旅立ちの章
「神話の記憶ですか?彼方になりますね」
「…………」
神殿まで来れば、街にあったものより大きな結晶が。
俺と桔梗は其れに触れる。
『遥か古の時代
陸も 海も 空も
まだ無かった時代』
女性の声で語られる神話。
此れが……後世まで……
ブワァアアア
「…………!」
目の前に様々な色が渦巻く何かが現れた。
其処から眩い光と深い闇が出てきて……其れが人の形を取る。
そして、光と闇が足先から姿を形成し現れていった。
「まさか、原初の兄弟……」
『見ては駄目』
「!」
目の前を手で覆われる。
『知っては駄目……少なくとも、今はまだ』
「この……声……」
『お願い。もう少し私達の子供でいて』
「母……上……?」
どうして母上が……
「──……─冴……月冴!」
「っ」
声にハッとなると、桔梗が俺の腕を引いていた。
「大丈夫?気分悪い?」
「ぁ、いや、何でもない」
……あ、声が終わってる。
少し勿体無い気がするな。
其れにしても、あの映像は一体……
「月冴様、お疲れでしたら宿で休みましょう」
「……ああ。そうだな、悪い」
「いえ」
「無理しちゃ駄目」
「……ありがとう」
俺達は一先ず宿に戻り、一足先に休ませて貰った。
『何故この様な事をした』
『……私は私の使命を果たす』
『こんな世界の為にか』
『私は……こんな世界でも……』
「……夢」
誰か言い争う夢。
顔は見えなかったが……
「似ていた……神殿で見た人達と」
そう言えば、あの様々な色が渦巻く何か……まさか、創造神……?
「……んー……」
声に視線を落とすと、俺と同じベッドで寝ている桔梗が居る。
そんな桔梗の頭を撫で、俺はベッドから抜け出した。
俺と桔梗、椿桔と翡翠、鈴芽と螢で各々部屋を取って、ベッドも各々あるのに俺と一緒に寝るんだな。
「結構、冷えるな……」
「螢ちゃん、騎士の月冴が好きなんだね」
「っ!」
バルコニーに出たら、声が聞こえる。
視線を向けると、女部屋の窓が開いていた。
「……そうなのかもしれない。僕を女として、騎士として、初めて見てくれたのは月冴だ。其れもあるし、僕にとっての月冴は騎士そのものだ」
「今の月冴は?」
「……正直戸惑っている。騎士ではない月冴には慣れないし、憧れている姿とは違う……だが、騎士ではないなら今の姿でいいのだろう」
「うん、そうだね。お兄ちゃんが心配してた。月冴は直ぐに背負ってしまうからって」
「其れは騎士の頃から変わらないかも」
此れは……多分聞いてはいけない会話だな。
俺は部屋に戻る。
「……僕は月冴と対等になりたい。その為にも騎士であり続けたい」
翌朝。
俺は早めに起きて神殿を訪れていた。
「あの絵画は創造神を描いたとされているのですよ」
「創造神……」
其処に描かれていたのは、白い人型の翼を持つ者。
「──……」
「月冴様」
「!」
「此方にお出ででしたか」
「椿桔……ああ、早くに目を覚ましてしまってな」
「お声を掛けて下されば良かったのに」
「寝てたら申し訳ないからな。翡翠も居るし」
「気にされなくて良かったのに……あ、桔梗様が探しておいででしたよ」
「分かった、もう戻る。ありがとうございました」
「いえ」
俺は最後に残っていた光と闇の兄弟を見ずに、宿へと帰る。
「……残念。彼には是非見て欲しかったのにな」
ペンダントになっている誕生石が光っている事にも気付かなかった。
「あ、月冴。何処行ってたの?」
「神殿にな」
「月冴、ちょっと相談がある」
「どうした?」
「アレ」
「!」
翡翠が親指で指した先。
其処には如何にも魔術師といった格好の奴等が居る。
「帽子があるから、多分バレないとは思う」
「けど、念の為出発しようって相談。来たかった街に来て早々に出る事になっちまうが」
「構わない。来たい街に来れたし、神殿も見れた。今は此れで十分だ」
「そっか。じゃあ、出るか」
俺達は魔術師に目を付けられない為にも、街を出る事にした。
「おっと」
「おお、お出迎えか?」
街から少し離れた所で魔物に出会す。
直ぐに俺達は戦闘態勢に。
「って、こら!射線に入んな!」
「飛び道具等といった卑怯な道具の事等知らん!」
「はぁ!?」
……何か、翡翠と螢が喧嘩してんな。
「おい、集中しろ」
「「分かってる!」」
「…………!」
同時に叫び返して来た二人……翡翠のバンダナに付いてる石と螢のブレスレットに填められている誕生石が光を宿した。
何だ、あの光……
「月冴様!」
椿桔の声に魔物に視線を戻した時だった。
ビュン
俺の横を風を纏った弾丸が通り、魔物に命中する。
そして、命中した箇所から旋風が発生した。
思わず翡翠に振り返る。
翡翠は撃った態勢で、目を瞠いて固まっていた。
「はぁ!!」
「…………」
その直後、打ち込まれた螢の槍。
僅かに光の塊の様な物が纏わりつき、突かれた箇所からその光が魔物全体に広がる。
ビリリリリ…!
その光は魔物を痺れさせ、倒した。
螢の方を見れば、槍先を見詰めている。
「……何だ、それ」
「月冴?」
「っ」
彼等から目を逸らし、残っていた魔物を一刀両断した。
ああ、やはり魔力無しと魔力有りじゃ全然違うんだな。
魔物を一掃し、自分の手を見る。
何故俺には魔力が無い。
母は魔術師で、祖父が学園長……なら、何故俺は其れを受け継がなかった。
騎士としての俺ももう無い。
俺は……
「月冴?」
「っ!あ、ああ、どうした?」
「えっと……具合悪い?」
「いや、大丈夫だ」
心配そうに俺を見上げる桔梗の頭を撫でる。
考えたって、仕方ない。
「翡翠、螢。今の何だ?」
「俺もよく分からねぇ。何か、熱くなったと思ったら今撃たないとって思った」
「ぼ、僕も今突かないとと思って」
「誕生石が光っていましたね。何か関係が?」
「…………」
椿桔の言葉に二人は其々の誕生石を見た。
「螢様は何かご存知ではありませんか?」
「え、僕?」
「……騎士の方なら何かしらご存知かと思ったので」
椿桔?
何を螢に聞こうとしたんだ?
「椿桔」
「はい」
「いや……あまり螢を虐めるなよ」
「畏まりました」
「僕は虐められてない!」
噛みついて来る螢の頭を軽く叩く。
「障害も無くなったし、進もうか」
「うん」
俺達は先へ進む事にした。
「……月冴」
「ん?」
「えっと……」
「疲れたか?」
「あ……うん」
「もう少し進んだ先に乗り合いバスが出ている所があった筈です。其処まで行けますか?」
「何なら背負うぞ」
「大丈夫だよ」
困った様に笑う桔梗に手を差し出す。
桔梗はしっかりとその手を握り返した。
「(月冴……君は本当に……)」
桔梗と一緒に歩き出せば、椿桔が続き、翡翠と鈴芽が歩き出す。
最後に螢がついて来た。
其れから俺達は乗り合いバスに乗り込む。
俺に寄り掛かって眠る桔梗。
そんな彼の頭を撫でた。
「月冴様、此方を」
「ああ、ありがとう」
椿桔が出してくれた毛布を桔梗に掛ける。
「……あ、そうだ。螢」
「え?」
少し離れた席に座る螢に小箱を放り投げた。
「こ、れは……?」
「お前に似合うと思ってな。朝の掘り出し市で見掛けたんだ」
「……!」
中に入っているのは雪の結晶の飾りが付いたヘアピン。
「今はまだ必要ないかもしれないが……良かったら、髪伸ばせ。お前の髪綺麗だからな。きっと美人になる」
「……!!」
「……良かったね」
「鈴芽」
「!わ、と」
螢の隣に座った鈴芽にも同じ様に小箱を投げ渡す。
鈴芽に渡したのは、小鳥の飾りが付いたイヤリング。
「鳥、好きなのかと思って。無理に着けなくていい、良ければ受け取ってくれ」
「…………!(ど、どうしよう……私……)」
「…………(鈴芽、ちゃんは……)」
「兄の目の前で妹に贈り物とかいい度胸だな」
「お前にもあるぞ?」
「は?」
翡翠に渡したのは銀色のバングル。
「お前達には迷惑を掛けたからな。せめてもの礼だ」
「こんの天然タラシ」
「わっ」
翡翠がキャスケット越しに俺の頭をグリグリと撫でて来る。
「随分と悩まれておりましたし、喜んで頂けた様で良かったですね」
「ああ……本当は椿桔にも渡したかったんだけどな。追い掛けて来てくれて、助けてくれたというのに」
「……私は、もう十分頂いておりますから」
本当に嬉しそうに笑う椿桔。
……貰ってばっかりだな。
「まぁ、そういう訳だ。良かったら受け取ってくれ」
「おう、ありがとな」
「……ありがとう」
「ああ」
受け取って貰えた様で何よりだ。
彼等が微笑んでくれたのを視認し、俺は桔梗に視線を戻した。
「なぁ、椿桔」
「はい」
「桔梗を俺の養子に出来ないかな」
「「「「……え」」」」
「桔梗の事を家族にしたいんだ。椿桔の頃は俺は成人して居なかったし、お前が使用人がいいと言ったから湊の名は渡せなかったが……」
「……えっと、恐らく可能ですが、其処は旦那様が養子として迎え、月冴様の弟にされた方が宜しいのでは」
「………………父上が受け入れてくれるかどうか」
「私からお伺い致しますから。ね?」
「ああ……じゃあ、頼む」
桔梗の事が此処まで愛しくなるとはな……。
「……(あ、此処……)」
「椿桔?」
「……いえ、何でもありません」
『旦那様へ
月冴様から桔梗様を養子にしたいというお話あり、戻られた際にはご検討願います。
それと、華の螢様が合流されました。
どの方のご命令かは分かりませんが、戦力は十分整ったといえましょう。
此れからも月冴様の事は確りと御守りさせて頂きます』
「……少なくとも、私の指示ではない。華の……?いや、もっと上。あの噂は本当なのか?王族は……殿下は本当に月冴の味方なのか」
「上手く合流出来たみたいだな……月冴を頼んだぞ」
end.