刀さに

桜が舞って、目を開けた先に彼女はいた。
穏やかな微笑みを浮かべた彼女は、僕が刀のままであった時に出会った姿とほんの少し違っていた。
久しぶりの再会に衝動のままに抱擁した彼女は目を丸くしていて、それすらも愛おしいと思った。

「人間は200年も生きられない。たとえ、お前が覚えていたとしても主にとっては初対面だ。それを忘れるな」

人間の魂は転生を繰り返し、その度に違う姿を得るということを僕は初めて知った。熱のこもった目で刀の僕を見つめていた彼女にはもう会えないことを悟り、胸が締め付けられるように苦しくなった。源氏の惣領刀として顕現したのに情けない。見かねた彼女の初期刀に慰められるほど僕はひどい顔をしていたらしい。
顕現して10日ほど経つ頃には、僕は何とか持ち直していた。髭切らしい穏やかな笑みを浮かべられるようになったし、余裕があるように振る舞うこともできた。初期刀の許しも出て、僕は近侍に任命された。
緊張を微笑みで覆い隠し、僕は久しぶりに彼女のそばに行った。初日の狼藉などなかったかのように振る舞う彼女に一抹の寂しさを覚えながらも、近侍の職務を務めた。

「髭切、顕現直後のことなんですけど…どうしてあのようなことを?」

休憩中、彼女がふと尋ねてきた。言おうか言うまいか迷っていた中で意を決して口を開いた様子が見て取れた。

「何か理由があったのかと思って…ごめんなさい、ずっと聞きたかったんですけど」

200年前と同じ目と視線がぶつかった。変わっていないところを感じてとても懐かしく、愛おしさが溢れた。抑えておくつもりだったけど、彼女が聞きたいと望んでいるのだから仕方がない。

「ずっと前から、君に伝えたいことがあったんだ」

「は、えっと…それはどういう意味ですか」

「200年間、君を見ていたよ。見て、焦がれてやっと出会えたんだ。あの時の僕は刀だったから、君に触れることができなかった。でも今は違う」

僕は彼女の手をとって頬に寄せた。体温が指先に伝わる。僕が焦がれた姿がそこにあった。

「君が好きだよ。ああ、やっと伝えられた」

記憶がなくても、君を手に入れたい。
いっそのこと、しるしを付けてしまおうか。
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