旅立ちの章


魔物。

数十年前に突如として現れ、瞬く間に侵攻され、魔物によって汚染された土地は人が住めないらしい。

その魔物の侵攻を食い止め、戦えない者を護るのが……俺達騎士の役目。

「おい、まだかよ!」
「発動の兆しなし!」
「チッ、何チマチマやってんだ!」

決して、魔術師の都合のいい駒などではない。

魔物の侵攻が人が住む村の直ぐ側まで来ているとの報告を受け、俺の部隊に出撃命令が出された。

俺達の役目は、魔物の殲滅。

今回はまだ迫っているだけで、汚染は受けていない。

だから、今回は国が抱えている魔術師と会わずに済む筈……だった。

そこに魔術師が割り込んできた。

新たな魔術で一掃してみせましょうとか国王に言ったらしく、俺達の作戦は殲滅から時間稼ぎへと変更を余儀無くされる。

その所為で、俺の部隊なら殲滅出来る魔物を一定の場所から近付けさせない様に、且つ殲滅し切らねばならない。

「あんの偉そうな魔術師がぁ!」
「割り込んで来る位なら、とっととやれっての!」
「……口じゃなくて手を動かせ」
「「動かしてます!」」
「知ってる」
「隊長だってムカつきません!?あんの、いかにも魔術師様だぞって感じの!」

魔物を斬り捨てながら、隊員達と会話をした。

勿論、隊員達も魔物を斬っている。

「まぁ、この場に居たら事故で斬りたいくらいには」
「……隊長?」
「見逃せ。愚痴でも言わないとやってられない」
「お気持ちは分かりますが、魔術師が姑息にも我等の会話に聞き耳を立ててるやもしれません」
「……お前も言ってるじゃないか」
「聞いてるならさっさとやれ、という話です。何より気に食わないのは、あの魔術師の隊員を見る目!」
「「マジそれ」」
「一応僕は副隊長なんだけど?」
「「同意します」」
「同じく」
「ああ、また七光りのヤツか」

俺の父が騎士団長だから、七光りで隊長を任せられてるとか言われるんだよな。

「……隊長、副隊長が言っとるのとは、ちと違うと思いますぞ?」
「……?」

というか、本当に何時まで時間を掛けているんだ……

 ゾクリ……

背筋を凄く嫌なものが駆け抜けた。

直後、俺達の足下に魔方陣が浮かぶ。

「待避!!」
「「「「「!!」」」」」
「要!!防御盾シールド展開!!」
「了解!!」

展開された防御盾の結界内に隊長が滑り込み、俺も最後に滑り込んだ。

直後……

 ドゴォオオン!!

強い閃光と衝撃に襲われ、片目で何とか見届ける。

魔物はその閃光で粗方片付いた様だ。

……魔術に巻き込まれない様、表向きは緊急避難として作られた騎士の命綱である防御盾。

それ伝いに感じる衝撃から、もし展開が遅れていたら、俺達も道連れに……

「!!」

村は大丈夫だろうか。

割り込みで移動だけでも時間が掛かったのと魔術師からの希望で、予定よりも大分村に近くなってしまった。

村人は避難させてはいるが……

「あんの魔術師!!」
「俺達を巻き込んで、平気で帰っていきやがる!!」
「……隊長」

呼ばれて前を見れば、そこには僅かに残った魔物が。

完全に手負いで凶暴化している。

俺は深く息を吐いて、刀を持ち直した。

「残党を殲滅する……尻拭いの為にいる訳じゃないってのに」
「「「「「同意します!」」」」」」

凶暴化すると、魔物の方は強化する。

この場で殲滅しないと、直ぐに汚染されてしまう。

俺達は手分けして残った魔物を片付けた。

「「やっと終わったぁ」」

一通り片付けて刀を収めると、隊員達が疲れた様に息を吐く。

「全員お疲れ。今の内に休んでおけ」

彼等に言い、左耳の通信機に触れた。

「此方、月冴。柊、聞こえるか」
《聞こえていますよ、隊長》
「魔物の殲滅を確認。命令は入っているか?」
《魔術師は?》
「尻拭い残してとっとと帰った」
《あんのクソハゲ魔術師。メタボれ》
「「女が使う言葉じゃねぇ」」
《んん、失礼……命令無し。帰還許可が出ています》
「了解。此れより帰還する……俺以外」
「「「「「《え》」」」」」
「一度切るから、何かあったら緊急へ繋げてくれ」
《は、はい?》

通信機を切り、彼等に振り返る。

「先に帰還しててくれ。一応隊室待機で」
「「隊長は?」」
「村の方を見てくる。避難はしているが……」
「御供します、隊長」
「副隊長は一緒に帰還して、指示」
「しかし……」
「あの、俺達も同行しちゃ駄目ですか」
「「そうですよ」」
「御供致しますぞ」
「……分かったよ」

俺の隊員はお人好しだな。

「隊長、失礼します」
「ん?……ああ……」

若草色の髪に蒼色の瞳の青年……副隊長、たちばな恵哉けいや

彼は……副隊長としてサポートもしっかりしてくれるが、何か……俺に対して過保護なんだよな。

今も魔物との戦闘前に脱いだ隊長を示す上着を掛けられた。

この上着は丈が長いから戦闘には少し邪魔で、毎回脱ぐし、それを副隊長は毎回回収し……

「大事な体が冷えてはいけませんから」
「そこまで寒くはないだろ」
「いえいえ、この時期は風が冷たいですから」

隊長としてではなく、体調の面で掛けてくる。

確かに俺は母さんに似たから、線は細い方かもしれないが……此れでも鍛えているのは知ってるだろうに。

「「隊長、今晩は空いてますか?」」

鳶色の髪に蘇芳色の瞳の双子。

寿としなが瑠威るい瑠嘉るか

ムードメーカーでもあり、時々副隊長に悪戯しては怒られるタイプだ。

「ああ、特に予定はないな」
「じゃあ、飲み行きましょうよ!」
「こんな日には飲み行きましょうよ!」
「はいはい、適度にな」
「「OKととりますよ?」」

笑う二人に頷けば、大袈裟なまでに喜ばれた。

「隊長も参加されるか。ならば、私も参加しましょうかね」

金の短髪に青藍の瞳の青年。

かなめ彰久あきひさ

騎士団の中でもベテランで、各部隊に一つしかない防御盾を任せられる程安心がある。

「いざという時は送りますよ?」
「そこまで子供のつもりはないぞ」

俺の小さい頃を知ってるからか、子供の様な扱いをされる事もあるのが……な。

「……俺も行きたいです」

灰色の髪に黒い瞳の少年。

かけい紫苑しおん

最年少で表情が乏しく、口数も少ないが言いたい事はハッキリ言う子だ。

「いつもの店ならジュースも出してくれるだろ」
「はい……行きます」
「とはいえ、筧は寮だったな。先に寮母に言っておくんだぞ?」
「はい」

この先の状況を考え、軽く現実逃避をしながら村の方へと進んだ。

彼等も俺の億劫な気持ちを察して、空気を明るくしてくれてるのだろうな。

「「「「「「…………」」」」」」」

村の現状は……一言で現すなら、悲惨。

あの魔術の余波で、家は倒壊し、作物も消し飛び、人が住める状態ではない。

「これは……酷いな」
「どうしたものか……」

このままでは……この村の者が生きていけない。

何とか、国からの援助を出して貰わないと……

「何だよこれ……」
「「「「「「!!」」」」」」

声に視線を向けると、若者達が居た。

彼等は村の惨状に息を飲み……そして、俺達に気付く。

「騎士団!」
「あ、待て!」
「お下がり……隊長!?」

若者の一人が駆け寄って来るのを見て、俺は一歩前に出た。

 バキッ

「…………」

そして、殴られる。

隊長になるくらいには、鍛えているから特にふらつく事もなく、若者達を見た。

「何で、何で村を護ってくれなかったんだ!!」
「……弁明の言葉も無い。本当に申し訳ない」
「「「隊長!!」」」

若者達に頭を下げる。

今の俺にはこれしか出来ない。

護れなかったのは事実だ。

「ふざけんな!!此れじゃどうやって……」
「落ち着けって」

憤る若者を、茶髪の青年が宥めた。

「翡翠、けど……」
「どう見たって、こりゃ魔術師の仕業だろ。コイツに当たっても仕方ないだろ」
「…………」

どうやら、彼が中心的な存在らしい。

宥められた若者を下がらせ、茶髪の青年が前に出る。

「仲間が悪いな……けど、これじゃあ俺達はどうすりゃいい」
「……王に掛け合う。必ず支援をして貰える様に」
「王は魔術師の言いなりじゃねぇのか?」
「其と此は関係ない……責務を果たすだけだ」
「……あんた、危ないな」
「!……??」

突然頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

「一回戻るぞ」
「あ、ああ……」

そのまま若者達は立ち去る。

「隊長、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈……何処から出した。何故持ってる」

殴られた所を冷たいタオルで冷やしつつ、櫛で俺の髪を直す副隊長。

つい出た俺の問い掛けにはニッコリと微笑まれて誤魔化された。

「……直ぐに戻るぞ」
「「「「「はい!」」」」」









「という訳で、我が魔術により一掃してみせました」
「ほう」
「「「「…………」」」」

魔術師がベラベラと陛下に報告する。

俺と副隊長は彼等の前で跪いて聞いていた。

俺達の側には立ったままの魔術師。

玉座に座る陛下。

その隣に立つ殿下と側に控える騎士団長が俺達に同情の視線を向けてるのを感じる。

本来、この程度の任務の報告を態々陛下に報告などしない。

が、此れも魔術師が言い出した事だ。

「流石は魔術師だ。そなた等もそう思うだろう?我が息子、そして騎士団長」
「……はっ」
「そうですね……ですが、私としては折角なので騎士からの話も聞きたいのですが」
「それは必要ですかな?」
「…………」

殿下の言葉にそう割り込む魔術師に、俺達騎士は眉を潜めた。

何と無礼な……だが、今願わなくては……。

「僭越ながら陛下、発言してもよろしいでしょうか」
「うむ、何だ」
「魔術発動の際、その余波にて近隣の村が大きな被害を受けました。どうか、村へのご支援を。そして、時間を稼いだ我が部隊の騎士の方にもどうか……」
「村が被害を受けたのは私の所為と?」

……こんの割り込み魔術師がっ。

「その様に聞こえたのであれば申し訳ありません。ですが、壊滅的な被害を受けたのは事実です。あのままでは村人が……」
「そもそもお主等がちんたらと倒しているからだろう?」
「今回の任務は貴殿の魔術発動まで時間を稼ぐ事。殲滅任務でしたら、彼処まで時間は掛けません」

そもそも、俺の部隊は短期及び殲滅を主とした部隊。

長期及び時間稼ぎは本来違う部隊が専門としているのに……

「……魔術も録に使えぬ者が、でかい口を開くな」

 ジャキッ

「!」
「…………」

今にも抜きそうな副隊長の束を押さえる。

目で制せば、彼は渋々刀から手を放した。

「……今は、我等の事よりも村の事を」
「私からもお願い致しましょう」
「「「「!」」」」



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