スライムとの旅路
それから私達は一旦別れて、それぞれスキルの練習をしている。
「……ん?」
《グルルル…》
「ウルフ?」
少し離れた所に、額に三日月の模様がある……狼の様なものがいた。
ウルフというズーグルかとも思ったが、この世界にはズーグルは居ないらしい。
「怪我をしているのか……ヒール!」
「!」
「治ったな。この世界でも星霊術は問題なく使える様だ……あまり、無理してはいけないよ」
狼の頭を撫で、私はその場から離れる。
適当な木陰に座り、右手を出した。
「生成……と」
右手に魔方陣が浮かび、そこから青い石が生成される。
元々持っていなかった筈のスキルだが、説明されなくとも扱える……不思議だな。
虚空に沈めていた道具を取り出し、青い石を加工し始めた。
「……よし、こんな物か」
「お、綺麗だな。それ」
「リムル」
ブラリと頭上から吊り下がっているリムル。
「それは、ペンダントか?」
「ああ。気に入ったなら、どうぞ?」
「いいのか?サンキュ」
降りてきたリムルは私の手の上に降り、作った青い石のペンダントが飲み込まれる。
自分から言っておいて何だが……食べられてしまうと複雑なんだが。
「そういや、変な狼と会ったんだ」
「変な狼?私も怪我をした狼と出会った」
「そうなのか」
そのままリムルを抱え、それぞれ離れていた時の話をした。
少しすると……
ガチャガチャ
「「ん?」」
武装した小さな者達が30匹程現れる。
この世界で言う、魔物の気配がするな。
貧弱な体躯にボロボロな装備、この程度なら私一人でも……
「グガッ、強き者よ…」
「「∑」」
「この先に、なにか用事がおありですか?」
此方の魔物は喋れるのか……凄いな。
「初めまして。俺はスライムのリムルという。こっちはレオンハルトだ」
「っ!」「∑…っ」
「おっと」
リムルから放たれた強い力と声に、思わず彼を落として耳を塞いだ。
「……君は私に恨みでもあるのか」
「へ?」
「グガッ、強き者よ!あなた様の、お力は十分にわかりました。どうか声を鎮めて下さい!」
相手側は怯え、中には腰を抜かしている者も。
「すまんな、まだ調整が上手く出来なくて」
「声は小さくしなくても大丈夫。落としてすまなかったね……そちらも、脅かすつもりは無かったんだ。驚かせてすまない」
「∑ビクゥッ お、おそれおおい、我々に謝罪など不要です!」
「所で、リムル。アレは何と言う種族なんだ?」
「(あ、そうか。レオは全く違う世界から来てるから、常識が違うんだ)ゴブリンだよ」
小声になったリムルを抱え直す。
「で、俺たちになんか用?俺たちはこの先に用事なんかないよ?な?」
「ああ、そうだね」
「左様でしたか。この先に我々の村があるのです」
村……ゴブリンという種族は集団で生活するタイプなのか。
「強力な魔物の気配がしたので警戒に来た次第です」
「ああ……」
間違いなく、リムルの事だな。
リムルから溢れ出る星霊力とは異なる力。
それを感知したんだろう。
「俺の『魔力感知』ではそんなの感じないけど」
「は?」
「え?レオ?」
「グガッ、クガガッ、ご冗談を。我々は騙されませんぞ。唯のスライムにそこまでの
「妖気、というのか。まぁ、溢れ出しておいて騙せるものではないよ。ね?」
「はい」
まさかとは思うけど、無自覚だったとか言わないよな?
「ふ、ふふふわかるか?」
「勿論です!漂う風格までは隠せませぬ!」
「…………」
「おおっ」
リムルの強い……妖気が収束されていった。
「レオ、レオ」
「ん?」
「知ってた?」
「ああ、態と放置してるのかと思ったんだけど。虫除け的な意味で」
「それ頂き!」
「?」
頂きってどういう意味だ?
「助かります。その妖気に怯える者も多かったので」
「ははは…いやなに、妖気を出していないといろんな魔物に絡まれるからな。あ、そういやレオは?」
「ん?」
「初めは感知してたけど、今は全然感じないけど」
「ああ、妖気というかそういった気配を隠す為の石を生成して、アクセサリーにしてたんだ」
言いながら、左手首に着けているブレスレットを見せる。
「(なかなか凄いな、レオも)それなら、アクセサリーそのものを生成しても良かったんじゃないか?」
「此方で言う魔素というのを消耗するらしい。安全とは言えない場所で、消耗は可能な限り抑えたい。それに、アクセサリーを作るのは好きだ」
「そっか」
それからゴブリン達と話し、話の流れで彼等の村に行く事に。
私はリムルを抱え、赤いバンダナを着けたゴブリンの後に続いた。
「あそこです」
其処には藁で作られた家が並び、他のゴブリン達も居る。
その内、奥の家に私達は案内された。
「お待たせいたしました。お客人」
私の膝の上に乗るリムルに出された水を渡していると、声が掛かる。
「大したもてなしも出来ませんで、申し訳ない。私はこの村の村長をさせて頂いております」
先程のバンダナゴブリンに支えられ、ヨボヨボの老ゴブリンが私達の前に来た。
「あぁ、いやいやお気遣いなく。それで?何か用があるから自分を招待してくれたんですよね?」
ばっ
「!?」「!」
ゴブリン達が頭を下げてくる。
「貴方様の秘めたるお力、息子から聞き及んでおります。我らの願い、何とぞ聞き届けては貰えませんでしょうか」
その言葉に私達は顔を見合わせた。
「内容による。言ってみよ」
「ははっ」
……此処はリムルの動向を見てみよう。
「ひと月程前、この地を護る竜の神が突如消えてしまわれました。その為、縄張りを求める近隣の魔物達がこの地に目を付けたのです。中でも牙狼族なる魔物は強力で、1匹に対し我ら10匹で挑んでも苦戦する有り様でして…」
「そいつらの数は?」
「群れで100匹程になります。比べて我らの内、戦える者は雌を含めて60匹程です…」
圧倒的な戦力差。
切り札とも言える力がなければ、蹂躙されるしかない。
「牙狼族が100匹程っていうのは確かなのか?」
「それは事実です」
「何故断定出来るんだ?」
一方的な戦力差なら、確かめるのだって容易ではない筈。
「…リグルが牙狼族との死闘を経て、手に入れた情報ですから」
「「リグル?」」
「リグルは私の兄です。さる魔人より名を授かった村一番の戦士でした。兄がいたから、我らはまだ生きているのです」
「…もういないのか?リグルは」
「…自慢の息子でした。弱き者が散るのが宿命だとしても。息子の誇りにかけて我らは生き残らねばなりません」
……一瞬、自由を勝ち取った彼等の姿が過った。
このゴブリン達も、彼等同様に生きようと……
「村長、一つ確認したい。俺がこの村を助けるなら、その見返りはなんだ?お前達は俺に何を差し出せる?」
家の隙間から沢山のゴブリンが固唾を飲んで見守る中、二人のゴブリンは頷き合う。
「強き者よ。我々の忠誠を捧げます!」
……さて、リムルの選択はどんなものか。
ウォォーーーーンン…
その時、狼の遠吠えが聞こえ、二人はギクッと反応した。
「牙狼族の遠吠えだ…!」
「ち、近いぞ」
「いよいよ攻めにくるのか!?」
「これやばいって!」
「おしまいだ!オレたちみんな食われちゃうんだっ」
「逃げようよ!」
「どこへ!?」
「行くとこなんてないよ、ケガ人や女子供だっているんだぞ」
怯え、混乱するゴブリン達。
「お前たち、落ち着きなさい…」
「
宥めようとする村長の言葉を遮る様に、リムルが力強く告げる。
「これから倒す相手だ」
「では…」
「ああ、お前たちのその願い。暴風竜ヴェルドラに代わり、このリムル=テンペストが聞き届けよう!」
ドッドドッドッ
リムルの言葉に次々と膝を折るゴブリン達。
「我らに守護をお与えください。さすれば今日より我らは
……リムルはきっと、彼等と同じタイプだな。
リムルの側でなら、作り出せるかな。
「レオ!お前にも協力して欲しい」
「?」
「弓矢と柵、生成出来るか?」
「……弓矢なら。柵は具体的な想像がしにくいから、惰弱なものしか生成出来ないと思うよ」
「じゃあ、柵はゴブリン達に頼もう」
「弓矢はゴブリン達が使うのかな。なら、彼等に合わせたサイズの方が良さそうだね」
「頼むよ。因みに使える?」
「それは……」
私は虚空に沈めている自分の武器を召喚した。
「見ての通り、私の武器は剣と弓の可変武器。弓の扱いは慣れてるよ」
「格好いい!てか、どっから出した?」
「普段は虚空に沈めて、その都度召喚しているんだよ」
「へぇ」
「まぁ、弓矢の方は任せてくれ。柵の方も生成の傍ら指示を出しておこうか?」
「おう、任せた。怪我人の所に案内してくれ。君はレオに指示を受けながら柵を作ってくれ」
「はい!」
リムルと別行動し、バンダナゴブリンと外に出る。
「半数は木を切り、先を尖らせて杭にしてくれ。残りは縄を集めて」
「はい!」
「君、ちょっと触るよ」
「は、はい」
皆がバラける中、バンダナゴブリンに触る事で体躯の確認。
其れから弓矢を生成していった。
「……ふぅ」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、少し疲れただけさ。さ、今度は柵として組み立てていくよ」
「はい」
「よし、一度リムルを呼んで来てくれ」
「はい。リムル様ー」
バンダナゴブリンがリムルを呼びに行く。
「ご命令の『柵』を皆で作りました……いかがでしょうか?」
「ちょっと強度が不安だが、時間もないしこんなものか」
「すまない。時間もそうだが、材料も無くてね」
「おう、大丈夫だ。後は──」
スキル「粘糸」
リムルから出た糸?が柵に巻き付いた。
「リムル様、この糸は一体…」
「洞窟の蜘蛛が使っていたので奪った」
「奪った?」
「さて。迎え撃つ準備はこんなところか」
「…………リムル、この糸一本くれないか?」
「いいけど、何で?」
「形と性質を覚えて、しっかり想像出来る様になれば生成出来る様になるかもしれない」
「なるほど」
この糸、生成出来れば……
「あ、ついでにこっちもやるよ」
「?」
「『鋼糸』だ」
「……固い……ありがとう、リムル」
「おう」
そうして……夜となる。
「……来たか」
「あ!き、来たっ。来たっすよ!」
木の上に居る1匹が声を上げた。
「牙狼族っす!!」
やがて、右目に傷のある狼を先頭に多くの狼が迫って来る。
「そこで止まれ」
リムルの制止の声に、額に星の模様のある狼が反応した。
《オヤジ殿、あの者です。例の…》
《…お前が見たという異様な妖気をまとう魔物のことか?くだらん。ただのスライムではないか》
《……!》
あれ、星のヤツの後ろに居るの……月の模様……もしかして、怪我をしていた狼か?
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