ニシンと海の怪物

むかし欧州のとある地方の小島に村があった。村人達は農業と漁業を兼ねて生計を立てていたのだが、ある年に凶作が起こり漁ですらなかなか魚が獲れない状況が続いていた。このままでは我々の生活がままならない、これは困った事態だと。
そんな中、あるとき沖合から「村に住む娘にアザラシの血を飲ませ、大潮の晩にその娘を捧げよ。それをすることで恵みをもたらしてあげよう。」と声が轟いた。これは海の神からのお告げに違いないと村人達は捕獲して殺したアザラシから取り出した血を娘に飲ませ、娘は海の神に捧げる生贄となった。それからしばらくして、村の沿岸には毎年大量のニシンが押し寄せるようになり村は豊かになった。
そして海の神から恵みをもらう条件にはもう一つある。生贄の儀式以降アザラシを殺してはならないと。村人はこの掟を守りながらニシンをありがたくいただいたのだった。
これだけ沢山のニシンがやってくるならもっとニシンを獲ってもいいだろうというのにアザラシを殺さない掟があるからには獲るに獲られない、そんな村の姿勢に対してニシンの取り引きを行う商人の中に納得できない者がいた。
村周辺の地域にはセルキーというアザラシの妖精が伝わっているが、セルキーの正体は罪人や堕天使の成れの果てとも言われている。セルキーが元々罪のある者であるなら殺しても問題ないのであろう。そう考えた商人は自ら雇う漁師にアザラシの駆除を命じ、アザラシを殺してしまったのだった。
それを知った村人達は怒りアザラシを殺したのかと商人に訴えたのだが、時すでに遅し。大嵐と共に大蛇のような巨大な怪物が海から現れて、村に襲いかかってきた。村は壊滅し、欲に駆られていた商人は怪物の餌食にされてしまった。村の壊滅後、今まで大量に現れていたニシンがしばらく訪れることがなかった。
村を壊滅させた怪物は様々な経緯を経て別の世界へ出現することとなるが、それはまた別の話。