スライムとの旅路
「……所で、何時まで見ているおつもりですか?」
「?」
「あー……えーっと」
後ろを見ると、ランガに乗ったリムルとシズさんが居た。
「聞いてた?」
「うん…まぁ…」
「リムルは、私みたいなのは嫌いかな」
「そんな訳ないだろう。俺にとってもレオはレオだよ」
「…………」
リムルの言葉に思わず笑ってしまう。
「他の家族はいないの?」
「幼い頃にダナに降り立ったから、他のテルディリスの人達と面識がない」
「じゃあ、身内は……」
「居ない、みたいなものかな」
「そっか…」
ランガから降りたシズさんが私の頭を撫でた。
「(もし、私に時間があればこの子も……でも、この子の事は彼に任せましょう)」
「……シズさん」
「ん?」
「私の本来のフルネームはレオンハルト・アゴーニ・テルディリス」
「「(長…)」」
「シズさんさえ良かったら、シズさんからも名前欲しい」
「!」
「私は今まで父の……
「…………」
そうシズさんに言い、私はレイル……レイの手を掴む。
レイは不思議そうにしながらも握り返してくれた。
それに微笑んだ時……
ゾクリ…
嫌な予感がし、レイを引っ張りリムルの側に。
「シズさん?」
「「主!」」
嫌な気配の元はシズさん。
何か感じたのか、レイとランガが私とリムルの前に出る。
カラァン
その時、シズさんの仮面が落ちた。
直後……
ゴォォオォ
彼女から火柱と凄まじい殺気が放たれる。
その光景に、私は固まった。
「おおい、リムルの旦那ー!」
カバルさん達が駆け寄って来る気配がする。
「なんかすげえ火柱が見えたけど…げ!?あれ、シズさんか?何がどうなって…」
「ん?」
「どうしたのギド?」
「シズ…シズエ?シズエ・イザワ?え、まさか、あの…??」
声は聞こえてるし、理解は出来てる……けど、動けずにいた。
「!危ない!!」
ボゴォッ
「うわわっ」
彼女が指をクイッと上げた直後その目の前が焼かれる。
「……は……っ」
「主?」
呼吸が乱れていき、気付いたレイが私の背を撫でてくれた。
「ま、間違いありやせん。彼女は爆炎の支配者シズエ・イザワ。イフリートを宿す最強の
爆炎の支配者……
「イフリートぉ!?めっちゃ上位の精霊じゃねーか!!」
「冗談でしょ!?伝説的英雄じゃない!!」
脳裏に、父上の姿が過る。
「あんたら、さっさと逃げ──「そんな訳にいかねぇよ」」
「あの人がなんで殺意を剥き出しにしてんのか、知らねーが」
「俺達の仲間でやすよ」
「ほっとけないわ!」
「わかった、気をつけろよ。レオは………おい、大丈夫か!?」
「はぁ……っ……」
「(そうか、レオの父親は……)レイル、レオと一緒に下がってろ」
「あ、ああ……分かった」
レイは私の肩を抱いて距離を取った。
「ハナ…レテ」
「!!」
「オサエキレナイ…ワタシカラ…ハナレテ…」
視線を上げると、シズさんが自分の体を抑える様に抱えている。
「心配するなシズさん。あんたの呪いは俺達が解いてやる。任せろ」
リムルの強い言葉。
それに、シズさんは一度目を瞠り……
「オ…ネ、ガ、イ」
そして、安心した様に目を閉じた。
「勝利条件はイフリートの制圧とシズさんの救出だ」
「はは…まさか過去の英雄と戦う日が来ようとはね」
「人生何が起こるかわかりやせんね」
「行くぞ」
……情けない。
「……リムル」
「レオ、無理はすんな」
「ごめん、今の私はちゃんと戦えない。だけど、サポートはする。森の事は心配しないで」
「おう。ありがとな」
そして、シズさんの姿が完全にイフリートの姿になる。
「念のため聞くぞイフリート!お前に目的はあるか!?」
リムルがそう言った直後、イフリートは左手を上に向けた。
「!?」
そこに出現する幾つもの炎の球。
森に火が移らない……壁の様なものを。
吸収力をつけて……
キュドン ドン ドドン
「主!」
「大丈夫」
生成したのは魔方陣。
その魔方陣を複数生成し、当たった炎を吸収する。
「よくやった、レオ。レイルはレオを護れ。ランガお前は回避に専念しろ」
「御意!」「はい!」
ランガが駆け抜けていくのを見送りながら、私は魔方陣の生成に集中した。
「おい、お前達無事か!?」
「「「レオさんのお陰で!」」」
カバル達の前にも魔方陣を出した事で、炎から護れているみたいだ。
途中、リムルがイフリートに水刃を放つが、それは直前で蒸発する。
炎が熱過ぎる?
それとも、物理攻撃だから?
「!!」
そんな事をしている間にイフリートが分裂した。
「
と、エレンが魔法らしいのを使って分身を倒した。
魔法なら倒せるみたいだ。
それに分身体は脆いのか……。
「ランガ!」
「はっ」
「もういっちょお…水氷大魔槍!」
その時、リムルがエレンから放たれる魔法の前に飛び出す。
「ちょっ、リムルさん!?」
それに彼等がぎょっとする中、リムルは魔法を捕食した。
「うぇえ!?私の魔法、どうなっちゃったんですかぁ!?」
「……此れで終わりかな」
リムルの勝ちでね。
「よし!
幾つもの氷の塊が残りの分身を全て消し去る。
「えええ!?なに今のアレンジ!!」
「進化させたみたいだね」
「流石リムル殿です」
「残るはテメーだけだ、イフリート」
「……」
雰囲気が変わった……イフリートも本気で殺るつもりだな。
「…
リムルの下に魔方陣が浮かび、直後彼は炎で包まれた。
「主よ!!」
……大丈夫、リムルには耐性がある。
私はあくまで被害を抑えるだけ。
「…………?」
リムルが動かない?
どうしたんだ?
「!!」
数秒後、炎の中から糸が飛び出してイフリートに巻き付いた。
「悪いな、イフリート。俺に炎は効かないんだ」
……まさかとは思うけど、炎への耐性を忘れていた……とか言わないよね?
リムルが跳ぶ。
「シズさんを返してもらうぜ」
そして、動揺でイフリートの動きが止まっている隙に、リムルはイフリートを呑み込んだ。
「レイ」
「はい!」
シズさんの体が解放され、リムルの上に落ちる。
それにレイが彼女が落ちない様に支えた。
「スライムさん…ありがとう」
リムルはその言葉に優しい表情をする。
「…………」
……シズさんの体からイフリートが消えて……シズさんの寿命は……
シズさんが眠りに就いて一週間が経った。
その間、リムルは彼女の側に居続けている。
そして、あの日。
私は生成したシズさんの服を持ち、リグルドと途中で合流したカバル達とお見舞いに向かっていた。
「リムル様、失礼しま──…!?」
扉の先の光景に、私達は固まる。
「え…何!?裸の女の子!?」
「え、誰!?」
「え!??」
其所に居たのは、水色の髪の裸の子供?だった。
もしかして……
「リムル様、そのお姿は…」
「「「え!?えええ!?」」」
やっぱり、リムルだったんだ。
「この子が…リムルの旦那!?」
「……取り敢えず、服を着た方がいいかな」
一先ずリムルに服を渡す。
リムルが着替えてから、色々と説明を聞いた。
シズさんは一度目覚め、リムルと話した後逝き……その体をリムルが捕食したらしい。
「そうか…シズさん。逝っちまったのか」
「というかあんた…本当にリムルの旦那なんでやすか?どうにもその…なんか、ちっこいシズさんぽいっつーか…」
確かに外見は幼いシズさん。
髪は水色で瞳は金色になってるけど。
「本当だよ、ホレ」ぽよ
「おお!」
リムルがスライム姿に戻る。
「ふへー」「見事なもんでやすね…」
「……」
「?エレン?」
騒ぐ男性陣の一方、エレンはそっぽを向いていた。
「…シズさんを食べたの?イフリートを食べたみたいに」
声を掛けられたエレンは何処か泣きそうな表情で言う。
「…それが俺にできる、唯一の葬送だったからね。仲間のお前達に相談もなく悪かったな」
「いや…それがシズさんの望みだったのなら、仕方ないさ」
「すまんなエレン。割り切れないかもしれないけど」
その言葉にエレンは首を横に振った。
「最期にお別れの挨拶くらい言いたかったな」
「シズさんは最後の旅でお前達と仲間になれて楽しかったって言ってたよ。ちょっと危なっかしいとも言ってたけどな」
「あーーね…」
「∑おいコラなにこっち見てんだお前らっ」
「だってねぇ」
それから彼等はぎゃいぎゃいと騒ぐ。
そんな彼等を一瞥し、私は外に出た。
……シズさん……安からに、ゆっくり休んで。
「レオ」
「!リムル?」
「シズさんがな、お前の事も気にしてたんだ」
「……そう」
「それでさ、お前さえ良かったら俺と家族にならないか?」
その言葉に思わず固まる。
「私がリムルの?」
「おう。嫌か?」
「……いや、凄く嬉しい」
「よし」
「テンペストの名を……貰えるかな」
「ああ」
「……私の名は、レオンハルト・アゴーニ・テルディリス……此れからは、レオン・テンペストと名乗らせて貰う」
……?
何だか、力が……
「レオン、か」
「?」
「レオンはシズさんを追い詰めた魔王と同じ名前だからさ……よし、玲音」
「れおん」
「そ。同じだけど、俺達の故郷の言葉を当て嵌めて
「ヒバリ……?」
「シズさんがお前に送った名前」
ヒバリ……。
「ありがとう……えっと……リムル兄様」
「(に、兄様……って、可愛いなチクショウ!)」
この時、私の中で何か満ちていく感覚がした。
その意味が分かったのは……翌朝の事だった。
end.