スライムとの旅路
翌日。
「皆広場に集まれ!リムル様より大切なお話がある…レオさんも、来てください」
リグルドの声を掛けられ、私はレイルを連れて少し離れた木陰に座る。
取りあえず話が始まるまでボーッとしていた。
一方、ゴブリン達は話しながら集まり、謎の髭を着けたリムルが黙って待っている。
やがて、誰かの「あっ、しーー…」で静かになった。
「…はい。今みんなが静かになるまで5分掛かりました」
「「「「「……?」」」」」
「∑///」
「今のは何でしょうか?」
「リムルなりのネタだと思うよ」
レイルを撫でながら話している間に、リムルは髭を捨てた。
「えー気を取り直して。見ての通り俺たちは大所帯になった。そこで、なるべくトラブルを避けるため、ルールを決めようと思う」
確かに、集団だからこそルールは必要だな。
「1つ、仲間内で争わない。2つ、進化して強くなったからと他種族を見下さない」
態々リムルの言葉に合わせて指を立てるリグルド。
「3つ、人間を襲わない。以上だ。最低この3つは守ってもらいたい」
「宜しいでしょうか」
「お、なんだね。リグル君」
挙手するリグルに先生の様にリムルが応える。
「何故人間を襲ってはならないのでしょうか?」
「リムル様のご意思を…」
「ああ、いいからいいから」
「リグルド。思った疑問を誰かの言葉だからと抑えるのは進化の妨げと反感に繋がってしまう。そういう思いは大切にしないと」
「はい、わかりました」
それに疑問を持つ、という事はちゃんと話を聞いてるって事だから。
……長い間、思考を止めたからこそ悲劇が起きるパターンもあるし。
「簡単な理由だ。俺が人間が好きだから。以上!」
「なるほど!理解しました!」
「……理解しちゃ駄目だ。そこはツッコむ所だよ」
「?」
もう少し思考する事を覚えさせないとかな。
折角進化したのだし。
「……リムル、説明」
「あ、はい。ええとな、人間は集団で生活してるだろ?彼らだって襲われたら抵抗する。数で押されたら敵わないだろ?そういう訳でこちらからの手出しは禁止だ。仲良くする方が色々と特だしな」
「さすがリムル様だ。人間にまでお詳しいとは」
……リムルって、人間寄りな考えだよな。
スライムの前は人間だったりして。
「そんな所だ。なるべく守るようにしてくれ」
「おー!!」
「正当防衛くらいならいいかな?」
「ああ、もちろん」
……確かに人間に危害を加えないというのはいいルールだと思う。
だが、もし悪意の持つ人間が仕掛けてきたら、このルールが足を引っ張りかねないな……。
「……リグルド」
「はっ」
「君をゴブリン・ロードに任命する。村を上手く治めるように」
リグルドに歓喜の衝撃が走った。
「ははぁ!!身命を賭してその任、引き受けさせて頂きます」
「うむ、任せた」
それぞれが動き出すのを見送り、私はレイルを下ろして道具を取り出す。
そうだな、通信記録が出来る石を二つ生成してイヤリングにしてみよう。
「手慣れてるなぁ」
作り始めた私の元にリムルがやって来た。
「趣味だから」
「特殊効果付きだし……下手すりゃ高く売れるんじゃね?」
「……………………」
「?」
『レオ……すまない、頼みがある』
『?』
『君の作品を……その売ってもいいだろうか』
『……また、─────が?』
『本当にあの人は……!』
『好きなの持っていって』
……こんな特殊効果は付いてないけど、昔作ったアクセサリーを金策で売られたなぁ。
暫くして……リムルを抱え、レイルとランガを連れてリグルドの元に向かう。
「建て直してこれなのか?」
「お恥ずかしい話です」
家の建て直しを命じてたらしいが、全く変わらない。
精々藁が木になったくらいだ。
「まぁ、リグルドの采配が悪いわけじゃないさ。建築学も知らなきゃこんなものだろう」
「面目ない…」
「……リグルド、ゴブリンの統率者が何時までも落ち込んでいてはいけない」
「…っはい」
「レオ、ナイス。こうなると、技術者との繋がりが欲しいな…」
「あ!」
リグルドが思い出した様に手を叩いた。
と、ランガが見てるのに気付き、彼にリムルを渡す……と、ランガはキラキラと目を輝かせてリムルを足の間に置き、顎を乗せて完全に囲う。
「今まで何度か取引をした事のある者たちが居ます。器用な者達なので家の作り方も存じておるやも!」
「ほう?取引相手か。何ていう者達だ?」
「ドワーフ族です」
ドワーフ……私の世界には居ない種族だな。
「ドワーフっていうと…あれか?鍛冶の達人というイメージの…」
「おおっ、ご存知でしたか。さすがはリムル様」
鍛冶職人という事か。
彼が喜びそうだな。
「ドワーフの王国は大河沿いに北上し、2か月の距離です。
「なるほど。河沿いなら迷う心配もないな」
ランガ達の脚なら、レイルでも早く着くな。
「俺が直接交渉しに行く。リグルド、準備は任せてもいいか?」
「∑!!昼までには全ての用意を整えましょうぞ!」
「レオも行くだろ?」
「ああ。見聞を広めるいい機会だからね」
そして、私達は昼頃に出発した。
リムルとゴブリン達は嵐牙狼族に乗り、私は大きくなったレイルに乗ってついて行く。
途中リムルが振り返り、リグルが何か答えるが、何を話しているかは私には聞こえない。
《レオ、大丈夫か?》
「……ん?リムルか」
《おう。なんかお前だけは個別にやんないといけないんだって》
「そうなんだ。一応鍛えてるからね。大丈夫さ」
《………そっか、なら良かった》
日が暮れ、私達は夜営をする事に。
私が食事を頼まれたので、適当に夕飯を作った。
「ゴブタ、お前はドワーフ王国に物々交換に行ったことがあるんだよな?」
「は、はいぃぃ!」ビクゥッ
肉を食べていた所に振られ、驚いた様子のゴブタ。
「どんなところなんだ?」
「え、ええっとっすね。正式には『武装国家ドワルゴン』というっす。天然の大洞窟を改造した美しい都っすよ。ドワーフだけでなく、エルフとか人間もいっぱいいるっす」
……エルフ。
それも知らない種族だ。
「会ってみたいな。でも、魔物の俺たちが入っても大丈夫なもんなのか?」
「心配はいりません。ドワルゴンは中立の自由貿易都市。王国内での争いは王の名において、禁じられております」
「ほう」
「噂ではこの千年、ドワーフ王率いる軍は不敗を誇るのだとか」
「エル…千年!?」
エル?……エルフの事かな。
ずっとエルフの事を考えていたのか?
「じゃあ自分からちょっかい出さなければ、大丈夫かな」
「ええ」
「……自分が行った時は門の前で絡まれたっすけど「トラブルなんて起こり得ませんよ」」
……待て、今ゴブタは何を言ったんだ?
リグルの言葉で聞こえなかったんだけど。
「そろそろ休みましょう」
「おーー!」
聞くのは諦め、私は野宿用の簡易寝床を取り出して横になる。
直ぐにレイルが寄り添った。
もぞもぞ
「……君、寝る必要あるのか?」
「まぁ、気にすんな」
いや、いきなり懐に冷たいのが来たら気にするでしょ。
ゴブリンの村を出て三日。
遂に武装国家ドワルゴンに辿り着く。
「る、留守番…ですか?」
「さすがに腰布とデカイ狼の集団じゃ、悪目立ちするからな。ここから先へは、俺とレオ、案内のゴブタだけで行く。リグル達は戻るまで森の入り口で野宿していてくれ」
「はい…」
明らかに落ち込んでいるリグル達。
「お待ち下さい、リムル殿」
「ん?」
ブワッ
レイルが人の姿になった。
「俺はこの様に人の姿になれます。レオ様のお側に居させて下さい」
「ん、いいよー」
「ありがとうございます!」
「レイル…」
「諦めも肝心だ、兄者」
という事で、リムルと私、レイルとゴブタで中に入る事に。
「お気をつけてー」
「アオーーン」
悲しそうな彼等に見送られ。
「ちょっと気の毒っすね」
「まぁ仕方ないさ」
「そうだね。ドワーフってどんな感じなんだろう」
「ドワーフには俺も会った事がありません。楽しみですね」
私達は話ながら検問の列に並ぶ。
「通って良し。次!」
「結構しっかりチェックするんだな。なかなか列が進まない」
「中に入ったアトは自由に動けるんすけどね」
「「「ふーん」」」
まぁ、大国なら検問が厳しいのは……
「おいおい、魔物がこんなところにいるぜ?」
「!」
柄の悪い声に私達は振り返った。
「まだ中じゃないし、ここなら殺してもいいんじゃねぇの?」
「おい、荷物置いてけよ。それで見逃してやるよ」
……面倒くさいな。
気付くと私達の周りの奴等が退いている。
「ゴブタ君…前に俺が言ったルールの3つ目、覚えているかね?」
「はいっす!『人間を襲わない』!」
何故か敬礼するゴブタ。
「うむ。では少し目を瞑り耳を塞いでおくんだ」
「?よくわかんないっすが、了解っす!」
「おい、雑魚い魔物のくせにこっち無視してんじゃねーよ!」
「黙れ無礼者。いきなり喧嘩吹っ掛ける君達よりも、此奴の方が余程知能が高いぞ」
「(笑顔でさらっと言った!?)」
リムルの前に立ち、男達を見詰めた。
「あぁ!?…って、別嬪じゃねぇか!魔物なんかじゃなくて、俺たちと来いよ!」
「知能の低さが見える言い方。その程度でついて行く訳ないだろう。それに外見で判断するとは……器が知れてる」
「てめぇ…!」
「主に無礼を働くな、下衆が」
「っ!」
レイルが私の前に出て、男達を睨みつける。
「う、うるせぇ!雑魚魔物についてるクセに!」
「雑魚か。それは俺のことか?」
と、リムルが私達の前に出た。
「てめーに決まってるだろうが!スライムなんざ雑魚中の雑魚だろ!しゃべるのは珍しいけどな」
雑魚……ウルフ辺りかな。
どの道、リムルは雑魚じゃないけど。
「ほう?俺がスライムに見えるのか?」
「どっからどー見てもスライムだろうがよ!」
「こいつ、そいつといいふざけやがって…どうやら痛い目見ないと自分の置かれた状況が分からねぇみたいだな…えぇ?スライムさん達よぉ」
剣を抜く男達。
……此奴等程度なら、リムルだけで十分だな。
「ククク、いつから俺がスライムだと勘違いしていた?」
「…………」
いや、君スライムだろう。
「違うってんならさっさと正体を見せな!!」
ぶわっ
男達が迫るが、リムルから放たれた黒い霧に足を止める。
「「な…っ」」
「どうだ?これが真の姿(ウソ)だ」
リムルは嵐牙狼族の更に上の
種族名は隣に来たレイルから聞いたもの。
中々壮観だな……イヤリングを完成させておいて正解だった。
しっかりと記録しておこう。
「ハッタリだろ?見た目だけ厳つくしても、スライムはスライムだぜ!」
「おい、お前らも来い!5人でやっちまうぞ!」
人間は仲間を呼んでリムルに攻撃する。
が、ダメージはないらしい。
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