旅立ちの章


『遥か古の時代
 陸も 海も 空も
 まだ無かった時代

 そこには 大きな力が
 存在しているだけだった

 やがて 大きな力は
 意志を持ち 創造の神となった

 創造の神は 先ず
 己の子を 生み出した

 眩い光を集めた兄と
 深い闇を集めた弟

 そして 創造の神は
 陸 空 海 を生み出した

 更に 兄弟が
 昼と夜を作り上げた

 やがて 創造の神と兄弟が
 育み出した世界に 生命が生まれる

 様々な生命が生まれ 最後に人が誕生した

 そこまで見届けた 創造の神は

 「我が役目は終えた」

 そう告げ 眠りについた
 創造の神は 兄弟達に

 「我が目覚めし時は 再び世界を創る時」

 と伝えた 更に

 「兄は世界を慈しむ事 弟は制止する事」

 をそれぞれの役目とした

 それから長い月日 兄弟が見守る中
 世界は繁栄し 数多なものが 共存する
 豊かな世界となった


 永遠に続くと 信じられていた世界に
 異変が起き始める

 人が豊かな土地 恵みを独占し始めた
 それにより 数多の命が 奪われた

 陸は痩せ 海は荒れ 空は覆われた

 それに弟は 人を制止した
 しかし人は 止まらず
 それ所か 弟さえも利用しようとした

 困り 怒り 悲しみ
 兄弟は嘆き 話し合い 決裂した

 やがて弟が魔を放ち 兄が魔を与えた

 放たれた魔は土地を喰らい
 与えられた魔は力となった

 そして 兄弟も争い
 片は“護る者” 片は“壊す者”
 そう呼ばれる様になった

 やがて 長い戦いは
 両者の相討ちとなり 終結した
 その頃には 全て存在が
 疲労していた

 それを見た 護る者は
 己に残された 全ての力を使い
 全てを戻し 再生した

 護る者は その形を保てず 崩壊した
 壊す者は 愛する兄弟を失くし 酷く嘆いた

 護る者は 微かに残った自らを
 壊す者の手によって 小さな石へと
 移す事で辛うじて 消滅を免れた

 それにより 壊す者も 形を失い
 人から人へ また人へ
 移る事により 存在し続ける


 そして 今尚
 彼等は 次から次の世代へと
 人を見続けている』





「…………」
「月冴」
「!父さん」
「また、神話を読んでいるのか?」
「うん」
「お前は神話が好きだな」
「……何度読んでも分からないんだ」
「ん?」
「この神話には……」




end.
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