スライムとの旅路


「!」

青年を見詰めていると、レイに抱き締められた。

そんな私達を見て、ランガもリムル兄様にピッタリとくっ付く。

「お待ち下さい、お兄様」
「!そこをどけ」
「いいえ、この方達は敵ではありません」

と、巫女姫が赤髪のオーガの前に出た。

「ボブゴブリンや狼達はあの方々を信頼して慕っているようです。何より、此方から仕掛けない限り、手は出して来ませんでした。これらはオーク共を率いていた魔人の有り様とは、あまりに違うように思うのです」

巫女姫は赤髪のオーガを説得する。

「よく考えろよ。この娘が本当はどっちを庇おうとしてるのか。なぁ、若様?」
「む…」

……漸く話が通じそうになったね。

「もうこれいらないよな」
「「∑!?」」

リムル兄様は黒炎を吸収し、ランガの上に乗った。

「今、何を…っ」
「捕食したんだよ。あんなのテキトーに投げたら死人が出るだろ」
「ちゃんと処理も考えてるなんて、流石リムル兄様」
「まぁな」
「…結局何者なんだ、お前達は?」
「俺?俺はただのスライムだよ。スライムのリムル」
「私は異世界人のレオン」
「に、お仕えする月光狼です」

言いながらレイは狼の姿になる。

「…取りあえず、スライムだと?馬鹿な。いくらなんでも」ぽょよん
「∑∑ええっ」

リムル兄様もスライム姿に戻った。

「ほ…ほんとに…」

オーガ達は驚いた様にリムル兄様を見詰める。

「ちなみにこの仮面はあるひとの形見で、今朝俺の手元に戻ってきたばかりだ。なんならお前らの里を襲ったヤツのと、同種のものか改めてもらって構わない」

そう言い、リムル兄様はシズさんの仮面を彼等に差し出した。

「ホレ。汚すなよ」
「あ、ああ…」

シズさんの仮面を受け取り、彼等はマジマジと見る。

「似ている気はするが…」
「これには抗魔の力が備わっているようです」
「しかしあの時の魔人は妖気を隠してはおらなんだ」

つまり……

「「「……」」」

彼等の視線にふんぞり返るリムル兄様。

「──申し訳ない。こちらの勘違いだった。どうか謝罪を受け入れて欲しい」
「うむ、苦しゅうない」

謝罪に対し、あっさりとリムル兄様は受け入れた。

「リムル兄様、手当をしても?」
「ああ、頼んだ」
「リザレクション」
「「「「!?」」」」」
「…………!」

手っ取り早く範囲の治癒術でオーガ達を癒す。

「「「流石リムル様!」」」
「お、おう。オーガ達、大丈夫か?」
「はい。回復魔法のおかげで…」
「よく出来ましたっと。よし、じゃあ全員で町に戻るか」
「はっ」

態々手の形を作って頭を撫でてくるリムル兄様。

……最近撫でるのにハマってるかな?

「全員て、俺たちもか」
「そうだよ。いろいろ事情も聞きたいしな。飯くらい出すよ」
「招待はありがたいが…そちらの仲間を傷つけようとしてしまったが」
「そりゃお互い様で、レオのおかげで未遂だからな。それに今日、うちは宴会なんだ。人数が多い方が楽しいだろ?」
「リムル兄様、私は先に行ってリグルド達に伝えておく」
「おー頼む」
「レイ」
「はい!」

月光狼の姿のままなレイに乗り込んだ。

それから、私は一足先に先に戻る。

そんな私を青年が見詰めていた。







それから夜になると、宴が始まる。

人型を得た事でリムル兄様にも味覚が出来たらしく、兄様もゴブリン達もオーガ達も楽しそうに笑っていた。

その様子を端っこの席で見ている。

そんな私の隣にはレイ。

もう片方には……あの青年、ルイスが座っていた。

「他のオーガと一緒でなくていいのかい?」
「向こうは向こうで楽しむだろ」

実は宴の料理を作る途中、彼が合流して一緒に食事を作ってくれ、名前はその時に知った。

「よ、レオの兄ちゃん」
「カイジン」
「ここいいかい?」
「構わないけど……此処のじゃ、足りないんじゃないかな」
「俺は酒が主役だからな。これくらいがいいんだ」
「私も失礼しても?」
「ああ」

やって来たのは、カイジンとリグルド。

私達の前に置かれているのは、どちらかと言うとつまみ料理。

メインはレイが食べている。

「これはまた、肉とは違う美味しさ。流石レオさん」
「へぇ、こりゃ酒に合うな」
「口に合って良かった」
「…にしても、変わったな」
「?」
「髪と左目さ」
「確かに。変わられましたな」
「……ああ、流石に私も驚いた」

二人に言われて、髪を摘まんだ。

リムル兄様に指摘されて初めて知った姿。

まだちょっと違和感がある。

「んー……リムル兄様達に名付けて貰って、覚醒したのかもね」
「成る程な。にしても、旦那が羨ましいぜ」
「?」
「こんな可愛い弟が居てよ」

カイジンにも弟が居たっけ。

可愛くは……ないかな。

「……弟、か」
「ん?もしかして、ルイスも兄弟が居るのかな?」
「まぁ……いや、俺のことはいい」

そう言って視線を逸らすルイス。

そんな彼を見ていると……

「此処に居たのか」
「ん?オーガの…」
「…………」
「ちょっと邪魔させて貰う」

空いている所に赤髪のオーガが座った。

「……お前、死にたがりって言ってたな」
「ああ」
「俺たちがそう見えたのか」
「そうだね……もし、君が何かしらの目標を持っているのだとしたら、あの時逃げるべきだった」
「………」
「何か、果たしたい事があるんだろう?」
「……ああ」

赤髪のオーガが、詳しい事情を話し始める。

豚頭族オークが大鬼族に仕掛けただって?そんなバカな!」
「事実だ」

カイジンが驚きの声を上げ、それに赤髪は冷静に返した。

「武装した豚共数千の襲撃を受け、里は蹂躙し尽くされた。300人いた同胞はもうたった6人しかいない」
「信じられん…あり得るのかそんなこと…」

……リグルドも驚いてる。

そんなにオークがオーガを蹂躙するにはおかしいのか。

「そんなにおかしいことなんすか?」
「ゴブタ」

と、リグルドの脇からゴブタが肉を咥えて出てきて、彼等に聞いた。

「当然だ。オーガとオークじゃ、強さのケタが違う。格下のオークが仕掛けること自体あり得んし、全め「全滅じゃないよ」お、おう」
「ああ…まだ俺たちがいる」
「まぁ、勘違いで犬死してたら全滅だったけど」
「ぐっ…」

……この赤髪、結構分かりやすい。

記憶と痛みを取り戻した彼並みに。

「つまり、君達はそのオークに故郷と仲間を奪われ、此処まで逃げて来た……と」
「………ああ」
「なるほど、そりゃ悔しいわけだ」

と、そこにリムル兄様が混ざる。

「肉はもういいのか?リムル殿」
「ちょっと食休み。レオのも食べたいし」
「軽いつまみでもいいかな?」
「おう」

残っていたつまみをリムル兄様に差し出した。

「お前の妹すごいな。薬草や香草に詳しくて、あっという間にゴブリナ達と仲良くなった」

リムル兄様の言葉に、ゴブリナ達に囲まれてる巫女姫を見る。

「…箱入りだったからな。頼られるのが嬉しいんだろう」

 『ああ、任せたぞ。レオンハルト』
 『頼んだわよ』
 『よろしくね!』
 『任せたぜ!』
 『頼りにしてるぞ』
 『ふむ、ならば君に任せよう』

……確かに。

頼られるのは、嬉しい事だったな。

「で、お前らこれからどうすんの?」
「どう、とは?」
「今後の方針だよ。再起を図るにせよ、他の地に移り住むにせよ、仲間の命運はお前の采配に掛かってるんだろ?」
「…知れたこと。力を蓄え、再度挑むまで」
「当てはあるのか?」
「……」

赤髪は酒を飲みつつ……目を逸らした。

……ノープラン、か。

「提案なんだけどさ。お前達全員、俺の部下になる気はあるか?」
「は?」
「ま、俺が支払うのは衣食住の保障のみだけどな。拠点があった方がいいだろ?」
「しかし、それではこの町を俺たちの復讐に巻き込むことに…」
「……君、思ってたより甘いんだね」
「え?」
「詰めもだけど」
「………」

彼女の様に。

仲間が居る、というのはいい事だね。

「リムル兄様、続きを。此方の利益もあるんだよね?」
「おう。レオの言う通り、別にお前達のためだけってわけじゃない。数千の、しかも武装したオークが攻めてきたんだって?そりゃ、どう考えても異常事態だ。この町だって決して安全とは言えないだろうな。そんなわけで、戦力は多い方がこちらとしても都合がいい」
「…なるほど」

確かに、オークの実力が不明な今……戦力は出来るだけ確保した方がいいだろう。

「……」

赤髪は考える様に視線を逸らす。

「…悪いが少し考えさせてくれ」
「おう、じっくり考えてくれ」

赤髪が離れて行った。

一人で考えるつもりなんだろうな……。

「…………」
「あ」

と、ルイスも離れていく。

赤髪が来てから、彼を気にするように視線を向けていたし……彼の元に行ったのかな。

「リムル兄様」
「ん?」
「ちょっと疲れたみたい。少し風に当たって、そのまま休むよ」
「大丈夫か?」
「ああ。リムル兄様は楽しんで」
「ありがとな」

そうリムル兄様に言い、私は宴の席から離れる。

そんな私にレイが付いて来る気配がした。

私は寝床ではなく、小さな丘に向かう。

「ルイス……?」
「……お前か」

そこには、意外にもルイスが居た。

てっきり、赤髪の所に行ったのかと思っていたけど……

「こほっ」
「主!」
「!大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だ……幼少期に比べれれば」

耐えきれず咳き込むと、ルイスが私の背を擦りながら座らせる。

「どうかなされましたか?」
「ん?」
「彼奴の話を聞いてる時、一瞬ですが微笑みが消えました。何かあったのではないかと…」
「……オーガにとってのオークが、私に当て嵌めるんじゃないかと思ってね」
「?」

私は首を傾げるルイスにどう生きてきたか、どういう立場だったか話す。

「だから、ダナから見た私は、オーガから見たオークと同じなのではと……」
「……お前はどうしたんだ」
「え?」
「お前は、そのダナに何をしたんだ?」

そう言われ、思わず目を逸らした。

「……何も」
「何も?」
「幼少期に私の面倒を見てくれたのは、ダナの人だから。勿論、レナも何人か居たが……父上が好んだのは、戦闘向きの人だからね。城仕えのダナが私の面倒を見てくれた………だから、ダナに手を出す事はなかった。助ける事も出来なかったけど」
「だからか」
「?」
「お前があっさり仇と言えるダナに簡単に連れ出されたのは」

そうだね……父上が討たれた時点で自殺を考えたし、連れ出された事を初めは意味分からないと思った程度だったな。

「……少なくとも、そのダナの中には救われた奴も居るだろう」
「そう、だろうか」
「ああ……お前の過去を聞いたんだ。俺も話そう」

言いながら、ルイスは自分の髪を耳に掛ける。

「俺は……此処とは違う世界から来ている」
「!君も?」
「とある世界に居たが、気付いたらオーガの里の直ぐそばで倒れていた。それで、オーガに助けられて、此処まで一緒に来た」

それからルイスの話を聞いた。

ルイスは元々いた世界から更に違う世界に大怪我の状態で転移したらしい。

そこで手当てを受け、閉ざしていた心を弟分に救われ……そして、使命を果たしたその弟分を待っていた所、気付いたらこの世界だったそうだ。

「俺がオーガと行動を共にしているのは、助けられた恩を返す為だ」
「返したら?」
「元の世界に帰る方法を探す。待ってると、約束したからな」

そう言って、初めて笑みを見せるルイス。

よほどその弟分が大事なんだな。

「彼奴は俺にとって、生きる光をくれたからな」

そう言う彼の願いを叶えたくなった。

「私も手を貸す」
「だが……」
「その代わり、私の友人になってくれ」

私の言葉に、ルイスは目を瞠る。

私には、立場上友人が居なかった。

彼等も、仲間で兄姉の様なものだったから。

だから、彼と友人になりたいと思った。

「……別に構わないが」
「では、私から友人の証として贈らせてくれ」
「?」

リムル兄様から玲音の名を貰った様に……

「君は……」





翌日。

「「「「「レオ殿!」」」」」
「みっ!?」
「可愛……主を驚かせるな!オーガ!」
「大丈夫か?レオ」
「驚いただけ……あと、忘れて」

咳が朝から出てた事で休んだ私の元にオーガ達が駆け込んで来た。

名付けの影響かな……

「溶けた!」
「名付け!」
「リムル様!」
「??」
「名付けでリムル様が溶けたのでは?」
「……ああ、成る程。ちゃんと回復するから安心して。一応リグルドには伝えておいてくれるかな。赤髪の……」
「紅丸。俺は紅丸だ」
「私は朱菜です」
「紫苑です!」
「……蒼影」
「オラ、黒兵衛だぁ」
「白老ですじゃ」

成る程、オーガ六人に名付けしたんだね。

「改めて……瑠澄だ」

こうして、町はまた少し賑やかになった。




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