刀さに
青天の霹靂
とは今のような状況を指すのだろうと思う。
連隊戦の報酬として審神者の元に贈られた刀、刀剣男士後家兼光は非常に親しみやすい性格を持って顕現した。新刃教育の一貫として一定の期間近侍を務めることが審神者の本丸での取り決めである。
その名の通り、近くに控えさせておくうちに審神者は後家兼光を異性として意識するようになってしまった。何かきっかけがあったわけではない。
気が付いた時には好きになっていて、夜に1人頭を抱えて悩むこともある。
本丸の皆はあくまで同僚として接している為、1振りを特別にすることはなかった。初期刀と初鍛刀に関しては多少の思い入れがあり、家族のように気安く接してしまうこともあるが、それは許容範囲なのではないかと思っている。
「こんなはずじゃなかったのになあ…」
ため息をついた。彼を思うと顔が火照る。仕事中は意識を切り替えられるが、1人になるとどうしても駄目だった。寝付けそうにない体を冷ます為、庭に出た。今の景趣は春の為、時々桜の花びらが舞っている。その中でも一際立派な桜の木の根元に座り、大広間から微かに漏れ聞こえて来る喧騒を耳にしながら審神者は心を落ち着かせる為に目を閉じた。
「主、風邪引くよ」
審神者の体温が一気に上がった気がした。
目の前にはこの熱の原因である後家兼光が立っていた。わずかにただようアルコールから大広間での宴会を抜け出してきたのだろう。
「廊下に出たら主がいるのが見えてさ、着いてきちゃった」
いたずらっぽく笑う彼は審神者の隣に腰を下ろした。距離が近くなり、清潔な石鹸の香りとアルコールが混じって酔ってしまいそうになる。どうかこの心音が聞こえていませんように、と審神者は祈った。
「心配してくれてありがとう。ちょっと桜が見たくなっちゃって。冷えない内に部屋に入るから、後家君は戻っていいよ」
「そう?じゃあ、ボクもしばらく主と一緒に桜見てようかな。女の子を1人では置いていけないからね」
「本丸内だし、大丈夫だよ」
「ごめん…ホントはボクが主と一緒にいたいんだ。駄目?」
不安げに首を傾げられては断れない。跳ねる心音を抑え、審神者は了承した。
「桜、きれいだね。こんなにゆっくりお花見するの久しぶりかも」
「そうだね…あ、主ちょっと動かないで」
後家兼光の手が審神者の髪に触れる。
「取れたよ、花びら付いてた」
「あ、ありがとう」
「顔赤いけど…大丈夫?そろそろ戻った方がいいかな」
「ち、違うのこれは…」
「違う…何が違うのかボクに教えてほしいな」
後家兼光は楽しそうに笑った。
その瞬間、審神者は自分の気持ちを全く隠しきれていなかったことを悟った。
「あはは、主はかわいいね。ボクのことが好きって全身で教えてくれる。すぐに真っ赤になっちゃう頬も、飛び出してしまいそうなほど速い心音も全部かわいい。ボクもそんな主のことが好きだよ。両思いだね」
「…ほんとに?主だからって気を使わなくてもいいんだよ」
「ひどいなあ…ボクの気持ちを疑うの?」
後家兼光は審神者を抱き寄せ、人間ならばちょうど心臓のある位置に軽く押し付けた。
「聞こえる?ボクの心音。不思議だよね、刀なのに人間みたいにドキドキしてる。君がいるからだよ」
「ほんとだ…少し、速いね」
「わかってくれて良かった。それでさ、ボクさっき君に告白したんだけど返事もらってもいいかな」
「あ、そっか。…私も後家君のこと好きだよ。私で良ければ、これからよろしくお願いします」
「君が良いんだよ。…そろそろ部屋に戻ろうか。送るよ」
短い帰り道、後家君に繋がれた手は燃えるように熱かった。
とは今のような状況を指すのだろうと思う。
連隊戦の報酬として審神者の元に贈られた刀、刀剣男士後家兼光は非常に親しみやすい性格を持って顕現した。新刃教育の一貫として一定の期間近侍を務めることが審神者の本丸での取り決めである。
その名の通り、近くに控えさせておくうちに審神者は後家兼光を異性として意識するようになってしまった。何かきっかけがあったわけではない。
気が付いた時には好きになっていて、夜に1人頭を抱えて悩むこともある。
本丸の皆はあくまで同僚として接している為、1振りを特別にすることはなかった。初期刀と初鍛刀に関しては多少の思い入れがあり、家族のように気安く接してしまうこともあるが、それは許容範囲なのではないかと思っている。
「こんなはずじゃなかったのになあ…」
ため息をついた。彼を思うと顔が火照る。仕事中は意識を切り替えられるが、1人になるとどうしても駄目だった。寝付けそうにない体を冷ます為、庭に出た。今の景趣は春の為、時々桜の花びらが舞っている。その中でも一際立派な桜の木の根元に座り、大広間から微かに漏れ聞こえて来る喧騒を耳にしながら審神者は心を落ち着かせる為に目を閉じた。
「主、風邪引くよ」
審神者の体温が一気に上がった気がした。
目の前にはこの熱の原因である後家兼光が立っていた。わずかにただようアルコールから大広間での宴会を抜け出してきたのだろう。
「廊下に出たら主がいるのが見えてさ、着いてきちゃった」
いたずらっぽく笑う彼は審神者の隣に腰を下ろした。距離が近くなり、清潔な石鹸の香りとアルコールが混じって酔ってしまいそうになる。どうかこの心音が聞こえていませんように、と審神者は祈った。
「心配してくれてありがとう。ちょっと桜が見たくなっちゃって。冷えない内に部屋に入るから、後家君は戻っていいよ」
「そう?じゃあ、ボクもしばらく主と一緒に桜見てようかな。女の子を1人では置いていけないからね」
「本丸内だし、大丈夫だよ」
「ごめん…ホントはボクが主と一緒にいたいんだ。駄目?」
不安げに首を傾げられては断れない。跳ねる心音を抑え、審神者は了承した。
「桜、きれいだね。こんなにゆっくりお花見するの久しぶりかも」
「そうだね…あ、主ちょっと動かないで」
後家兼光の手が審神者の髪に触れる。
「取れたよ、花びら付いてた」
「あ、ありがとう」
「顔赤いけど…大丈夫?そろそろ戻った方がいいかな」
「ち、違うのこれは…」
「違う…何が違うのかボクに教えてほしいな」
後家兼光は楽しそうに笑った。
その瞬間、審神者は自分の気持ちを全く隠しきれていなかったことを悟った。
「あはは、主はかわいいね。ボクのことが好きって全身で教えてくれる。すぐに真っ赤になっちゃう頬も、飛び出してしまいそうなほど速い心音も全部かわいい。ボクもそんな主のことが好きだよ。両思いだね」
「…ほんとに?主だからって気を使わなくてもいいんだよ」
「ひどいなあ…ボクの気持ちを疑うの?」
後家兼光は審神者を抱き寄せ、人間ならばちょうど心臓のある位置に軽く押し付けた。
「聞こえる?ボクの心音。不思議だよね、刀なのに人間みたいにドキドキしてる。君がいるからだよ」
「ほんとだ…少し、速いね」
「わかってくれて良かった。それでさ、ボクさっき君に告白したんだけど返事もらってもいいかな」
「あ、そっか。…私も後家君のこと好きだよ。私で良ければ、これからよろしくお願いします」
「君が良いんだよ。…そろそろ部屋に戻ろうか。送るよ」
短い帰り道、後家君に繋がれた手は燃えるように熱かった。
