刀さに

笹貫の場合


光をあまり写さない碧い瞳に見つめられたかと思うと、次の瞬間審神者は砂浜に立っていた。寄せては返す波の音以外何も聞こえない夕暮れ時の海は昼間と違って恐怖を感じる。

「海はちゃんと怖いからいいよね」

不意に耳元で聞こえた声とマリンの香りに審神者は弾かれたように逃げ出した。砂に足を取られて何度も転びそうになりながらも決して足を止めなかった。彼に捕まったら、終わりだ。

「捕まえた」

あれだけ必死に逃げたのに、彼の声はすぐ後ろにあった。抱き寄せられ、一層マリンの香りが濃くなる。

「やだ…助けて、笹貫。お願いだから、本丸に帰して」

「どうして?オレと一緒にいるのは嫌?」

「嫌!」

「そっか、でも主が悪いんだよ。オレの帰る場所じゃなくなろうとするから。もう海にも竹藪にも捨てられたくない。一緒にいてよ、ここでずっと」

「離して…助けて」

初期刀の名を叫ぼうとした口は笹貫によって塞がれた。濃い神気を取り込んだ体には力が入らない。倒れ込む審神者を抱き締めた笹貫は嬉しそうに笑った。


逃走失敗です

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