覚醒の章


「兄上、何処に向かわれますか?」
「……永久の街へ行こう。彼処には確かセイアッドの遺跡と彼に従う魔族が住んでいる筈だ」
「街に襲撃を?」
「……相手次第だ」

月冴なら、反撃はしないだろう。

だが、セイアッドからは月冴を護ろうとする意志が見えた。

場合によっては、街の者を……

「……手を貸してさし上げましょうか?」
「「「「!?」」」」

直ぐ後ろから聞こえた声に振り返る。

「慎理……いや、最高魔術師ギュネッシ殿」

俺の言葉に慎理、基最高魔術師がニコリと笑った。

「我が愛しき弟の元に行くのでしょう?」
「……ええ」
「なら、手を貸してさし上げましょう。貴方方に我が大いなる力を貸し与えて差し上げます」

……随分上からの言葉。

「……我等に手を貸す必要など無いのでは?」
「貴方方では我が愛しき弟には敵いませんよ。精々惨めに返り討ちにされる程度」
「っ」
「だから、力を貸すのです」
「何故其処まで?我等は王の命で貴方の弟を捕えようとしているのですよ?」
「其れは私にも好都合……お前達もまた私の手足。あの男は自分の血筋に呪いを掛けた。其れが私に許される唯一の手段だったから」
「!?」
「お前達が生き残れるかどうか……お前達王族の命は私が握っている。長生きしたくば、精々役に立つことだ」

この男が元凶……!

最早最高魔術師としての顔すら脱ぎ捨てて、言われた言葉に殺意すら感じる。

だが、其れも呪縛で絡められ、強制的に抑えられる。

「さぁ、早く済ませましょう」
「!?」

彼が言うと同時に彼の手から黒い光が放たれ、俺達の誕生石に収束されていった。

「此れだけでも十分戦力は上がりました……精々呑まれない事だ」

呑まれる?

「…………っ」

俺の誕生石は元々金色をしていたが……真ん中の方が黒く染まっている。

嫌な予感がする……其れに、この誕生石は……

『月冴、慎理、二人は成人式後の誕生石、どうするか決めたか?』
『いや、まだだ。俺は騎士だから、出来れば動きに制限しない……手周りは止めておこうと思っている』
『僕は何処でもいいかな』
『なら、お揃いにしないか?』
『『お揃い?』』
『ああ。皆で同じ物にしよう……そうだな、ペンダントとかは?』
『それなら……なぁ、慎理』
『?』
『もしお前さえ良ければ、装飾の部分を作ってくれないか?』
『ぼ、僕が!?』
『それはいい!慎理はそういうの得意だからな』
『うぅ……後で文句は受け付けないよ』

この誕生石は、三人の思い出の物。

其れを穢された様な気がして、不愉快だった。

「では、失礼させて貰おう」

そして、最高魔術師は姿を消す。

「……クソ野郎」
「お兄様……」
「行くぞ」
「……ええ」

何故よりによって月冴と慎理だったんだ……!

俺の心を見せた二人が……

「…………」

任務は遂行する。

だが、月冴を奴に渡さない。

生かして・・・・捕えはしない。

月冴を殺してでも解放し、その体だけ捕えて渡す。

こればかりは……弟妹にも伝えられないな。

俺の事情に巻き込んで悪いとは思うが……な。









セイアッドside

「…………」

降り立ったのは、嘗て俺が拠点としていた場所。

「セイアッド様?」
「…………」

声に振り返れば、嘗ての仲間の子孫らしい男が立っていた。

「(この空気……間違いない、伝えられているセイアッド様ご本人だ)」
「怪我はどうだ」
「ハッ、大した事ありません」
「そうか……直に此処に兄上様の息が掛かった者達が攻めて来る」
「!!」
「お前達が闘いに向いているとは思えない。身を隠すなら、早く隠せ」
「分かりました。子供達を隠しておきます」
「?お前達はどうする」
「我々は貴方様と共に」
「……好きにしろ」

頭を下げた男を見送り、遺跡と化した家に入る。

「……月冴」

呼び掛けに応える声は聞こえない。

今尚、彼は彼処で眠っている。

「この世界を終わらせる。お前を傷付けているこの世界を……お前は俺を恨むか。お前を傷付ける原因となり、お前自身を更に追い込もうとする俺を」

もし、お前が本当に望むなら、俺はお前に───を渡す。

其れまでゆっくり休め。

世界は終わらせておくから。





桔梗side

「……あれ……?」
「!桔梗!」
「起きたの……?」

僕、何時の間に寝ちゃったんだろ。

其れに、どうして翡翠に抱えられてるんだろ?

「大丈夫か?意識がぐらつくとかあるか?」
「ううん。ないよ」

どうしてそんな事聞くんだろ?

ええっと、寝ちゃう前は……

『……来たか』
『?どうしたの?』
『幼きセオ、目覚めたら俺の遺跡においで。そうすれば、お前達だけでも次の世界に残せる』
『え?』
『行かなくては、な』

そう言ってセイアッドが僕の目を覆って……そしたら急に眠くなって……椿桔達の慌てたみたいな声を聞きながら寝ちゃったんだ。

「ぁ、月冴は?」
「行ったよ。どうなったかはまだ分かんねぇ」
「行った?」

翡翠は僕を抱え直して、部屋を出た。

僕達の後を鈴芽がついて来る。

「椿桔!」
「!翡翠、桔梗様……」
「月冴は?」
「去られてしまいました」

椿桔は何か耐える様な顔をした。

「椿桔……大丈夫?」
「っ……申し訳ありません。二度も、あの方を易々と……」

椿桔は月冴の事が凄く大事だから、護れなくて辛いんだろうなぁ。

僕も、其れは同じだから。

「椿桔、あのね」
「はい」
「僕をセイアッドの遺跡に連れてって」
「セイアッドの……?」
「うん。セイアッドがおいでって言ってた。僕はもう一度、セイアッドにも月冴にも会いたい」
「……御意」

椿桔が翡翠の腕から僕を抱き上げる。

「僕、自分で歩くよ」
「そうですね」

下ろしてくれた僕の手を椿桔が握った。

「共に参りましょう」
「うん!」
「俺も行くからな」
「私も」
「僕も行く。此れ以上兄上の好きにはさせない」
「……劔」
「はい?」

月冴のお父さんが男の人を呼び寄せ、胸に何か着ける。

「……いや、無言で何を団長の証を着けてるんですか?」
「此れからはお前が騎士団長だ」
「……はい?いや、今では無いでしょう?何混乱を巻き起こしてるんですか!?」
「元々騎士団長としてはお前の方が器だった。私は嫡男で剣術がお前よりも上だから騎士団長に選ばれたに過ぎん」

言いながら月冴のお父さんは上着を脱いだ。

「いや、其れは今関係ない」
「私は此れから父親として動く。其れに騎士団長の座は重荷だ」
「!……本気なのですか」
「ああ」
「……だから、其処まで入れ込むなと言ったのに」
「……?」

入れ込むな……?

月冴のお父さんは何処か困った様に笑っている。

「其れは無理な話だ。彼女が愛したんだ」
「……はぁ。承知しました」

その言葉を受けて、月冴のお父さんは僕の方に向き直った。

「私も共に行かせてくれ」
「は、はい」
「では向かおう」

月冴のお父さんが歩き出し、僕達も其れに続く。

「……桔梗」
「はい」
「月冴の事を教えてくれ」
「月冴の?」
「ああ。旅をしている間の月冴の事を」
「……えっとね、僕と出会ったのはお屋敷だった……でした」
「敬語は要らん。其れで?」

僕の話を聞くお父さん。

「そうか……やはり、あの子はいい子に育った」

そう呟いて、お父さんは僕の頭に手を置いた。

「どうか、あの子を頼む」
「え?」
「旦那様?」
「兎に角、行くぞ」




月冴の為に世界を制し、壊す事を望むセイアッド。

そのセイアッドを欲するギュネッシ。

ギュネッシの駒として動きながらも、月冴を解放しようとする凛音。

月冴の元へ向かう桔梗達。

運命が交差する。




end.
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