第1話 目を奪われる
XANXUSは寝室を出ると、やがてテレサのことが頭から抜けていった。普段は居ない存在のせいか、それかだいぶ腹が減っていたからか。都合のいいことに、いつも幹部と食事を摂る時間だった。
XANXUSが席に着いたとき、幹部は全員がいつもの席に着いていた。
スクアーロがちらちらと視線を送ってくるので、顔面を湯気を立てたスープに運んでやった。
「う"お"おおぉい"!!何しやがる!!あちーぞお"!!!」
「……何見てやがるカスが」
「てめーが隠し事してんだろおがあ"!!」
なんだ、テレサのことか。まあ、あれだけ堂々と連れ回せば誰かに見られていても不思議はない。
興味が失せ、食事を再開する。
しかし、スクアーロの方はそれでは収まらないようで、ナプキンで顔を拭きながら声を荒げた。
「お前……部屋に女連れ込んでただろおが!そいつはどうなったぁ!?」
「殺したに決まってんだろ?」
しししっ、とベルが笑いながら代わりに答える。レヴィも、当然のことを聞いて一発食らうとは愚かな、とほくそ笑んだ。マーモンは無反応だが、ルッスーリアは何か楽しげな会話に感じ笑っていた。
「うるせえぞベル!死体が出てねえぞぉ!」
「燃やしたんだろ?」
先輩バカだろ、と真顔で続けるベルに、スクアーロは反射的にフォークを投げ飛ばす。ベルは顔を横にずらしてすいっと避けた。もちろん最初から当たるとは思っていないが。
「つーかなんでそんなに気になんの?」
「………」
スクアーロは押し黙ってしまった。
不思議だったのだ。XANXUSは、今まで娼婦を抱くことはあっても、連れ込むことは一度としてなかった。
部屋に女の痕跡が残るのが嫌なのか、自分以外の人間を入れたくないのかは分からないが、とにかく自分から連れてくるなど考えられないことだった。それにまだ生きながらえているらしいときた。
「だんまりかよ。でもま、死んでないんだったら俺も気になるかも」
椅子の前足を浮かせるように重心を後ろに移しながらベルがXANXUSを向く。
XANXUSはその視線に面倒そうにあっさり答えた。
「………まだ殺しはしねえ」
スクアーロが同じようにしたのなら鉄拳が飛んでくるような態度に、なぜベルなら許されるのかとスクアーロは少し引っかかったが、それより衝撃の方が勝った。殺さないということは、ずっと飼うつもりだろうか、と。
ベルも同じだったようで、薄く唇を開けてXANXUSをじっと見ていた。
レヴィは動揺のあまりナイフとフォークを床に落とし、さすがのマーモンも手を止めた。
ただ1人、特に柔軟性に優れるルッスーリアはすぐそれを受け入れ、XANXUSの気持ちを察したらしく、「まあ!」と楽しそうな声をあげた。次に、器用なベルも状況を飲み込み、ニッと笑った。
「ししっ♪見せてくんねーの?ボースっ」
軽い声を上げるベルを、その赤い瞳でぎろりと睨む。
さすがのベルも、おっと、と両手を挙げて降参の意を示す。
「ベルちゃん、この話は終わりにしましょ。正直とっても気になるけど♡」
「へーい」
「う"おぉ…ぃ"…」
スクアーロが"納得はいかないが一旦はわかった"の声を出す。
ルッスーリアの仲裁で話は終わったが、スクアーロとレヴィは若干放心したまま食事を終えた。