スライムとの旅路


「それでな、旦那。村に来ないかと誘ってくれただろ?あれなんだが…」
「あ、ママさんさっきの美味しいのおかわりもらえる?」
「お、おい旦那!?」
「スライムさん、味わからないんじゃなかったの?」
「キレイな人にお酌してもらえたら、何でも美味しく感じるんだよ」
「あら上手」

……リムルは無理に誘うつもりは無い感じかな。

「ねぇねぇ、スライムさん。これやってみない?」
「ん?」
「これ!」

一人の褐色のお姉さんが水晶玉を持って来た。

「私、これ得意なんだよ?けっこうすごいって好評なんだから」
「へ、へぇ」
「…………水晶玉だから、占い?」
「そう!占いよ」

占い……こういうの、本当に当たるのかな。

「何を占ってくれるんだ?」
「そうねぇ、何がいい?」
「スライムさんの『運命の人』とか!」
「あ、それいいかもー」

リムルの運命の人、か……。

運命となると、リムルの此れからに大きく関わる人って事だよね。

「あ、映った!」

映ったのは子供に囲まれた黒髪の女性。

女性は微笑んでいるが、子供達は辛そうな表情をしていた。

……誰、だろう。

「おい、その人もしかして…爆炎の支配者、シズエ・イザワじゃねえか?」

シズエ?

「有名なのか?」
「自由組合の英雄だよ。見た目は人間の若い娘さんだが何十年も活躍してたんだ。今はもう引退してどっかの国で若手を育ててるんじゃなかったかな」
「英雄…」

英雄、という言葉に彼等が脳裏を過る。

「スライムさん、運命の人気になるんだ?」
「え?あ、いや」
「ずるーい」
「気になるっていうか…」
「……?誰か来る」
「え?」

 カララン

「あら、いらっしゃい」

客が来たらしく、店主が向かった。

「おい、女主人マダム!この店は魔物の連れ込みを許すのか?」
「え?」

と、その店主に客が絡む。

「い、いえ、魔物といいましても紳士的なスライムですし…」
「なにぃ?スライムは魔物じゃないとでも抜かすか!?」
「まずいな…大臣のベスターだ」

……アレが例の。

ファルキリス卿タイプかな。

その大臣がカウンターに行き、氷水の入ったピッチャーを取るのを見て、私は立ち上がった。

 ばしゃあ

「なっ…」
「……え」

ベスターがリムルに水を掛ける直前に割り込んだが、その前に更に割り込むレイル。

氷水はレイルに掛かる。

「た、大変…っ」
「レイル!」
「大丈夫です」

微笑むレイルに慌ててタオルを生成して、水を拭いた。

 ガタッ

と、カイジンが立ち上がり、無言で大臣に近付く。

「おや、カイジン殿。あなたもこの店に──」

そして、大臣を殴り飛ばした。

思わず私達が呆気に取られる中、ドワーフ三兄弟の長男がサムズアップをする。

 どがらがらっ

「ぶふう」

大臣は近くのテーブルに突っ込んだ。

「よくも俺の恩人にケチつけて、水掛けようとしてくれたな」
「き、きっ、貴様!誰に向かってそのような口を…「あ゙あ゙っ!?」ひっ;;」

カイジンの圧力に負け、大臣が店から逃げ出す。

「お、覚えてろ…!」

そんな言葉を残して。

「悪かったなママさん。店を汚して」
「それはいいけど…」
「あ、私たちがやりますよ!?」
「いいから。それより、レイルの方をお願い」
「俺も大丈夫ですよ!」

私は殴り飛ばされた大臣が散らかした物を片付け始めた。

「それよりも……」
「いいのかカイジン。相手は大臣なんだろう?この国に居られなくなるんじゃないのか?」
「なに、俺の帰る場所はあんたが用意してくれるんだろ?」

髭を構いながら言うカイジン。

……それはリムルの誘いに乗る、という事か。

「…でも、王のために頑張ってたんだろ?」
「へっ、やっぱりそれを気にしてたのかい。恩人や友人を蔑ろにして、お仕えしたところで王が喜ぶもんか。ここで応えなきゃ、俺は王の顔に泥を塗っちまう。だから旦那について行かせてくれ!」

……此れが、カイジンの選んだ決断……。

「…わかった。実はその言葉を待っていたんだ」
「だと思ったぜ。わははははは」
「よっしゃ、飲み直しだー」
「おーー」

それから飲み会は続くものの……無事帰れる訳もなく……

「兄貴にリムルの旦那…何をやっているんだよ」
「フン!バカにお灸を据えてやっただけよ!」

私達は警備隊に連行される。

三日後。

暴行事件における、王の前での裁判が行われた。

裁判では伯爵位以上の貴族しか王の許しなく発言出来ないらしい。

なので、伯爵位で此方の意見を代弁する奴を雇うがのだ……

「──と、このように店で寛いでおられたベスター殿に対し因縁をつけ、カイジン達は複数で暴行を加えたのです」

思いっ切り裏切る。

……ほう……

「事実か?」
「はい!店側からも…ひっ!?」
「…………」

弁護士とやらを殺気を込めて睨んだ。

それに視線が集まり、取りあえずリムル達には微笑んで、それ以外は冷たく睨む。

「(レオが…怖い。なんか猛獣が見える……よく考えたら、怒ったとことか見た事ないかも)」

発言はしてないからね。

「…………」

このままでは終わりそうにないので、促す様に必要以上の手当てを受けてる大臣に手で示した。

「お、王よ!こ、この者達に厳ば…「…………」∑!!」

場の支配が出来るのは権力だけじゃない……私は、父を見てそれを知っている。

「…カイジンよ」
「…は!」

王に呼び掛けられ、カイジンが立ち上がった。

「久しいな、息災か?」
「は!王におかれましても、ご健勝そうで何よりでございます」

親しげに声を掛ける王にカイジンは跪く。

「よい。それよりも戻ってくる気はあるか?」
「恐れながら王よ。私は既に主を得ました。王の命令であれど、主を裏切ることは出来ません」

カイジンの言葉に王はふ…と笑った。

「…で、あるか」

王も決めたのか……なら、睨まないどこ。

「判決を言い渡す。カイジン及びその仲間は国外追放とする。今宵日付が変わって以後、この国に滞在する事を許さん。以上だ。余の前より消えるがよい」

私とリムル以外が跪いて判決を聞く。

そして、私達は退室した。











それから私達は荷物を纏めて、ドワルゴンを出る。

「いやー一時はどうなるかと思ったが。ま、概ね予定通りだな!出禁になったケド」
「確かに。本来の目的は果たせた。出禁になったけどね」

無事にリグル達と合流した。

「ご無事で安心しました。それにしても裁判とは…」
「俺達の日頃の行いがよかったから助かった感じだけどな」
「自分で言う事かな、それ?」
「レオはなんか睨んでたけど」
「……昔、父上にああいう場は舐められたら終わりだと教わったから」
「へぇ(そういえば、レオの家族って知らないかも)」

あ、レイルがランガに唸られてる。

助けてあげようかな。

「そうだ、まだ紹介してなかったな。彼が武具製作職人の──……あれ?どうしたんだ、カイジン」

カイジン達は驚愕と恐怖が混ざった表情で固まっていた。

「嵐牙狼族に驚いているのでは?」
「「ああ、なるほど」」

私達は慣れただけだし。

普通は驚く事だよな。

「まぁ、いいや。続けるぞ。三兄弟の長男ガルム。腕のいい防具職人だ」

白目で固まっているガルム。

「次男ドルド。細工の腕はドワーフ随一って話だぞ」

青ざめて俯いているドルド。

「三男ミルド。器用で建築や芸術にも詳しい」

逆に見上げて口を開けた状態で固まるミルド。

……気絶してる?

「大丈夫だよ。リムルの命令がなければ襲ったりしないから」

三兄弟の肩をそれぞれ叩きながら言えば、彼等は私の後ろに隠れる。

……いや、私の後ろとか無理だと思う。。

「約束したのはカイジンだけだったんだがな。どうせ全員国元にはいられなくなった訳だし。スカウトしちゃった」
「さすがはリムル様!」
「さて、じゃ帰るとするか!ほんの数日なのに、ゴブリン村が懐かしいよ」

リムルの言葉にリグル達は笑った。

「……いや、帰っちゃ駄目だろ」
「え?何で?」
「え?何でって……ゴブタ置いてく気かな?」
「あ」

 ドドドドドドドド…

「ひどいっすーーー!!!」

外見が子供という理由でエルフの店には行かせずに留守番をさせられていたゴブタ。

……私は連れてかれたのにね。

彼が何故か嵐牙狼に乗ってやって来る。

「お、おぉゴブタ」
「リムル様あんまりっすよ。怖い兵隊さんが来て、泣きそうだったっす!」

嵐牙狼から降りたゴブタがリムルに詰め寄った。

「いや悪い…ごめん。今度キレイなお姉ちゃんのいっばいいる店連れてくから」
「ホントっすか!?絶対っすよ!?約束っすからね!!」
「お、おう」
「血の涙流す程なのか?」

とは言え、リムルが約束した事でゴブタは上機嫌で飛び跳ねる。

……出禁になったから、いつになるかは分からない話だけど。

「……」
「嵐牙狼の事かな?」
「え、うん」
「……新技習得とでも考えたらどうだ?」
「…うん。そうする」

ランガにすりすりとされているリムル。

何か考えている様子だったから聞いてみたが、合っていたらしい。

「よーし、帰ろ帰ろ」
「「「「おー!」」」」

という事で、私達はゴブリン村に帰った。

そして、ゴブリン村に着くと同時に驚きに固まる。

「リムル様の噂を聞き、庇護を求めて近隣の小鬼ゴブリン村から集まってきたようです」
「へ、へぇ」
「……うわぁ」

 わあぁぁあぁあぁ

「リムル様ーっ」
「おかえりなさいませーー!!」

元々そんなに広くないゴブリン村は数え切れない程の小鬼族で埋まっていた。

……どうするんだ、これ……

「…わかった。来たい者は来い。その代わり裏切りは許さんからそのつもりで!」

という事で人口密度が上がり、帰って早々に新天地の捜索に駆り出される。

一方でリムルは名付けに追われた。

「レオ!お前も名前付けて!」
「そいつ等はリムルの加護を求めて来たんだし、それを受け入れたのはリムルだろ?私が付けたら意味ないよ」
「うぅ……」
「要は自分で蒔いた種さ。きっちり自分で回収しろ」
「ひぃいい」

時間を掛けて名付けが終わり、数日後……村は引っ越して町になった。




emd.
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