第7話 あった方が良いもの





目が覚めてからテレサは求められるままに、与えられるままに快感に溺れ、もう2時間も経っていた。

たまには休ませてくれるものの、少しずつ余韻が蓄積していって、敏感になっていく体は少し怖かった。
テレサは嬌声を上げながらも、あまり絶頂を与え過ぎると僅かに苦しい表情が混じる。そこからさらに攻めると泣き始めるから、XANXUSはそれが面倒で、寸前で止めて休ませることにしていた。それに、まるで虐められた子供のように泣くテレサの声は萎える。

自身の下で甘い鳴き声を上げるテレサを見下ろしながら、XANXUSはそろそろテレサの限界が来る頃かと、ぼんやりと考えていた。

ーー反応は悪くない。従順で素直な心も、敏感な体も、声も匂いも。今まで交わったどの女も比較にならないほど、テレサは全てが完璧だった。
汚れを知らない体の奥を精で満たして、純粋な心を快感が占めていくのは、何度見ても飽き足らない。
世界で一番美しいテレサを抱くことができるのは自分だけだ。テレサに触れることさえ、他の誰も出来ない。

それどころか、誰もがテレサを穢れた存在だと思っている。表向きはボンゴレの実子であるXANXUSが、なぜかテレサを側に置いているという噂はもう有名な話だ。
理解する人間などいないし、もはや何か妙な嗜癖でもあるか、変な趣味でもあるのかと噂が立つくらいだ。

性のはけ口に使っているかいないかで言えば否定は出来ないが、別に低俗な趣味があるわけでもないし、至って普通に、むしろテレサがあまりに耐性が無いから壊さないようにセーブしているくらいだ。

勝手に言わせれば良い。周りの人間もどうせ意固地になって認められないだけで、その実テレサの美しさに気付いているのだから。

それも今更だ。誰もテレサに触れられないし、テレサも他の誰にも心を開かない。他の、誰にもーー…

「ーー…さま…っ、XANXUS様、ぁっ…!」

XANXUSは何かを懇願するようなテレサの声で、思考から引き戻された。珍しく、ぼうっとテレサを眺めながら思案に没頭していたらしい。

気がつくとテレサは苦しげに顔を歪めていた。ぽろぽろと溢れる涙を手で拭いながら、片方の手でXANXUSの腕を弱々しく握った。

「っあ、ぁ、んうっ…!」

びくんっ、とテレサの体が痙攣して、半ば悲鳴のような声が響いた。
ああ、完全にヤり過ぎた。とXANXUSはテレサの中から自身を引き抜く。
テレサの瞳からは涙が溢れて、快感に耐えるように呼吸を荒げた。

「…っ…ぁ、はあ…っ…」

テレサは激しい快感の余韻に体を震わせながら、目を開けることもできずに乱れた呼吸を繰り返した。瞼の裏が真っ白になって、体が痺れて少しも動けない。

XANXUSはなるべく刺激しないような繊細な力加減でテレサの頬を撫でて涙を拭った。
そして髪に指を通して軽く整え、そっと頭を撫でて唇を合わせた。

「ん……っ…ぅ……」

息を吸う間を与えながら、啄むようなキスを繰り返す。ちゅ、と短いリップ音を鳴らして首元にも唇を這わす。

「は、ぁ…っ」

唇や指先が体に触れるたびに、テレサが吐息のような声を漏らし、びく、と体が小さく跳ねる。よほど感度が良いのか、こうして触れるだけで愛液が溢れてテレサの白い股に一筋の蜜が伝った。

「……ん………、ぁ……」

愛撫を繰り返していると、ようやく声が少し柔らいできて、テレサの体の力が抜けてきた。
テレサは無意識に胸の前で固く握っていた手を解いて、ぱたりと体の横に下ろした。
まるで犬が腹を見せて寝転ぶように、XANXUSに全てを捧げ、委ねるような姿勢だ。特段教え込んだわけではないが、最初テレサは手で顔を隠す癖があったから、矯正するように両手首を掴んで押し倒していたせいか、これが定位置だと覚えたらしい。

XANXUSは唇を離し、テレサの瞳を覗いた。あの苦しげな色は跡形もなく消え、とろけた瞳で頬を染めていた。
XANXUSはそれに口角を上げると、テレサの濡れた蜜部をそっと撫でた。くちゃ、と愛液の絡む音が響く。ゆっくりと指をテレサの中に沈め、手前の性感帯を指の腹で優しく撫でると、テレサはぎゅっと目を瞑った。

「あ……ぁっ…んん、ぅ…っ」

緩やかな快感が脳を占めていく。
この感覚は何度繰り返しても慣れない。恥ずかしさと、ほんの少しの不安が混じって、テレサは自身の横に付いたXANXUSの腕に手を伸ばした。

きゅ、とXANXUSの手首を握る。するとXANXUSは軽くテレサの手を振り払って、それからテレサの手を捕えると指を絡ませた。
テレサの細い指を折ってしまわないように絡めただけの手から、熱い体温が伝わる。
下の刺激を少し早めると、テレサは嬌声を上げて、ぎゅっとXANXUSの手を握った。

「あっ、んぅ……あぁ…っ!」

びくびくっ、とテレサの腰が跳ねる。ゆっくり指を引き抜くと同時に、栓が外れたように愛液が溢れた。

「はぁ…っん……」

テレサは夢の中にいるような浮ついた心地で、そっとXANXUSの肩に手を触れた。

「……………XANXUSさま…」

きゅっ、と控えめに、テレサがXANXUSの手を握る。
もう夢か現か分からなくなって来たのか、時々こうして自分から触れて名前を呼ぶ。
本当に時々なのだが、そんな時のテレサの瞳は甘く甘く蕩けていて、XANXUSを求めているのがどんな言葉よりも伝わった。

あのXANXUSがここまで丁重に扱って、キスも愛撫も快感もこんなにも与えて、ようやくこうして少しだけ心を許して求めるのだ。どこで育て方を間違えたのか、とんだ贅沢な女を作り上げてしまったと、XANXUSは時々思う。
求めてくる前に、何かと与えすぎたのだろうか。テレサがいちいち泣いたり震えたりするから、その度に手を止めてやったせいだろうか。でも仕方が無い。テレサが上手く感じるようになるには、こうにしかならなかったのだから。

実のところ、テレサが心から感じている時の声や匂いや表情が、XANXUSに快感さえもたらしていた。テレサから発せられるもの全てが、XANXUSの五感を寸分狂わずハマっていた。
そしてそう、結局はテレサのワガママに応えてしまうのも、悪いのだ。

「……テレサ」

ぎゅ、とXANXUSはテレサの手を握り返す。髪を撫でて、優しく唇を重ねた。重ねるだけのキスを、飽きもせずに何十秒と…。

求められたとして、与えてやるのはテレサだけだ。今まで体を重ねてきたどの女も、要求に応えたことなどなくて、いつも自身の欲を満たすだけの存在だった。

だが、テレサに求められた時だけは、応えてしまう。その青い瞳に見詰められると、不思議と応えてしまう。応えないと、テレサの深い絶頂を見られないからだろうか。どうにもこの女は贅沢で、求めるものを与えないと、素直に悦ぶことができないようだ。

それに、テレサの唇や髪や、手や肌に触れるのは悪くなかった。どこに触れても吸い付くようにしっとりと潤んだ滑らかな体は、手で触れて体を密着させて、全身で感じたくなるような魔性の魅力があった。

最後に軽くリップ音を残して離す。テレサは少し切なげな顔をした。そんな瞳で見詰められると、また唇を交わらせたくなるものだ。
しかし少し堪えて、テレサの熟れた割れ目に自身を当てた。膣壁を強くなぞりながら奥まで挿入すると、それだけでテレサは達したようで、手も腰もガクガクと痙攣した。

「っひぅ…!ぁ…」

若干手加減しながら奥を突く。テレサは襲いくる快感に、目を瞑って鳴いた。

「っあ、あぁ…んっ、あ…XANXUS様っ……ぁっ、」

いつも少しだけ、奥での絶頂が怖い。
いつまでもテレサは慣れないらしく、まるで一人にするなと言うように、XANXUSを見詰めて訴える。

「……分かってる」

テレサは、一人でイくのが怖いのだ。
XANXUSは少し笑って、緩くテレサを抱きしめた。テレサもそれに安心したように、ふっと体の力が抜けた。
途端に、瞼の裏に火花が散って、何も考えられないほどの絶頂に達した。

「んあっ…!ぁ、あっ…」

テレサの絶頂と共に、中がギュッと絞まる。XANXUSはテレサを強く抱きしめると、奥に精を吐き出した。

テレサはお腹の奥に温かい熱を感じると、快感の余韻の中に、誘われるような眠気を感じて、目を開けることもできずに意識は沈んでいった。

XANXUSは、ふとテレサの手が力無く緩んだのに気付いた。テレサはXANXUSの腕の中で瞳を閉じていた。
「また落ちやがった」とXANXUSは反応の無くなったテレサに萎えて小さく舌打ちをした。

その力の抜けた体を抱きしめて、そのままベッドに横になった。まあまあ気が済んで、もう今日はこの辺にして、2、3時間寝たら仕事に行くことにした。テレサは放っておいたらこのまま半日は眠るだろうが、さすがに帰った時には起きているだろうから、そしたらまた行為を再開するつもりでもあった。

こんなことを多いと3回も繰り返すことがある。XANXUSの自室で交わるときはまだ良い。XANXUSは自室に他の女を入れたがらないので、気を失ったテレサを放り置いてホテルへ行き、そのまま朝帰りという流れになるからだ。

しかし、出先などでホテルで行為に及ぶときにはそうはいかない。XANXUSがわざわざ移動するわけもなく部屋に女を呼ぶので、テレサが目を覚ますと再び行為が始まるのだ。
熱の冷めない体はすぐに濡れるのも、XANXUSにとっては都合が良かった。しかし、テレサはただでさえ限界を迎えたところに追い討ちをかけられるわけなので、正直体は辛かった。それで次の日にテレサが熱を出してもXANXUSは放っておくのだから、扱いが雑だと言わざるを得ないだろう。

それもそのはずで、XANXUSの中でテレサは"要るか要らないかで言えば要るし、まあ居た方が良いもの"くらいの存在になっていた。
特に他の女と眠りにつく時、浅い眠りに目が覚めてテレサの感覚を探す時なんかは、その事実に気づいて我ながらうんざりすることがある。

もちろん文句の方が多いのだが。虚弱で体力の無い体に、臆病で気弱な性分はイライラする。
なにより、それに慣れてきた自分が恐ろしい。テレサが体調を崩すのも、泣いたり怯えたりするのも、だいたいの原因をあらかじめ排除できるようになりつつある自分がいる。

"必須ではないが、あった方が良いもの"ーーペットのようなものだろうか。それならこれほど手が掛かるのも納得できる。

ああこうして、また一つ、テレサに手を焼くのを許容してしまった。
何も知らずに腕の中で眠るテレサは、なんとも無防備に気持ち良さそうな寝顔を晒している。
要るとか要らないとか考えていると、イライラしてくる。今はただ単純に、テレサの体を気に入っていて、内面には慣れてきてしまったという、それだけだ。

これ以上考えても堂々巡りだ。なんにせよ、テレサが自分以外のモノになることは決して無いーー今はそんな確信があるだけで良い。

XANXUSは目を瞑ったまま、テレサの鼓動を手に感じるように、背に手の平を添える。寝落ちる前は小型犬のようにドキドキと脈打っていたのに、眠った途端に心拍が拾えないほど大人しくなるから、つい感覚を研ぎ澄ませてしまう。
呼吸をしているし体も温かいなら死んでいるはずがないのに、心のどこかで疑って、こうして確かめるのが癖になってしまった。

指先で鼓動を捉えると、ようやく眠気がやって来る。テレサの前髪に唇を寄せて、ほのかに香る桃のような芳香を感じると、引き摺り込まれるように眠りについた。










2/2ページ
スキ