覚醒の章
「父上の元に……?」
「ああ。其所に晴彦殿も居る……そして、奴も」
「なら、俺も……!」
「此処に居た方がいい。騎士団なら、きっとお前達を護ってくれるから」
「その為に……僕達を此処に……」
俺の見て来た騎士団なら、例え監視目的だとしても王族を護ってくれる筈だから。
「……梵隊長」
「!鏡隊長?」
「私が彼等の監視をします」
「だが……」
「お願いします」
華絵さんが叔父さんに頭を下げる。
数秒思考し……叔父さんが頷いた。
其に華絵さんの姿が消える。
恐らく、俺達の所に向かっているんだろう。
「(どうして、俺を護ってくれるんだ……俺が、お前の父親を……)」
華絵さんが駆け寄って来るのを確認し、、俺は背を向けて歩き出した。
「……凛音」
「!」
「僕もいい加減、諦めて手を伸ばそうと思う」
「慎理?」
「月冴!」
慎理の声に振り返る。
「「!?」」
「月冴様!」
と、同時に慎理が俺に向かって飛び降りて来た。
突然の事に体勢が取れず、地面に一緒に転がる。
「月冴、ギュネッシュは……」
「……分かってる」
「だから、ケジメを付ける。僕も行く」
「今のお前は、魔術は……」
「使えなくてもいい。全力で殴る」
「その細腕で?」
「知らないの?杖で全力で殴られると痛いんだぞ」
「……確かに」
慎理の言葉に、何故か翡翠が頭を擦りながら呟いた。
其に鈴芽を筆頭に皆が目を逸らす。
「彼奴の頭叩かないと」
「……珍しく我が儘言ってくれるな」
珍しい慎理の我が儘を、ーーーの前に聞きたいが……
「っ慎理!退け!」
「え」
慎理が反射的に退くと同時に、飛び降りるのが視界に入った。
咄嗟に受け止める体勢を取った直後、凛音が落ちて来る。
「ぐっ……」
「王族代表として、俺も行く」
「……分かったから……退いてくれ」
流石にキツい……。
凛音が退くと、椿桔の手を借りて立ち上がった。
「はぁ……下がっていてくれ」
「「分かった」」
そして、今度こそ歩き出す。
「……雲」
「承知」
正々堂々と、真っ直ぐに謁見の間を目指した。
俺達の姿に戸惑い、手を出そうとして来る者には凛音と慎理が制する。
「失礼する」
「…………」
其所に居たのは、玉座に座る王と俺達の姿に硬直する晴彦殿。
「……お久し振りです。陛下」
「うむ」
「何時、陛下に成り代わった」
「「「「!?」」」」
俺の言葉に、全員が固まった。
「成り代わった、とは?」
「俺の目を誤魔化せると思ったか」
「……随分と厄介な者と同一化したな」
陛下の姿が、凛音によく似た男と重なり……やがて、あの男の姿になる。
「父上……!?」「兄……上……?」
「お前の目的は、俺と兄上様の力か」
「ああ。この世界に神は要らない……いや、我が血族こそ神になるべきだ」
「皆、構えろ」
俺の言葉に、皆が構えた。
「兄上様は今、自分の遺跡に居るのだろう……今の兄上様は俺とセイアッド、そしてお前の判別が出来ない程に弱っている」
「ああ。今のアレなら、私でも狩れよう」
「そうして、虎視眈々と長い時を呪いに紛れて狙っていたのか」
「……さぁ、我が血族よ」
「!!」
晴彦殿の体を、鎖が張り巡る。
正体を現した事で、呪いも可視化したか。
「……む?」
「凛音の……陛下の子供に当たる者達の鎖は破壊済みだ。今、晴彦殿の鎖も壊す」
「月冴……君……」
「……本当に厄介だ。闇の化身が作り、我が目的を察知し逃げた娘と男が愛した人格。其が、闇の化身の力を得た……子が器となる所までは我が策略通りだったと言うのに」
忌々しげに俺を見る男。
この男から全て始まった。
ジャリッ……
「くっ」
鎖が晴彦殿の体を動かす。
「ハル様!」
「な、逃げ……」
そんな彼の前に華絵さんが立ち、晴彦殿の剣が向けられた。
「しっかりしろ!!お前は騎士の晴彦だろ!!」
「っ!」
彼に怒鳴った直後、剣が直前で止まる。
「愛しい者の為に世界を残したいなら、その愛しい者を自分で傷付けるな!」
「わた、しは……」
「そう言う事か。確かに、お前はその力をその身と同一させたのだろう。だが、完璧では無さそうだな」
「……だから、何だ。その人を泣かせていいのか、晴彦!」
人の身である以上、この力を完璧には使えない。
だから、今のままでは鎖を完全に破壊出来ない。
凛音の様に俺に手を伸ばしてくれれば、その弟妹の様にいっそ意識がなければ……後は、彼自身が諦めず抗ってくれれば……!
「……僕、貴方を助けたい!」
「「!」」
「僕を月冴に預けてくれた!僕の背中を押してくれた!其は、貴方がしてくれた事だから!」
桔梗が声を上げた。
「俺だって、諦めるたくなる気持ちは分かるぜ。けど、結局抗ったら……こうして、大切な者の側で護れる様になった。だから、あんたも少しは騎士根性見せてみろ!」
「貴方にだって……帰りを待つ人が、居るんでしょう?」
翡翠、鈴芽が同じ様に声を上げる。
「環隊長!華絵隊長の顔をちゃんと見て下さい!」
「……彼女に、月冴様と同じ想いをさせるつもりですか」
螢、椿桔の言葉に、彼はハッとした様な顔をする。
今だ……!
「!」
晴彦殿の体を、黒い光が覆い……鎖を破壊した。
解放されて膝をつく晴彦殿。
其を受け止める華絵さんと駆け寄る凛音と慎理。
「…………」
「此れが俺の力の使い方だ。お前には絶対に渡さん」
「ならば、奴から先に奪うまで」
「愚かな……!」
折角セイがお前を許したというのに……!
結局、変わらないのか。
「お前はこの場で壊す!!」
「出来るのか?この身はお前の友の身内だぞ?」
「っ!」
「そうだな。だが、お前を放置する事は出来ない」
もう、躊躇わない。
刀に光を纏わせる。
「……凛音、俺を許すな」
「……月冴……」
「慎理、凛音を頼む」
「……分かったよ」
「……!」
構える俺の隣に桔梗が並んだ。
其に続く様に椿桔が並び、更に翡翠、鈴芽、螢も並ぶ。
「……俺が突っ込む。椿桔、ついて来い」
「はい!」
「翡翠、螢、俺達の後ろからついて来い」
「おう」「ああ」
「桔梗、鈴芽、魔法で援護を」
「うん!あ、鈴芽ちゃん魔術使って大丈夫!僕が変換するから」
「ええ、お願いね」
皆が、俺と共に戦ってくれる。
きっと、彼等も……
「はぁっ!!」
「私の野望を止めさせん……お前の様な神擬きに!!」
「!」
俺の刀を魔術で産み出した剣で受け止められた。
この出力……器となっている陛下の事は全く配慮されてないな。
「……お許しを、陛下」
《よい。この国は息子が居れば十分だ》
「!椿桔」
「はっ!」
更に椿桔の暗器が重なる。
直後、螢の槍と翡翠の銃弾、桔梗と鈴芽の魔法の追加攻撃も入った。
ガキンッ
奴の剣が大きく上に逸れる。
ザンッ
そして、俺が斬った。
「まだだ……まだ!」
「!」
陛下の体から抜け出した魂が、凛音と晴彦殿の元に向かっていく。
「僕を舐めるな!!」
「!」
バチンッ
其を慎理が防いだ。
「此れでも、最高魔術師に選ばれる器だったんだから!」
「チィ」
魂が強い光を放ち、そのまま消える。
……いや、逃げられたな。
「……っ、父上!」
凛音が倒れた陛下に駆け寄った。
そんな凛音に晴彦殿も続く。
「父上……」
「凛音……気を付けよ……奴は必ずお主を狙う……生前の自分と瓜二つの……お主を」
「……兄上」
「子等を頼む……良い、妻を見付けたな……」
凛音と晴彦殿の瞳から涙が溢れた。
彼奴に取り込まれる前は……本当に優しい王だった。
だから、母さんを逃がしてくれ……今まで、自由にさせてくれたんだろう。
「月冴よ」
「!」
「頼んだぞ」
「…………御意」
そう告げた陛下は目を閉じ……二度と開かなかった。
「……月冴、慎理」
「「!」」
「今から、私は王位を継ぐ。支えてくれ」
「ああ、勿論だよ」
「…………」
凛音の言葉に、俺は答えられずにいる。
「…………」
そんな俺に、椿桔が何かを悟った様な視線を向けている事には、気付かなかった。
「月冴?」
「……ん?」
「……次は、どうするの?」
「奴が復活する前に、兄上様の元に行く」
「そっか。分かったよ」
俺は、足を止める訳には行かない。
学術都市ラフテル
ビュゥウウウ……
「……おや、器はどうなされた」
《壊された。子の方も妨害された》
「其は大変でしたな」
《貴様の娘は余計な事ばかりするな》
「初めから分かっておれば、雑にはしませんでしたよ」
《器の用意は出来るか》
「近日中に」
《早く用意しろ……漸く、悲願達成のチャンスが巡ってきた。今度こそ……必ず》
「………………」
その日の晩。
俺は自分が育った屋敷に泊まる事になった。
コンコンコン
「月冴様、よろしいでしょうか」
「……ああ、入れ」
許可をすれば、椿桔が静かに入って来る。
そして、俺の布団で眠る桔梗を見て微笑んだ。
「疲れたんだろう……とは言え、ベッドを取られたが」
「桔梗様は月冴様の元に居たいのでしょう……其は私も同じです」
「……ありがとう」
俺も、一緒に居たい。
最後の時まで。
「月冴様」
「ん?」
「何を隠されておいでなのですか」
「…………」
思わず、椿桔を見詰める。
「貴方様が焦っておられるのは、皆気付いております」
「……まぁ、だろうな」
「ですが、貴方様の瞳には……常に覚悟と諦めがあります」
「!」
そこまで、気付かれていたのか……
「月冴様……!もし、隠されてるなら……」
「椿桔、桔梗の事を頼む」
「え?」
「俺はそんなに長く保たない」
眠っている桔梗の頭を撫でた。
セイアッドの力は、人の器には強過ぎる。
其に俺は……
「俺は、今度の旅で死ぬ」
「そんな……!」
「見届けてくれ、椿桔……俺の大切な、愛する片割れ」
「!!……酷な、事を……」
「分かってる……でも、もう決めたんだ」
その選択に、悔いはないから。
俺は残された時間を、残される者達に捧げる。
其が、あの時交わした約束だ。
「月冴様……」
「其でも、来てくれるか」
「……はい」
桔梗……お前の生きる世界は、必ず残す。
俺の命を懸けて。
end.
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