刀さに

審神者にはここ最近、頭を悩ませていることがある。

「主、そろそろ疲れてない?ちょっと休む?」

「後家くん…今日非番だよね。どうして執務室にいるの?」

そばに控え、甲斐甲斐しく審神者の世話を焼く後家兼光は本来ならこの場にはいないはずだった。今日は週に一度の本丸全体の非番日で、近侍の指名はしていない。緊急の要件があった時のために審神者はほぼ執務室にいるようにしているが、刀剣男士は内番担当の者以外自由に過ごすことになっている。

「自由に過ごしていいんでしょ?ボクは主のそばにいたくているんだから気にしないで」

「それはそうなんだけど…でも、ほとんど毎日ここにいるじゃない。上杉の子たちと過ごさなくていいの?せっかく再会出来たんだから、積もる話もあるんじゃないかと思って」

遠回しにやんわり出ていって欲しい旨を伝えた。普段はいいけれど、今日は他本丸の友人から電話が掛かってくる。久しぶりに取れた時間を審神者は楽しみにしていた。

「なして?ボクのこと嫌いなの」

後家兼光の顔から笑みが消えた。空色の瞳が真っすぐ審神者を射抜く。背中に冷や汗が伝った。

「えっと…ごめん。そんなことな「じゃあ、そばにいてもいいよね。良かったー、好きな子とはずっと一緒にいたいからね」

「好き…?後家君それって」

「あ、また言っちゃった。一言多いボクの悪い癖だなあ…もうちょっと黙っておくつもりだったのに」

はたから見れば見惚れるほど美しい笑みを浮かべ、後家兼光は審神者の手を取った。愛しくてたまらないというように頬ずりし、指先に口付ける。

「でも、まあいいか。主はボクのこと嫌いじゃないもんね。ということは、これから好きになってくれるってことだよね」

「ご、後家君…ちょっと待って。どうして私なの」

「ボクね、自分で言うのもなんだけど一途だよ。絶対に最期まで愛し抜いてみせるから、安心して。そんなに不安そうな顔しないでよ」

恐怖で震える審神者の体を抱きしめ、あやすように背中をさする。はじめは抵抗していた審神者だったが、どう藻掻いても逃げられないことを悟りやがて大人しくなった。

「うれしいな…愛してるよ、主」

まとわりつく『愛』の言葉は重りのように審神者を捕らえていった。
端末から着信音が鳴る。取られることなくしばらく鳴り響いていたそれはやがて静かになった。
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