刀さに

「ねえ、髭切。あなたも夢を渡れたりするの?」

広報担当本丸の配信公演を観ながら審神者は近侍の髭切に声を掛けた。

「やったことはないねえ」

「そうだよね。あの本丸はいろいろと特殊だから」

「主はあっちの僕が本当に好きだよね。それ見るの何回目だい」

「だって、配信今日までだし見納めておかないと。今回倍率高くて現地取れなかったから。前の大型公演もすごかったんだよ。本当に運良く花道横の座席取れて、間近であの本丸の髭切見ちゃったんだから。推しにならないわけがないでしょ」

「そうかい、まあ主が楽しんでいるのならそれでいいよ。…運が良かっただけなのかは気になるけどね」

「髭切、最後何か言った?」

「何も言ってないよ」


⬛⬛⬛


「あれ?」

気が付くと、審神者は舞台の上に立っていた。
辺りは先ほどまで穴が空くほど観ていた公演の舞台セットに似ていた。
恐らく、視聴期限が切れるまで配信を観るつもりが途中で寝落ちてしまったのだろう。そのせいでこんなに鮮明な夢を見ることになったというわけだ。


「主、会いに来たよ」

ふと声が聞こえた。舞台袖の暗がりからぼんやりと浮かぶ白いシルエット。ライトに照らされるその姿は髭切だった。
角が生えていることを除けば、だが。

「どうしたの?僕だよ。君の大好きな髭切さ」

笑うと鋭い牙が見えた。
まるで鬼のようで、とてもうつくしい。騙される人間がいるのも無理はない。
ほう、と感嘆のため息が漏れた。

「ふ、あはは。駄目だよ、鬼は斬らなきゃ。そんなに見惚れられたらつい、食ってしまいたくなるなあ」

「だって…とても綺麗で」

「へえ」

猫のように細められた瞳孔は、捕食者そのものだった。手袋を履いた手が頬に触れる寸前、強く後ろに引き寄せられた。

「僕の主の夢で遊ばないでくれるかい」

「おや、そちらの僕も夢が渡れるのか」

「鬼切丸、別名髭切、主の時代ではそう呼ばれているからね。夢の中の鬼を斬るのは鬼丸国綱の役目だが、鬼が出る場所には僕も行ける。この場での鬼はお前のことだが、僕は源氏綱になれば良いのかな」

「随分と主にご執心のようだね。君も鬼になってしまうよ」

審神者を挟み、睨み合う2振りの髭切。
その2振りを交互に見比べながら審神者は呟いた。

「何この私に都合の良い夢」

「ん?」

「は?」

今度は髭切達が審神者を見つめた。審神者の目はきらめいている。

「おお、楽しそうでいいねえ。そんなに僕のことが好きなんだ」

「大好き!最推しなんです。好きになったのは双騎の再演の時なんですけど、本格的に沼落ちしたのは前回の大型公演です。花道真横の座席が取れて、間近で見てからになります」

「うんうん、あの時の君の視線心地よかったよ。僕だけを見ていてくれてありがとう」

「すみません、目が離せなくて。単騎のチケット取れなかったのが本当に残念です」

「そっか、君にも現地で観てもらいたかったな。今回は残念だけど、これからも応援してくれる?」

「もちろんです!こんなに素敵な夢が見られるなんて、明日からも仕事頑張れそう」

「ちょっと主、僕のこと忘れてない」

不機嫌な声とともに、審神者を引き寄せる力が強くなった。

「もう起きるよ。これ以上ここにいたら本気で斬ってしまいそうだからね」

「お前に出来るかな?縁は結んでいくよ。またね」

しまった、という表情の髭切が審神者の口を押さえようとしたが間に合わなかった。

「はい、また!」


⬜⬜⬜


審神者が目を開けると、そこは寝室だった。寝返りを打とうとして、右手を繋がれていることに気付いた。

「おはよう、主」

「髭切?どうしてここに」

「執務室で寝ていたでしょう。風邪を引くと大変だから勝手に運ばせてもらったよ」

「ごめん、ずっといてくれたの?」

「悪い虫が付かないようにね。現れたのは鬼だったけど。やっぱり斬っておけば良かった」

「ちょっと意味がわからないんだけど」

「こちらの話さ。もう夜も遅い、僕は自室に戻るけど、君も早く眠るんだよ」

「そうだね。迷惑かけてごめん、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

ふわりと笑った髭切は審神者の部屋から出ていった。


「まあ、鬼は斬るまで、だよ。ええと、確か」

因を斬り、縁を結ぶ

「君にとっての悪いモノは僕が全部斬ってあげる。だから、今は安心してお眠り」

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