スライムとの旅路
あれから数日。
一気に人数が増えた事で、初めのゴブリン村では狭くなってしまい、私達は引っ越す事に。
今はカイジン達を中心に、街作りをしている。
そんな中……
私は周囲の散歩に出ていた。
私の一歩後ろをレイルがついて来ている。
「まさか追い出されると思わなかった」
「主は働き過ぎなんですよ」
カイジン達の手伝いをしていただけなのに「働き過ぎー!」って追い出された。
父上の時と同じ様にしてただけなのに……
「うおおぉおおおおおお」
「「!」」
声が聞こえ、思わず足を止める。
「「「「!?」」」」
直後、四人組が飛び込んできた。
「に、逃げろ!!」
「?」
「あれは……」
彼等の背後から巨大な蟻が出てくる。
「主、お下がりを……」
「剛・魔神剣!」
「!」
黙視すると同時に武器を出して攻撃した。
「レイル、私に近付けさせるな」
「はい!」
「来たれ爆炎 焼き尽くせ……バーストライク!!」
巨大な蟻が炎に飲み込まれる。
……何か、弱い。
まぁ、私自身元の世界でそれなりに経験値を積んでるし……
「くっ」
「まだだ!もう一匹後ろ!」
「主」
「ああ、手を出さなくていい」
もう一匹居るのも……リムルが上から近付いて来るのも分かった。
「──伏せろ」
「!」
「「!!」」
レイルが私を抱き寄せる。
ガラアァァ
直後、後ろに黒い稲妻が落ちた。
って……
「あんたら大丈夫か!?」
「問題ない」
「……やり過ぎ」
レイルが私を放し、軽く服を払ってくれる。
……私だって、彼処までしてないよ。
「今の黒い稲妻…みたいだったよな?」
「一体誰が…」
「うおおお、びっくりした…手加減したのに…威力あり過ぎだろ。このスキルも封印決定だな」
土煙が消え、仮面を付けたリムルが姿を現した。
……ああ、あの仮面は女性のか。
「…スライム?」
「∑む。スライムで悪いか」
「∑∑あ、いや…」
「何脅かしてるんだ、リムル」
「ほら、仮面。そこのお姉さんのだろ?………レオ」
「……別にいいけど」
リムルを抱え上げ、女性の方に向ける。
そうすれば、仮面は女性の手に渡った。
あれ、この人……
「すまんな。使い慣れないスキルだったんで加減がわからなかった。ケガしなかったか?」
「ええ…大丈夫」
「!」
「助かったよ、ありがとう」
リムルの運命の人……爆炎の支配者、シズエ・イザワか?
それに……何か混ざってる。
何かは分からないけど、城に居る時にいつも感じていた様な……
「はあぁぁあ…」
と、助っ人に入った人間達の一人が座り込んだ。
「どうした?あんた達はどこか怪我でもしてるのか?」
「いや、精神的な疲労っつーか…」
「あっしら3日も
「「「3日……」」」
3日も追い掛け回されるとか……何したんだ?
「荷物は落とすし、振り切ったと思って休めば寝込みを襲われるし」
「装備は壊れるしぃ、くたくただしお腹ぺこぺこだしぃ」
やいのやいのと言っている三人。
私達は視線を交わして苦笑し、リムルを見る。
「仕方ないな。簡単な食事でよければご馳走するよ」
「「「え?」」」
招待する事にしたんだ。
リムルの考えを察して、私は彼等に背を向けて歩き出した。
「スライムさん達、この辺に住んでいるの?」
「そうだよ。引っ越したばっかでさ、この先に町を作ってる途中なんだ」
「仕切ってるのはリムルだよ。住人は殆どゴブリンだね」
「魔物が町!?」
「怪しい…」
「でも悪いスライムじゃなさそうでやすよ」
「リムル殿は無駄に襲う方ではありません」
まぁ、普通は怪しむよね。
「俺はリムル『悪いスライムじゃないよ!』」
「ぶ」
リムルの台詞っぽい言葉にシズエ?が吹き出す。
それにリムルと彼女以外首を傾げた。
「どうしやした、シズさん」
「いえ、なんでもない。それより」
「?」
彼女が歩み寄って手を差し出したの見て、リムルを渡す。
「お邪魔しよう。この子はきっと信用できる。町はこっち?」
「あ、ああ」
そして、歩き出した彼女達。
私はレイルと視線を交わし、そのまま付いて行った。
「…………」
「どうかなされましたか?」
「……いや、懐かしい気配がしただけ」
やっぱり懐かしい感じがする。
じゅぅううう
「あーーーっ」
少し離れた所で焼肉をしている冒険者達。
その中のエレンという少女が声を上げたので振り返った。
「ギド、ひどーい!よくも私のお肉を!!」
「食卓とは戦場なんでやすよ。エレンの姉さん」
「いいわよぅ、じゃあカバルのもらうから」ひょいパク
「ギャーー!!丹精こめて育てた俺の肉がーーー!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ三人。
……元気だなぁ。
「……リグルド、悪いけどが追加の肉を用意しておいてくれ」
「…賑やかな連中だな」
「スライムさん、スライムさん。焼けた鉄板触れてるよ?」
「∑」じゅうぅうぅ
リムルの体の一部が鉄板に触れ、いい音がする。
「レオ~」
「はい、水」
「サンキュ…溶けるかと思った」
「そうならなかったとこみると、熱に対する『耐性』があるのかな?」
カップに入れた水を渡せば、器用にリムルが飲んだ。
「『耐性』?」
「異世界から渡ってくる者はその際、強く望んだ能力を得る。それが『スキル』だったり『耐性』だったりするの」
私も異世界から来てるから、スキル『生成者』を手に入れたのか。
というか、リムルも異世界から?
もしかして……元は異世界の人間で転生した、とかかな。
「前世は刺されて死んだんだけど」
「∑(刺されて!?)」
あ、正解かな。
「その時、背中が熱いとか血が抜けて寒いとか考えてたから。それで手に入れたんだろうな」
「そっか…大変だったんだね」
「まぁな」
二人はそんな事を話しながら茶を啜る。
「…あ、コレ美味しい。お茶なんて久しぶり」
「リムルがこっちの方がいいって。茶葉にハマってた時期があったから、幾つか持ってる」
「そうなんだ。ありがとう」
ポンッと頭を撫でられた。
久々の感触に、思わず呆気に取られる。
「君も異世界から来てるのかな?」
「あ、ああ……異世界で、ギガントズーグル……こっちで言う大きな魔物に襲われて、気付いたらリムルに助けられてた。多分君達とはまた違う世界だと思う」
「そうなんだね。大変だったんじゃない?」
「……へーき……」
「(撫でられて嬉しいのか?可愛いな…)」
少しだけ照れてしまった。
頭撫でられるなんて、何時振りだろう……。
「シズさんだっけ、あんたも苦労したんじゃないの?」
「シズ、さんって、炎系の力使える?シズさん
から炎の力を感じる」
「そうなんだ。それはこっちに来る時に望んで得た力なのか?」
「…いいえ、違う。炎は私にとって呪いだから」
「…………」
「どういうことだ?」
「私が元の世界で最後に見た光景は、辺り一面の炎」
シズさんが仮面を外しながら言う。
「とても怖い音が鳴り響く中、住み慣れた町は紅蓮に染まっていた」
『父上!!』
『────』
「…もしかして空襲か?」
「多分、そう。東京大空襲って言われているんでしょ?私の教え子…その子も日本出身なんだけど、歴史の授業で習ったらしいね」
「そうか。それで転生してこっちの世界に──」
「ううん。私は死んでないよ」
シズさんの言葉にリムルが驚いたのが分かった。
私は視線を落として、話を聞いている。
「ある男に召喚されたの。でも男が本当に召喚したかったのは別の誰かだったみたいで、とても落胆した様子だった。だから、すぐ私に対する興味を失ったようだけど。ふとした気紛れからか、彼は私に炎の精霊を憑依させた。それは炎を操る力をくれたけど…同時に呪いでもあったの」
……それが、私が感じた炎の力の正体か。
「この力…炎のせいで──私は大切な人達を失ってしまったから。だからかな、人と親しくなるのは少し怖かったんだけど。やっぱり仲間っていいね。最後の旅で楽しい人達と出会えたもの。彼らはお互いを信頼してるし、遠慮なくケンカもするし。いい冒険者だよ。ちょっとあぶなかっしいけどね」
微笑むシズさん。
「…………」
……強いな。
「レオ?」
「食後の散歩して来るよ。シズさん、ゆっくりしていってね」
「え、ええ……」
私はその場を後にした。
「主、どうかされましたか」
直ぐに追い掛けてきたレイル。
「……私は……私の大切な人も、炎で亡くしたんだ」
「!!」
建設中の街から少し離れた所に座り、少しの間無言で地面を見詰めてから話し始める。
「私は……母の顔を知らない。私が物心着く前に居なくなってしまったらしい」
「居なくなった…?」
「ああ。だから、どんな人だったか知らないし、名前すら知らない。父上もあまり話してくれなかった……その父を炎で亡くした」
私は襟元の布を取った。
「!」
レイルの目が首元で留まる。
私は……其処にある火傷を撫でた。
「私の父は
「スルド?」
「……私の故郷、レナは300年前にダナという隣接する星を侵略し、其処に住む人々を奴隷にした」
「…………」
「領将というのは、レナの王を決める為に奴隷であるダナ人を犠牲にして星霊力を集める……領主の様なものだ」
レイルは無言で私の話を聞いている。
「レナ人によるダナ人の扱いは最悪だった。だが、搾取され続けたダナの中にも自由を手にしようと立ち上がる者達が居た。その一部のダナ人が城に来て……私は、そのリーダーの相手をしていた。その間に、ダナの切り札が父上の元に行き……父上との戦闘の中で、父上が集めていた星霊力が暴走したらしく、炎の魔人と化した」
遠くからでも分かった……巨大な炎の魔人。
私はその姿に嫌な予感がして、戦いを放棄して走り出した。
まぁ、駆け付けた所で……
『お前の出る幕ではない!!下がっていろ!』
と、叱られて見ている事しか出来なかったが。
「切り札と父上の戦いで……切り札の一撃に父上が飛ばされ……思わず飛び出した。直ぐに父上に弾き出されたが、この火傷は炎の魔人に一瞬触れた為に出来たものだ。その時、父上は魔人に掴まれて焼け死んだ」
「主……」
「その後、色々あって旅に連れ出されて沢山経験して……真実も知って、今の私が出来た。とはいえ、私の罪は消えない。こんなのが本当に君の主でいい…「当然です」…!」
「俺の主はレオ様です。誰がなんと言おうと、貴方の過去に何があろうと……俺と出会うまで、生き延びて下さり、ありがとうございます」
そう微笑み、私の両手を取るレイルに……思わず泣いてしまいそうになる。
「私……俺こそ、ありがとう……レイ」
「はい!」
.