUSは何も言わずにテレサを向く。
それを了承と取ったテレサは、恐る恐る右手を頬に近づける。
……だが、あと一歩のところで止まってしまう。きゅっと手を握りしめ、すまなそうに視線を俯ける。

ーー私なんかが、触れてもいいのだろうか。

XANXUSは短いため息をつくと、テレサの引っ込めかけた手を掴み、ぐっと頬に寄せた。

「気が変わらねえうちにさっさと触れ」
「……ごめんなさい…」

そっ、と触れる。
XANXUSがテレサの手を離すと、手の平全体が頬を包んだ。

「……痛みますか…?」

その声に、XANXUSは眉をしかめる。
テレサは泣き出しそうな顔をした後、俯き加減に硬く目を瞑って、その手に淡い桃色の炎を灯した。
テレサの炎に触れるのは初めてだが、心の底に触れられるようなくすぐったい感じがした。まるで意味もなく名前を呼び合うみたいに、テレサの炎とXANXUSの炎が穏やかに絡み合って、一つになっていった。


ーーどうかこの人を救って。
誰よりも気高く、誰よりも孤独で、誰よりも生きるのが下手なこの人を、どうか救って…


テレサは左手をXANXUSの後頭部に添え、軽く撫でたあと、静かな力で自分の肩にうずめるように引き寄せた。XANXUSは、抵抗することなく腕の中に収まった。いつもと逆だ、と不思議な感覚だった。

「(こうしてあなたが、いつでも私を受け入れてくれたこと………すごく、安心したの………)」

止まりかけの心音のようなゆっくりとした一定のリズムで髪を撫でる。意外なほど柔らかい髪に頬をすり寄せる。

XANXUSは何も考えることなく、テレサの胸が呼吸のたびに薄く動くのに合わせて息をしていた。まるで母に抱かれる幼い子供のように。そして、まるで手負いの獣のように動けずにいた。



ーーボンゴレのボスになるためだけに生きてきて、血によって阻まれ、突然現れた少年に奪われ。
愛に飢え、居場所を求め、認められたいがために玉座が欲しくてもがいて足掻いて、それでもなお全てに手を振り払われたこの人を、誰が悪だと言えるのだろう……?

誰が悪だと言えるのだろう。

苦しい、悲しい、それら全てを怒りに変え、あの日に置いてけぼりにされた少年が、どうか居場所を見つけられますように。
たとえ、ばらばらに砕けた心はもう戻らなくても、きっといつか、救われぬ闇を指す光が降り注ぎますように。

大丈夫、なんて無責任なことは言えない。
私の声が届くかどうか自信がないから。
救いたい、なんて大それたことも思えない。
光も音も届かないほど深いあなたの悲しみの底を、私の炎で照らせるかわからないから。
信じる、なんて勝手なことも決して。
私にできるのは、祈ることくらい。

いつまでも祈ります。
私を救ってくれたあなたの声が、私に届く限り。
いつまでも祈り続ける。
どうか、だれか、この人に愛を…



言葉などなくても、テレサの炎はそう伝えていた。

「痛みますか」

生まれてすぐに床に沈むような、ゆるりと落ち着いたテレサの声。
XANXUSは無感動にその言葉を聞いた。

途端に、懐かしいような、嬉しいような、虚しいような、寂しいような、それら全てがどこからか降りかかる。
忘れていたのか、失われていたのか。永すぎる闇の中で、テレサの光を見るまでは。

未だ触れたことのない大きすぎる感情は両手に余り、自分の中にあったのではないそれが今更訪れても行き場はなく、感情の全てをテレサに預けてしまうことにした。

考えるのも感じるのも辞めて静かに目を瞑り、ひとつ息を吸った。

「…………………ああ。痛え」

同時に、一筋……たった一粒だけ、涙がこぼれた。
それはXANXUSの生涯において、最初の涙だった。頬を包むテレサの手を伝って落ちていった。



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