刀さに

審神者の髭切は距離が近い。
顕現した直後、初期刀の制止を振り切って審神者に情熱的な抱擁をしたほどだ。

「会いたかった、やっと会えた」

とうわ言のように繰り返す髭切を引っ剥がし、鬼のような形相で怒った初期刀の姿は後にも先にもここでしか見たことがない。
それでも髭切はこりず、顕現後の数日は特に隙あらば審神者のそばに行こうとして初鍛刀に止められていた。
見かねた初期刀と初鍛刀により、1週間掛けて髭切の教育が行われた。おとなしくしていなければ今後審神者のそばに行かせないと忠告されていたということを風の噂で聞いた。
審神者の本丸の近侍は交代制で、おおむね1週間のローテーションだ。そして、優先して新刃が組み込まれる。

「では、今日から1週間よろしくお願いしますね、髭切」

「まかせておいてよ。それからあの時は悪かったね。主に迷惑を掛けてしまった」

教育を受けた髭切は驚くほど落ち着いていた。てきぱきと審神者の補助を務める姿はまるで別刃のようだった。
休憩中、髭切のいれてくれたお茶を飲みながら審神者は疑問に思っていたことを尋ねた。

「髭切、顕現直後のことなんですけど…どうしてあのようなことを?」

「それはね」

ふっと髭切の笑みが深くなった。遠い昔を懐かしむような優しい微笑みだった。

「ずっと前から、君に伝えたいことがあったんだ」

「は、えっと…それはどういう意味ですか」

「200年間、君を見ていたよ。見て、焦がれてやっと出会えたんだ。あの時の僕は刀だったから、君に触れることができなかった。でも今は違う」

髭切は審神者の手をとって頬に寄せた。体温が指先に伝わり、審神者の心臓がはねた。

「君が好きだよ。ああ、やっと伝えられた」

戸惑う審神者を見て、髭切は一層満足そうに笑った。
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