旅立ちの章
慌ててラフテルを出た俺達は遺跡の様な所で野宿をしていた。
「……この遺跡、何時の時代の物だ?」
「さぁ……記録にはありませんね」
料理当番の翡翠が昼食を用意する間、俺達は思い思いに過ごす事に。
俺は椿桔と遺跡の探索、桔梗は鈴芽に魔術を習っている。
「ん、椿桔」
「はい?」
「この紋章……」
「!此れは……」
椿桔と出会った頃に見た紋章を見付け、其れについて話そうとした時……
「こんな辺境まで逃げ延びていたんだな」
「「!」」
「元隊長の騎士ともあろう者が、逃げた先で野宿とは。誇りは捨てたのか?」
声に振り返ると、其処には騎士の制服を着た者がいた。
「螢?」
「おや、螢様。何故此処に?」
「もう少し緊張感を……」
「ん?」
「持たないか!」
「おっと」
と、螢が槍片手に迫って来る。
其れに俺も黒刀を出して対応した。
「全く君という男は!」
「えっと?」
「騎士を追い出されただけでも十分案じるべき事なのに!」
「ん?」
「何故そうも事件を起こす!」
「起こしてるんじゃなくて、巻き込まれてるつもりなのだが……」
向けられる槍を受け流す。
パァン
「「!」」
「騎士様が何で月冴を襲ってんんだ?」
彼女の突きは翡翠の弾によって止められた。
「何だ、君は。騎士同士の事に部外者は割り込んで来ないで貰いたい」
「月冴は騎士じゃねぇだろ。つーか、襲い掛かって来といた上に質問に答えないって、随分礼儀知らずだな」
「なっ」
「落ち着け。翡翠、彼女は敵じゃない」
「騎士だから敵では無いんだろうけど……って、彼女!?」
翡翠の驚いた声が辺りに響く。
「改めて彼女は皇螢。百合部隊と言われる女性だけの部隊の騎士だ」
「そうかい。さっきは悪かったな。俺は帳翡翠。よろしくな」
「……意外だな。謝罪されるとは思っていなかった」
「?悪い事したら謝るのは当然だろ?」
キョトンとする翡翠を意外そうな顔をする螢。
「で、こっちは……」
「妹の鈴芽です」
先程の翡翠の声に集まって来た鈴芽が翡翠の隣で上品に挨拶した。
「えっと、桔梗、です」
同じく集まって来た桔梗が俺の後ろに隠れながら挨拶する。
「僕は皇螢。よろしく頼む」
「で、何故此処に居るんだ?」
「事件に巻き込まれる君を案じて、僕に合流する様に命を受けたからだ。僕は君の弟子の様なものだからな」
「「「月冴の弟子!?」」」
「そんな大層なものじゃない。知り合いに頼まれて、騎士になるまで軽く指導しただけだ」
ある日、凛音が騎士志望だから指導してくれと連れて来たのが螢。
基礎的な事だけ指導し、槍が合ってると判断した後に華を紹介した程度だ。
「螢」
「何だ」
「誰の命を受けたんだ?」
「……其れには守秘義務がある」
「……そうか」
俺には言えない、か。
「取り敢えず、此れから一緒って事?」
「そうなる、のか?」
「そうだな」
俺の問い掛けに螢はコクンと頷いた。
「よろしくね」
「あ、ああ。よろしく」
鈴芽が手を差し出すと、螢は少し躊躇いながらも握り返す。
「あの、お友達になってくれる?」
「お友達?」
「うん……私、あんまりお友達居ないの」
「え?あの加奈ってのは友達だろ?」
「あの子以外、居ないの。皆、私には声を掛けないから」
「そう、か。僕で良ければ」
少しだけ表情を険しくさせた螢。
相変わらず分かり易いな。
螢の頭に手を置いた。
「螢は少し面倒な性格なんだ」
「面倒とは何だ、面倒とは」
「もう少し素直になってもいいんじゃないか?可愛らしい顔してるんだから」
「いっ」
バシッ
「!?」
何で今、俺叩かれたんだ?
頭に置いておいた手を叩き落されたんだが。
「君は!昔から本当に!この鈍感!」
「????」
「……相変わらず天然タラシなんだな」
「其れが月冴様ですから」
「天然タラシってなぁに?」
「無自覚に人を褒めて甘やかして色んな意味で好かれる感じ」
「じゃあ、月冴だね」
「誰が天然タラシだ」
螢にポカポカと叩かれながら彼等に反論する。
「で、お前は何時までやってんだ」
「煩い!君なら簡単に避けれるだろ!」
「?俺がお前を怒らせる様な事してるんだろ?其れに下手に避けたら怪我するだろ」
「!」
俺に半ば寄り掛かる様に叩いてる状態の為、俺が避けたら倒れてしまう。
其れに気付いたのか、バッと螢が仰け反った。
「だから、いきなり動くと怪我する」
「う、煩い」
そんな螢の腕を掴んで支える。
「昔から言ってるだろ。いきなり動かず、一度考えてからにしろと」
「わ、分かってる……こんなの君以外にしない」
「俺以外にも気を抜く相手を作った方がいいぞ」
「っ本当に君は!」
「???」
「致し方ありません。月冴様はそういった方面は経験ありませんから」
「人気ありそうなのにか?」
「可愛がっている騎士団に妻の忘れ形見を心から愛する騎士団長と隊長大好きな月の部隊の方々の前で?」
「自分外してんぞ」
「手紙は私が」
「まさかの実行犯かよ」
何の話をしているんだ?
俺が首を傾げると、桔梗も首を傾げた。
「……こうして見ると姉妹にしか見えないな」
「……螢、久々に稽古つけてやる」
「∑」
「何度言っても分からないなら、教え込むしかないよな?」
「は、はい」
「(元弟子だけあって)」
「(容赦無し)」
其れから螢を扱き、その日は野宿。
翌日、俺達は出立する事に。
「あの、ね」
「ん?」
「騎士ってどんな感じ?」
「え?」
「月冴も騎士なんだよね?」
「元、な。元」
「……僕と月冴は所属が違う。僕は女性だけで、月冴は少数精鋭の部隊だから」
「しょうすうせいえい?」
「少なくとも優秀なメンバーで特殊な任務をこなす者達です」
「……!格好いい」
桔梗からキラキラとした目を向けられ、思わず目を逸らす。
「そういや、任務って実際どんな事してんだ?」
翡翠の問い掛けに俺は螢と視線を交わした。
「僕は女性だからこそ、女性に関わる任務をしていた」
「俺は変な能力や無駄にでかかったりする魔物の討伐を任せられてたな」
「そうなんだ。月冴も螢ちゃんも凄いんだね」
「ちゃん……?」
「螢ちゃん女の子なんでしょ?」
「……」
螢はその言葉に目を逸らす。
「……僕は性別上女だが、騎士として男に負けるつもりはない。僕の目標は変わらない」
そして、真っ直ぐに俺を見てきた。
「?何だ?」
「(そっか、螢ちゃんも月冴に憧れてるんだ。それで、月冴の言葉とか真似してるのかな?)」
「月冴様を目標とされる方は多いですから」
「いや、其れはないだろう…………ろくに魔力を持たない俺なんかには」
「…………っ本当にお前は」
「!?」
ぐぃ~と翡翠が俺の頬を引っ張る。
「俺だって精々風を操る程度の魔力しかねぇっての。だから、銃とか覚えた。お前の剣はお前の実力。んで、お前について行きたいって思わせるのもお前だからだ」
「…………」
そう言う翡翠の目を見詰めた。
……騎士としての価値以外、俺には無いと思っていたんだがな。
「……ありがとう」
「?おう」
「…………変わったな、月冴」
「え?」
螢が少し顔を険しくして言ってくる。
「以前の君は騎士として凛としていた。今の君は少し……腑抜けた」
ふ、腑抜け……!?
「その言いはどうかと思いますが?」
「え?あ、すまない。その、表情豊かになったというか、変な緊張感が無くなったというか」
腑抜けか……いかんな。
ただでさえこの旅は俺の事情で逃亡劇となっていると言うのに……肝心の俺が腑抜けているとは。
辞めたとしても騎士だった身でなんという失態。
「(あーあ、やっと肩の力が抜けてきたって所なのに)」
「(また重すぎる荷物を背負わなければ良いのですが)」
「……あ、彼処」
「「「「「!」」」」」
鈴芽が指した先に、街が見えた。
「位置的に……」
「メモリアル」
「!」
「俺が目指していた街……」
「え、適当に逃げていたんじゃねぇのか?」
「……一応の目的地は作っていた」
メモリアル……一度訪れてみたかった地。
あの伝説を記憶として伝えている街。
「…………っ、いや、あの街は避けるべきだな」
「え?」
「あの街は年に一回最高魔術師が訪れる地だ」
「!」
「だから、あの街には魔術師やその関係者がいる可能性がある。少なくとも俺は入るべきではない」
特に、俺は行く先々で魔術師との衝突を起こしている。
だから、俺はこの街には入らない方がいい。
「翡翠、俺はそこら辺で待機してるから、桔梗を頼む」
「「え」」
桔梗を翡翠に託し、俺は今来た道を戻った。
「……川なんてあったのか」
川辺にあった岩に座る。
「宜しかったのですか」
「椿桔」
「メモリアルは昔から長期休暇が出たら行ってみたいと……」
「状況が状況だからな。お前こそ行って良かったんだぞ」
「私は月冴様のお側に」
そう言い、椿桔は俺の後ろに控えた。
「……っ、月冴!」
「螢?」
「ぼ、僕は騎士だから、あの街は入りづらい」
「そうか」
「……隣、いいか」
「ああ」
隣に座る螢。
俺は時間潰しに本を広げる。
「その本、あの伝説のか」
「ん?ああ」
「本当に伝説が好きなんだな」
「ああ……懐かしい気分になる」
「懐かしい……気分?」
「……前から思っていたんだが、螢は何故騎士になる事を選んだ?」
「え?」
「其れに、凛音とお前の関係は何なんだ?」
「其れ、は……」
躊躇う様に視線を泳がす螢。
……言えない事か。
「無理に話さなくてもいい。凛音は秘密主義な所があるしな」
「!月冴……」
凛音が連れて来た時点で、螢にも事情があるという事だ。
「……どうして、其処まで優しくなれる」
「ん?」
「君は、どうして其処まで優しくなれるんだ。君は……本当に……」
「……?ほた……」
「月冴ーー!」
「っと」
背中に桔梗が特攻してきた。
其れにバランスを取ると同時に頭に何か被せられる。
「それ、私と桔梗君の合作。正体がバレない様に魔術を掛けたの」
「…………」
被せられたのはキャスケット。
「月冴も行こう。僕は月冴と一緒に行きたい」
「……桔梗」
「ほら、行くぞ」
「翡翠」
翡翠に腕を引かれて立ち上がった。
「(僕は……騎士として、月冴と一緒に行くんだ)」
「月冴様はお優しい方です……そんなあの方を傷付けるなら、誰だろうと許さない」
「っ」
「其れが魔術師だろうと、騎士だろうと、王族だろうと」
「!君は何を……」
「…………」
俺はついて来ない二人に振り返る。
「椿桔?螢?」
「何でもありません」
「……(一体、何者なんだ……この椿桔という男は)」
追い掛けてきた二人と共に、桔梗に手を引かれて街へ入る事に。
「…………!」
伝説が語り継がれる街、メモリアル。
別名……
「結晶の街」
結晶に記憶を預け、後世に伝える。
其れが彼方此方に置いてあった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「何かお探しのものはあるかい?」
青年に話し掛けられ、軽く会釈する。
「……神話の記憶はありますか」
「ああ、それなら神殿にあるものですね。彼方です」
手で刺された方向を見た。
其処には確かに神殿が存在している。
「月冴、行こう」
「あ、ああ」
桔梗に手を引かれ、その神殿へと向かった。
.