覚醒の章
月冴side
「…………?」
遠くから誰かが来る音がする。
先程絡珠が出て行ったが……戻って来たのか?
「月冴様!!」「「「月冴!!」」」
「「「「「隊長!」」」」
入って来たのは、月冴の仲間と部下達。
月冴の、だ……俺の、セイアッドのじゃない。
「…………」
「お迎えに上がりました」
「今、解きますね」
「近寄るな」
「「「!」」」
自分でも、思っていた以上に冷たい声が出た。
「何をしても無駄だ。此れは人間如きの力では解けない」
「しかし!」
「そのままじゃ無理にでも力を使われてしまう」
「だから何だ…………俺はもう疲れた。お前達人間の為に兄上様と戦い続けるのは……」
「そんなの月冴らしくない」
「月冴はもう居ない。俺はセイアッド……制する闇の子」
「月冴は月冴だよ」
「……っ」
桔梗が真っ直ぐに俺を見て来る。
その瞳はまるでセオの様だった。
……記憶は無くとも、同じだもんな。
「……今すぐ戻れ。この赤い鎖は……」
「お前達を破壊するのだから」
「「「「!!」」」」
「そうだろ?愛しの弟」
「兄上……様……」
気付くと、兄上様が俺の隣に居た。
そして俺の髪に触れる。
「やっぱり人間は信用出来ない。此処で見張る様に言った筈だけど?絡珠」
「……悪ぃが、俺は翡翠なんでな」
「そう。まぁ、どうでもいい……もう直、外の魔術師は魔獣と成り果てる。そうなれば如何に騎士団と言えど、数で負けるだろう……本当に醜いな。同じ人間同士殺し合う姿は。お前もそう思うだろう?」
「…………」
人間同士を争わせているのは……
「そうさせているのはお前だろう!」
「あんたのその悪趣味に!」
「俺達の隊長巻き込むなっつーの!」
「返して貰うよ」
「うむ。その方は我等の大切な人なのでな」
「……恵哉……瑠威、瑠嘉……紫苑……彰久……」
思わず名前を呼んでしまった。
直後、横から感じる殺気にハッとなる。
「人間の分際で……我が弟を誑かすか」
「っ逃げろ!!」
「ならば、その身で受けよ。お前達の隊長とやらの力を」
「ぁああああ!!」
赤い鎖が光り、体に激痛が走った。
そして、強制的に発動する力。
「此れが、再生を齎す破壊の力!」
意識が真っ白になる。
「……っ……か……はっ」
意識が戻った時には……自分の体すら支えられない程の脱力感に襲われた。
其れに加え、少しでも体を動かせば激痛が走る。
「……!!!」
何とか顔を上げれば……倒れている部下と仲間。
信頼し、俺について来てくれた部下が、大切だと思っていた仲間に覆い被さる様に倒れていた。
「ぁ……あああああ!!また俺の所為で!!俺の所為で人が!!俺が、俺が……!!」
「月……冴……!!月冴!!」
ききょう……?
飲まれそうになった思考の奥で、桔梗の声がした。
見れば、桔梗が紫苑の下から這い出て来ている。
桔梗だけじゃない。
恵哉の下から椿桔が、瑠威の下から鈴芽が、瑠嘉の下から螢が、彰久の下から翡翠が這い出て来た。
「まさ、か……」
「庇っただけで生きている、だと?……防御盾か、小癪な」
本来隊に一つ渡される防御盾も隊員一人一人が持っていたらしい。
その上で庇い、彼等を助けた……?
だが、それでも……
「月冴を……放して!!」
桔梗から強い光が放たれた。
此れは、魔法……セオに教えた……
「馬鹿だな。この鎖は破れない」
「月冴!!諦めないで!!お兄さん達の為に!!」
「……!」
桔梗に仲間が触れる事で、石が光り、更に力を与える。
『『『『『隊長!』』』』』
動かない彼等の声も聞こえた気がした。
「……っ」
「……ハァッ!」
「!」
ガキィイン
誰かが鎖に斬りかかった。
バキィイン
直後、壊れないと思っていた鎖が壊れ、その誰かに受け止められる。
それと同時に兄上様が一瞬で遠退いた。
「……騎士団長」
「……息子を頼む」
「は、はい!」
騎士団長……父さんが俺を椿桔へと預ける。
そのまま父さんは兄上様へと向かって行った。
「月冴……」「月冴様……」
俺の目は、倒れて動かない彼等に向けられる。
「た……い、ちょ……」
「!恵哉!!」
僅かに指を動かした恵哉。
それに、椿桔が彼の側に下ろしてくれた。
「隊長……私を……私達を……見つけてくれて、ありがとうございました……」
「動くな!今動けば……」
既に動かした指が黒く、ボロボロと落ちていく。
「冤罪で……嵌められた私を……隊長は信じて……拾って下さった……」
「当たり前だ!お前は仲間を裏切る様な男じゃない!其れに、俺と違って魔術師になれたのに、俺を選んでくれた!お前を信じるのは当然だ!」
「其れが……嬉しかった……のです……貴方は……私の……」
パサァ
「けい……や……?」
恵哉が……崩れた……?
「「隊長……」」
「瑠威!瑠嘉!」
「孤児になった俺達を……」「親が居ない事で荒れてた俺達を……」
「「見付けて、騎士団に居入れて騎士にしてくれありがとう」」
「るい……るか……」
手を伸ばしても、届く前に崩れる体。
「隊長……」
「彰久!」
「まだ、幼かった貴方が……私を、尊敬すると言ってくれた……だから、騎士で居られた……」
「止めろ、頼む」
「騎士でいさせて……くれて、ありがとう」
頼りにしていた体も崩れていった。
「たいちょ」
「駄目だ紫苑!お前は俺の部隊で一番若いのに……!」
「そんな若い……俺を、隊にいれて……くれた……」
「紫苑!」
「小さくて……舐められた……でも、隊長は……信じていれてくれた……そんな隊長の大切なもの……護れて良かっ……」
最後の彼も崩れる。
「なん、で……」
「月冴様……」
「そんな……何で……どうして、俺の手から抜けていく……!何で、皆、俺が俺の所為で、俺が居たから……!」
「月冴さ……」
「悪い」
ドッ
首に衝撃が走ると同時に、俺は意識を飛ばした。
『違う!私はそんな事をしていない!』
『……?』
恵哉と出会ったのは、俺が隊長になる前……唯の騎士だった頃に城に来ていた時だった。
魔術師同士の諍い。
まだ、その頃は魔術師への偏見も無く、俺は足を止めて其れを見た。
どうやら、彼が盗みを働いたとされ、魔術師から追い出されそうになっているらしい。
『失礼』
『『『『!』』』』
『彼はそんな様に見えない。今一度調べてみるべきでは?』
『なんだと貴様!』
『騎士の分際で!』
『騎士であるからこそ、冤罪を掛けられているなら止めたい。どうか、ちゃんとした判断を』
『黙れ!』
結局彼は魔術師を辞めてしまった。
『なら、俺の所に来ないか?』
『え?』
『お前が今から騎士を目指せば、きっと俺が上司になる。魔術師になれるだけの実力がるんだ。きっと騎士としてもやっていける。其れで、俺を助けてくれ。そして一緒に強くなって、あんな奴等見返そう』
『……はいっ』
そして、俺の元にやって来てくれた恵哉。
何時だって、俺を支えてくれた。
『『は、雑魚いな!』』
『ああ、随分威勢がいいな』
『『!』』
瑠威と瑠嘉と出会ったのは、まだ魔獣の襲撃で王都が荒れていた頃。
両親を失った彼等は、路地裏を拠点にして所謂悪い事をしていた。
そんな彼等を見付け、追いかけ回して軽くお仕置きしたのが俺だった。
『それにしても、廃らせておくのは勿体無いな』
『『ゼェゼェ……?』』
『俺と一緒に来ないか?お前達程の力があれば、きっといい騎士なれるぞ』
『……俺達が負けたんだ』
『あんたに従うよ』
彼等に手を差し出したのも俺で、二人はその手を取ってくれた。
それからずっと隊のムードメーカーとして、何時も俺に笑顔をくれた。
『……!』
『あー……初めまして?』
彰久と出会ったのは、屋敷。
父さんが連れて来てくれた初めての騎士が彼だった。
父さんや叔父さんは屋敷では身内に変わるから、純粋な騎士は初めてで輝いている様に俺には見えていた。
『騎士様なのですね!』
『え、ああ……』
『凄い、本当の騎士様だ……』
『……そんな凄い存在じゃないぞ?』
『そんな事ありません!自分の命を懸けて戦う騎士様は、心から尊敬出来ます』
『……ありがとう』
そう言って、俺の頭を撫でてくれた。
それから隊長になって直ぐに俺の所に来てくれて、何時だって頼りにさせて貰った。
『本当に戦えるのか?』
『……?』
『舐める……な』
紫苑と出会った時、彼は今以上に小さい体で、屈強な騎士に囲まれていた。
『……!お前、噂の天才君だな?』
『!』
『おー倅君』
『こんにちは。お前の噂は聞いている。小柄だからこその立ち回りが上手いと。良かったら俺の所に来てくれないか?俺も素早い戦いが得意だから、似た様な戦い方の者がいると助かる!』
『…………』
『ね、熱烈だな』
紫苑は俺から猛アピールして、隊に来て貰った。
最年少だったが、其れでも実力を発揮し、刺激し合え存在だった。
其れが……其れが……俺の所為で、皆……壊れてしまった。
「あ……ぁああ……ああぁぁぁああああ!!」
《……すまなかった。俺とお前は違うというのに、お前に押し付けてしまった》
「……セイ……?」
《眠れ……後は俺がやる》
end.