覚醒の章

月冴side

遠い昔。

天上の父上様が眠られた後、俺は人に混ざって繁栄を見続けた。

兄上様も其れは一緒だった。

初めは他の生き物や自然と共存し、穏やかだった人間達。

だが、何時の頃からか其れが変わってしまった。

人間は欲を求め、次々と破壊し奪っていく様になってしまった。

俺は、人間達を止めようと必死だった。

兄上様は早々に人間を見捨ててしまった。

だが、俺はもう少し待ちたかったんだ。

欲に溺れるのだけが人間じゃないと信じて。

その頃には、俺はもう人間を愛していたから。

俺だけじゃなく、俺と共に来てくれたエルフ族、そして俺の言葉に賛同してくれた人間達も一緒に来てくれた。

俺はエルフ族に安寧の地を、彼の人間達に俺の名前でもある月の名前を与えた。

そうする事で、彼等に力を与え、護る事が出来た。

だが、其れを見ていた人間達に、俺は捕らえられてしまった。

人間達は独占する為に俺の破壊の力を無理矢理引き出させ、自分の敵を滅ぼそうとした。

「止めろぉお!!」

俺は赤い鎖に抵抗した。

其れが結果的に俺を捕らえた者達を死なせてしまった。

「止めなくては……」

其れでも、人間の戦いは止まらなかった。

「此処までした人間達をまだ見捨てないのか」
「俺は……人間を信じたい……」
「お前を利用し傷付けたのだぞ!!私は……人間を許さない」

兄上様は人間を見捨てる処か滅ぼす事を決めてしまった。

兄上様も、戦いも止めないといけないのに、俺自身疲労してしまい動けなかった。

そんな俺を見たエルフ族が覚悟を決め、己の姿を変えて人間達に向かってった。

「お前達……!!」

そんな覚悟に俺も疲労した体を動かし、魔獣を生み出して放つ。

この魔獣は聖獣となった者達を護り、戦いで汚染されてしまった地を治す能力を持たせた役割を持たせた。

其れに対し、兄上様は魔術を人間達に与えてしまった。

魔術は術式を組み、己の魔力を使う事で負である穢れを体内に貯め込んでしまう。

俺が其れに気付いたのは、穢れを貯め込み過ぎた人間達が次々と魔物と化したからだ。

俺は直ぐに魔術を使うのを止めようとしたが、俺を敵視していた人間達は聞く耳を持たなかった。

魔術で俺の味方が傷ついていってしまうのもあり、俺は魔法を味方達に教えた。

魔法陣を描き、万物に宿る精霊の力を借りて行使する。

だから、体に影響はない。

そして、魔物と化した者達を従え残った人間を滅ぼそうとする兄上様と戦う覚悟を決めた。

「兄上様!俺はこの世界も人々も愛しています!だから、貴方を止めます!」
「何故だ!?お前を傷付けたこんな世界は要らない!全て壊して再生させる!!」

俺は護る為に、兄上様は壊す為に、俺達は戦った。

だが、同じ位父上様に力を与えられ、全く異なる力を持つ俺達の戦いは拮抗し、やがて互いに力を使い果たした。

その頃には、魔物は討伐されたが全ての存在がボロボロになっていた。

だから、俺は自分の責任として、ボロボロになってしまった物を俺が破壊した事にして其れを使い、世界を再生した。

だが、其れが俺の残った最後の力だった。

自分の器を犠牲にして使った事で俺は魂ごと消滅する所だった。

「セイアッド!!!」

兄上様の叫び声。

其れを聞いた直後、俺はとある石に封じられた。

魔力に満ちた石により、俺の魂までは消滅しなかったが……

今度は兄上様の器が崩壊した。

直ぐに兄上様は近くに居た人間に宿る事で魂の消滅を防いだ。

その戦いは此れで終わった。

人間はこの戦いを無駄にさせまいと戦いを止め、俺が再生した世界を慈しんでくれた。

だが、人間は時が過ぎれば忘れてしまうもの。

俺が力を取り戻した頃には、また人間は戦いを始めてしまった。

其れに兄上様は魔術を与える事で魔物にしてしまい、俺は人間が必要以上に魔術を使わせない為に制御石を与え、人間達による汚染を制する為に魔獣を使い、破壊しては再生をした。

其れを何度も繰り返した。

軈て兄上様はその繰り返しに世界を恨む様になり、俺自身もその繰り返しに疲れていった。

そんな矢先に出会ったのが、セオだった。

セオは俺を色んな所に連れ出し、俺との思い出を作っていった。

セオだけが、俺に無理をして俺の役目をしなくてもいいと言ってくれた。

其れは嬉しかったが、俺は其れでも役目を果たした。

そして、次に目を覚ました時……俺は人間の元にいた。

彼等は月の名を冠していたのもあって、俺の味方になってくれた者達の子孫だと分かった。

その一族の子供は、セオ同様に連れ出してくれた。

思い出を……作る筈だった。

だが、あの日、あの子を死なせてしまった。

いや、死なせたくなくて……俺自身があの子に成り代わってしまったんだ。

「俺は……俺など……」

最初から居なかった方が良かったのかもしれない。

俺が居たから、戦いが激化し、無駄に多くの血を流させてしまったのかもしれない。

「何故……俺を生み出してしまったのですか……父上様」

俺は……もう疲れた。

俺がセイアッドに戻った事で、月冴も死んだ様なものだ。

「おれは……」





椿桔side

流石に少数精鋭の月と私達を相手にして、絡珠は勝てなかったらしい。

絡珠は膝をついている。

「教えて、翡翠。月冴は何処に居るの?」
「っ、俺は空の絡珠だ……魔術師を護り、有益にする為に……」
「だから、僕は翡翠に聞いてるんだよ。僕の仲間で、月冴の友達の翡翠に」

桔梗様の言葉に……絡珠は深く溜息を吐いた。

「本当に勘弁してくれ……俺のキャラじゃねぇっての」
「お兄ちゃん……」
「悪かったな、鈴芽……本当は空絡珠なんざもう居ねぇってのに」
「空の一族は代々魔術師を輩出し、魔術に人生を掛ける一族……だからこそ、最高魔術師に従う。そして、本来なら其れを背負うのは鈴芽殿だった」
「!私の……代わり?」

その言葉に彼は苦笑する。

「……何時からです」
「あの村で気絶した時に最高魔術師が接触してきてな」
「成程な」
「……翡翠」
「!」

 スパァアン

「「「「…………ぇ」」」」

その時、螢が思いっ切り彼の頬を引っ叩いた。

「鈴芽の事もあるから、此れで済ませてやる」
「…………あ、はい」
「じゃあ……私も」
「え」

 ドゴン

「~~~~~っ」
「「「「「うわぁ……」」」」」

鈴芽が思いっ切り杖で頭を叩いた。

……鈍い音したなぁ。

「えと、えと、ぼ、僕も?」
「……まぁ、今はいいでしょう。今は月冴様の元に案内して頂かねば」
「あ、ああ」

……戦闘でボロボロな上に頬が赤く頭にたん瘤。

うん、後回しにしよう。

後でまたボロボロにしてやる。

「……此方だ」

翡翠が私達に背を向けて駆け出した。

「……彼奴は、最高魔術師の言う通りにするらしい」
「え?」
「抵抗しないまま、世界を壊すそうだ」
「世界を……」
「壊す……やっぱり、セイアッドが壊す者、なの?」
「……どうだろうな。少なくとも壊す力は持ってるらしい」

セイアッド、か。

月冴様がセイアッドで……この世界を壊す。

だが、其れは……月冴様なら絶対に望まない事。

セイアッドと月冴様なら、私は月冴様を取る。

例え、月冴様がセイアッドとして諦めている状態でも、月冴様の願いを通す。

「……お前等にとって、月冴はどんな存在だ」

ふと、翡翠が此方を見ないまま聞いて来た。

「私にとっては、月そのものですね」
「月?」
「私に光を与えて下さった。強過ぎず、優しい光を」
「……それなら、月咲は太陽だったな」
「私は、私の月を取り戻す為に動きます」
「俺は、俺の太陽を取り戻そうとしてたのかもな。けど、迷ったり強制されたりした時点で俺の負けだな」

月と太陽、か。

太陽と言えば……

「ギュネッシ」
「?」
「まさか、慎理殿がそういう存在だとは思わなかったです。彼と最高魔術師は違う存在だと思っていましたが……」
「……確か、神話では人に宿るのが破壊する者で、石に宿るのが護る者じゃなかったか?」

要殿の言葉にハッとする。

なら、破壊を望んでるのはギュネッシ?

セイアッドを其れを阻止しようとしていた?

「……ああ、もう……訳が分からない」
「うん、頭一杯一杯……もう、月冴を取り戻してからにしよう」
「……賛成です」

兎に角、私達は月冴様を取り戻す為に走った。



end.
2/9ページ
スキ