人魚姫とまでは
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今でも覚えてる。
跡部君が試合に勝って
テニスコートで歓声が沸き起こる中での彼の背中は汗が染みウェアの色を変えていた。
ラケットを持った右手を上へ掲げて
その勢いで彼の色素の薄い髪の毛先から勢いよく跳ねる汗の滴が、キラキラと光っていた様な気がしなくもない様な
そんな夢見心地を抱く跡部君の引退試合が私の瞼に焼き付いて離れない。
氷帝学園中等部3年生として残り1年間を振り替える今は寒い冬。
世間は受験シーズン真っ只中で学生は勉学に打ち込んでいる。
私はエスカレーターで高等部へは上がらず自分で決めた進路の為に勉強に励む私も受験シーズン中の1人。
気分転換に開けた窓からは暖房が効いた室内との温度差で、ひやりとした空気が少しだけ気持ちよくて厚手のカーディガンを肩に羽織り少しだけ窓から外の景色を眺めていた。
暫く窓枠に肘を乗せて少しだけ身を乗り出していた私の手はかじかみ、指先が赤くなってきた。
そんな自分の指先を見ている、ただそれだけなのにやっぱり思い出すのは彼の後ろ姿だった。
ふとした時に、思い出す。
キーンコーンカーンコーン...
一昨日始業式が始まり、昨日入学式が終わり、今日から全体的に通常授業が始まった。
何かあるとすればこれから数日、中等部入学生の部活見学があるという事だけ。
今日最後の授業が終わるチャイムと同時に後ろの席から部活に行こうと声をかけられた。
「今日から部活見学が始まるね~」
楽しみなような、怠いのか、少しだけ息を吐く彼女は今年から同じクラスの同級生。
とは言っても初等部から同じ水泳を続けてきてる仲で、私の数少ない友人の1人。
「今年もテニス部にほぼ取られそうだけど」
「うちもテニス部に劣らず立派な水泳部だよ、特に男子部は。女子だって見学者を増やして来年に繋げなきゃ」
「うそ、そんな真面目」
「本気、こんな真面目」
「よーしやりますかぁ~部長様~」
「励め励め平部員~」
「てか女子部も負けてないし」
小さな笑いを交えながら私達は自分の荷物を持って教室を出た。
氷帝学園中等部女子水泳部の部長に就任する程の実力がある、といえばある。
父親がオリンピック選手だった事から私も幼い頃から泳ぎを覚えて、名のある試合にも出場し賞を取れば注目を浴び、といったよくある話。
メディアに出れば名前は知られなくても顔は覚えられたりとか、自分の知らない人からの視線を感じたり声をかけられたりと随分と周囲に対して過敏な性格になったと思ってる。
「クラスの人は馴れてきたよね、初めは少し噂してたけど」
「まぁ...新顔でもあるまいし新鮮味は無いだろうね」
「最近テレビに出ないじゃん?」
「出たくて出てる訳じゃないんだから。出てるって言っても試合前と後のインタビューでしょ」
「インタビューね~いつも思うけど面倒くさそうだわ」
メディアに露出するのが別に嫌という訳ではない。
父親がそうだから、とか
娘もそうなるよね、とか
そんな風に言われても嫌な気は一切しないのは、心から水泳が楽しんでるからかな。
「じゃあこの間のミーティング通り櫻よろしくね」
「ありがとう」
「良いのよ、櫻は悠々と泳いで指導しまくってて。逆に宣伝効果になるから」
「はいはい」
更衣室で水着に着替えジャージを上から着た私達は屋内プールへと向かい、3年副部長に見学者の対応を任せ私は現場監督と指導に集中した。
正直...見学者が入部したくなる様に魅せる言動っていったのが苦手で、適材適所という事でそういうのは副部長や他の部員に任せた。
キャーッ
「...?......何の悲鳴?」
「あ~ホラ、向こう側にテニスコートあるじゃないですか」
「あ。1年ぶりにここまでのボリュームを聞いたから忘れてたわ」
「男テニはいつもの事だけどこの季節は特にですよね」
自分と各自の柔軟を終わらせたのを見届けて、私は5月にある大会とタイムトライアルに向けて部員達の個人メニュー指導に入った。
『じゃ!私は今日筋トレ組だからお外散歩してるね~部長がんばっ』
氷帝学園名物である200人のテニス部員まではいかなくても、うちも男女共に中学平均部員数に比べて多めの部員数であるが為に水陸を分けたスケジュールを組んで部活動を行っている。
同級生は同じ陸メニューの後輩を連れてグランドへと出ていった。
部活内では藤堂 櫻、と書いて「水中のオバケ」と呼ばれている。
どこにいるのかと探されればプールの中から上がってくる事からオバケと呼ばれる事が多々...きっと親しみを込めて。
部活以外ではオバケを飛び越えてバケモノと言われる事もあった。
もはやオバケと比べたところでって感じで笑える。
どうしてバケモノなのかと部員に聞いてみれば
『あらゆる試合に尋常じゃなく出てるからじゃないですか?櫻部長はそれでいて成績上位キープ。加えて生徒会を蹴ってまで水に浸りたいって変態発言、極めつけにインタビューで答えた "三度の飯より入水" 』
.........事実。
水泳より頑張ったものなんて1つもない。
勉強もガリ勉じゃないけど、休憩時間に自習をしているだけで疎かにはしてない。
もう少し肘を水平に...そうもっと上げて
次は新しいフォームの確認をしといて
ダメ、それじゃあタイム伸びないよ
「あんな風にうちは初心者でも優しく指導するから興味本位での入部も可能だよ!って話した後に丁度タイミング良く櫻が泳いでくれたから、今日だけで確実に何人か入ってくれそうだよ」
今日の収穫をシャワーを浴び終えて髪を乾かしながら意気揚々に話す副部長。
「外部入学の子は完全に櫻目当て。男子の方からも注目浴びてたし、憧れの選手を目の前にしてテンション上がってたって感じだね」
私は副部長の話に相槌をしながら
着替えたTシャツの上からジャージを羽織った。
頭の中は正直、半分が今日の練習を振り返りもう半分は来週から入ってくる新入生のメニュー作りをする時間を顧問にいつお願いするか...
「ん~この時期はやる事が一杯だなぁ」
「これからまた練習しに行くの?」
「今日は筋トレだけして帰る、また明日もあるしね」
今日は入水は無しか、とからかってくる副部長。
「大会も近いんでしょ、頑張ってねジュニア選手~」
お先に、と言って副部長は部室から出ていった。
顧問も今日は忙しくて部活動を自主トレにしたから、私は部室の鍵を持って先生へ報告をしに職員室へ向かう。
跡部君が試合に勝って
テニスコートで歓声が沸き起こる中での彼の背中は汗が染みウェアの色を変えていた。
ラケットを持った右手を上へ掲げて
その勢いで彼の色素の薄い髪の毛先から勢いよく跳ねる汗の滴が、キラキラと光っていた様な気がしなくもない様な
そんな夢見心地を抱く跡部君の引退試合が私の瞼に焼き付いて離れない。
氷帝学園中等部3年生として残り1年間を振り替える今は寒い冬。
世間は受験シーズン真っ只中で学生は勉学に打ち込んでいる。
私はエスカレーターで高等部へは上がらず自分で決めた進路の為に勉強に励む私も受験シーズン中の1人。
気分転換に開けた窓からは暖房が効いた室内との温度差で、ひやりとした空気が少しだけ気持ちよくて厚手のカーディガンを肩に羽織り少しだけ窓から外の景色を眺めていた。
暫く窓枠に肘を乗せて少しだけ身を乗り出していた私の手はかじかみ、指先が赤くなってきた。
そんな自分の指先を見ている、ただそれだけなのにやっぱり思い出すのは彼の後ろ姿だった。
ふとした時に、思い出す。
キーンコーンカーンコーン...
一昨日始業式が始まり、昨日入学式が終わり、今日から全体的に通常授業が始まった。
何かあるとすればこれから数日、中等部入学生の部活見学があるという事だけ。
今日最後の授業が終わるチャイムと同時に後ろの席から部活に行こうと声をかけられた。
「今日から部活見学が始まるね~」
楽しみなような、怠いのか、少しだけ息を吐く彼女は今年から同じクラスの同級生。
とは言っても初等部から同じ水泳を続けてきてる仲で、私の数少ない友人の1人。
「今年もテニス部にほぼ取られそうだけど」
「うちもテニス部に劣らず立派な水泳部だよ、特に男子部は。女子だって見学者を増やして来年に繋げなきゃ」
「うそ、そんな真面目」
「本気、こんな真面目」
「よーしやりますかぁ~部長様~」
「励め励め平部員~」
「てか女子部も負けてないし」
小さな笑いを交えながら私達は自分の荷物を持って教室を出た。
氷帝学園中等部女子水泳部の部長に就任する程の実力がある、といえばある。
父親がオリンピック選手だった事から私も幼い頃から泳ぎを覚えて、名のある試合にも出場し賞を取れば注目を浴び、といったよくある話。
メディアに出れば名前は知られなくても顔は覚えられたりとか、自分の知らない人からの視線を感じたり声をかけられたりと随分と周囲に対して過敏な性格になったと思ってる。
「クラスの人は馴れてきたよね、初めは少し噂してたけど」
「まぁ...新顔でもあるまいし新鮮味は無いだろうね」
「最近テレビに出ないじゃん?」
「出たくて出てる訳じゃないんだから。出てるって言っても試合前と後のインタビューでしょ」
「インタビューね~いつも思うけど面倒くさそうだわ」
メディアに露出するのが別に嫌という訳ではない。
父親がそうだから、とか
娘もそうなるよね、とか
そんな風に言われても嫌な気は一切しないのは、心から水泳が楽しんでるからかな。
「じゃあこの間のミーティング通り櫻よろしくね」
「ありがとう」
「良いのよ、櫻は悠々と泳いで指導しまくってて。逆に宣伝効果になるから」
「はいはい」
更衣室で水着に着替えジャージを上から着た私達は屋内プールへと向かい、3年副部長に見学者の対応を任せ私は現場監督と指導に集中した。
正直...見学者が入部したくなる様に魅せる言動っていったのが苦手で、適材適所という事でそういうのは副部長や他の部員に任せた。
キャーッ
「...?......何の悲鳴?」
「あ~ホラ、向こう側にテニスコートあるじゃないですか」
「あ。1年ぶりにここまでのボリュームを聞いたから忘れてたわ」
「男テニはいつもの事だけどこの季節は特にですよね」
自分と各自の柔軟を終わらせたのを見届けて、私は5月にある大会とタイムトライアルに向けて部員達の個人メニュー指導に入った。
『じゃ!私は今日筋トレ組だからお外散歩してるね~部長がんばっ』
氷帝学園名物である200人のテニス部員まではいかなくても、うちも男女共に中学平均部員数に比べて多めの部員数であるが為に水陸を分けたスケジュールを組んで部活動を行っている。
同級生は同じ陸メニューの後輩を連れてグランドへと出ていった。
部活内では藤堂 櫻、と書いて「水中のオバケ」と呼ばれている。
どこにいるのかと探されればプールの中から上がってくる事からオバケと呼ばれる事が多々...きっと親しみを込めて。
部活以外ではオバケを飛び越えてバケモノと言われる事もあった。
もはやオバケと比べたところでって感じで笑える。
どうしてバケモノなのかと部員に聞いてみれば
『あらゆる試合に尋常じゃなく出てるからじゃないですか?櫻部長はそれでいて成績上位キープ。加えて生徒会を蹴ってまで水に浸りたいって変態発言、極めつけにインタビューで答えた "三度の飯より入水" 』
.........事実。
水泳より頑張ったものなんて1つもない。
勉強もガリ勉じゃないけど、休憩時間に自習をしているだけで疎かにはしてない。
もう少し肘を水平に...そうもっと上げて
次は新しいフォームの確認をしといて
ダメ、それじゃあタイム伸びないよ
「あんな風にうちは初心者でも優しく指導するから興味本位での入部も可能だよ!って話した後に丁度タイミング良く櫻が泳いでくれたから、今日だけで確実に何人か入ってくれそうだよ」
今日の収穫をシャワーを浴び終えて髪を乾かしながら意気揚々に話す副部長。
「外部入学の子は完全に櫻目当て。男子の方からも注目浴びてたし、憧れの選手を目の前にしてテンション上がってたって感じだね」
私は副部長の話に相槌をしながら
着替えたTシャツの上からジャージを羽織った。
頭の中は正直、半分が今日の練習を振り返りもう半分は来週から入ってくる新入生のメニュー作りをする時間を顧問にいつお願いするか...
「ん~この時期はやる事が一杯だなぁ」
「これからまた練習しに行くの?」
「今日は筋トレだけして帰る、また明日もあるしね」
今日は入水は無しか、とからかってくる副部長。
「大会も近いんでしょ、頑張ってねジュニア選手~」
お先に、と言って副部長は部室から出ていった。
顧問も今日は忙しくて部活動を自主トレにしたから、私は部室の鍵を持って先生へ報告をしに職員室へ向かう。
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