上弦との戦い編
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「止まれ……息をしろ!炭治郎!」
ゴホッ
「ゲホッゲホッ!ゲホッ!グッ…ゴホッガハッ!!ゲホッゲホッ」
咳き込み、蹲る炭治郎君。
「惨めよね、人間っていうのは本当に。どれだけ必死でも所詮この程度だもの。気の毒になってくる」
「そうか……私も君が気の毒だ」
「!!」
「雪の呼吸 壱ノ型“細雪”」
刀を帯で防ぎつつも、間一髪で避けた。
私も距離を置かせるのを目的にしていた為、加減して振るったので特に問題ない。
「炭治郎君、大丈……禰豆子嬢?」
ドゴォ
「…………」
禰豆子嬢が花魁鬼の頭を蹴り飛ばす。
禰豆子嬢……?
「ヴーーーーーッ!ヴーーーッ!」
「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」
「炭治郎……」
口を覆う手の間から血が出ているのを見て、癒しの炎を使った。
「ううう゛っ!ううう゛っ!」
「よくもやったわね!アンタ…!!そう、アンタ、アンタなのね!
あの方……鬼舞辻が禰豆子の事を花魁鬼に話した?
お館様の言って通り、禰豆子嬢には何かあるのだろう。
「ええ、勿論。嬲り殺して差し上げます!お望みのままに…!!」
気絶した炭治郎君を受け止める。
ドンッ
「……チッ」
禰豆子嬢が飛び出し、私は一度屋根から降りて寝かした。
「……直ぐに戻る」
彼に羽織りを掛け、禰豆子嬢を追い掛ける。
……まずい状況だ。
今の禰豆子嬢は……完全な鬼だ。
「………………禰豆子嬢」
私が着いた時、禰豆子嬢は……額の右側から角を生やし、体の様々な場所に葉の様な痣が浮かび、大人となった姿の禰豆子嬢が花魁鬼を圧倒していた。
禰豆子嬢は血鬼術で花魁鬼を燃やし、執拗に踏みつける。
その表情には……笑みが。
ギャド
禰豆子嬢が花魁鬼を側の店の二階へと蹴り飛ばした。
「ハーーッ、ハーーッ」
「……此方だ、禰豆子嬢」
花魁鬼に傷付けられた所を禰豆子嬢へと向ける。
そうすれば……禰豆子嬢は私に突っ込んできた。
……此処には一般人が居るからな。
私へと集中させるべきだろう。
「主!」
「……切国」
駆け付けた切国が私を引っ張りつつ、布で禰豆子嬢の視界を一時的に塞ぐ。
「……斬るぞ」
「…………」
駄目だ……だが、私では彼女を傷付ける方法でしか……
「禰豆子!!」
その時、布を払い除けた禰豆子嬢の後ろから炭治郎君が現れ、彼女の口に日輪刀を当てて止めようとした。
「だめだ!!耐えろ!!」
「グアアアッ!」
「だめだ!!」
「辛抱するんだ!禰豆子!!」
「炭治……切国?」
暴れる禰豆子嬢と抑えようと羽交い締めしている炭治郎君が倒れる。
それに駆け寄ろうとすると、切国に腕を掴まれた。
「切国、放……」
「俺は彼女より、主を優先する」
「ガゥア゛ア゛ア゛アァ!!ア゛ア゛ア゛ア゛アア!!」
「ごめんな!戦わせてごめん!」
「放せ……切国!」
抵抗する禰豆子嬢の爪で炭治郎君の頬が傷付く。
「痛かったろう!苦しかったよな!ごめんな!でももう大丈夫だ!兄ちゃんが誰も傷つかせないから!眠るんだ禰豆子!眠って回復するんだ!」
「ヴアァアア゛!」
「禰豆子!!」
「禰豆っ…」
禰豆子嬢が大きく跳躍した事で、二人は先の花魁鬼が飛んで行った方に消えた。
「……切国!!」
「俺は!あんたを護る為なら、あいつ等を見捨てる」
「私はそんな事を望んでいない!君はいつもそうだ!私を護ると言って、他を見捨てる!私は……私はもう、目の前で死ねせてしまうのは御免だ」
「…主…だか、此れだけは受けてくれ」
「!」
切国が藤の家で渡してきたペンダントに触れる。
その途端、私の傷が癒えた。
「此れは……」
「リムル殿から貰ったものだ。あんたは自分の傷を癒せないからな」
「……切国、君は私に対して過保護だ」
「……だろうな。ほら」
切国が私の頭に狐面を乗せる。
「「!」」
その時、上から炭治郎君と禰豆子嬢が落ちて来た。
咄嗟に受け止める姿勢を取れば、今度は切国も協力してくれる。
「兄ちゃん、ありがとう…禰豆…子…!」
「グォウッ!ガアッ!」
「禰豆子嬢!」
炭治郎君に手を貸し、切国と一緒に禰豆子嬢を抑えた。
「こんこん…」
「ガァアッ」
「小山の、子うさぎは」
炭治郎君が途切れながらも、子守唄を歌い始める。
「わーーん!」
それを聞いた禰豆子嬢が大声で泣き始めた。
「禰豆子…」
そして、幼い姿になって身を丸めて眠る。
「寝た……母さん寝た…寝ました…宇髄さん…」
「天元殿が来てるのか?」
「う、うん…」
「……私は上に行く。君は禰豆子嬢と居るんだ」
「う、うん…あ、これ」
「ああ……ありがとう」
渡された羽織りと狐面を着直し、窓から上へと向かった。
「天元殿」
「お、雫」
「……やったのか」
「おう」
其処には自分の頚を持って座り込んでいる花魁鬼が。
「って、ことで上弦を探しに行くぞ」
「……やはり違うのか」
「流石に気付いたか」
「炯寿郎を殺したのに比べたら……弱過ぎる」
そう話し……また窓から降りようとする。
「ちょっと待ちなさいよ!どく行く気!?よくもアタシの頚を斬ったわね!ただじゃおかないから!」
すると、花魁鬼が叫ぶ様に天元殿に言った。
「まぁだ、ギャアギャア言ってんのか。ハァ。もうお前に用はねぇよ、地味に死にな」
「ふざけんじゃないよ!だいたいアンタさっきアタシが上弦じゃないとか言ったわね!」
「だってお前上弦じゃねぇじゃん」
「アタシは上弦の陸よ!!」
呆れた様に言う天元殿。
「…………」
「主?」
そんな中……花魁鬼から嫌な気配を感じ取る。
「だったら何で頚切られてんだよ。弱すぎだろ。脳味噌爆発してんのか」
「アタシまだ負けてないからね!上弦なんだから!」
「負けてるだろ。一目瞭然に」
「アタシ本当に強いのよ!今はまだ陸だけど、これからもっと強くなって…」
「説得力ねーー」
「わーーん!」
「「∑」」
「!?」
ゾクリ…
花魁鬼が泣き出すと、嫌な気配が強くなった。
「ほんとにアタシは上弦の陸だもん!本当だもん!数字だって貰ったんだから!アタシ凄いんだから!」
「!主…」
「雫?」
日輪刀を構える。
どんどん嫌な気配が強くなった。
「死ねっ!!死ねっ!!みんな死ねっ!!わぁあああ!ああああ!頚斬られたぁ頚斬られちゃったああ!お兄ちゃああん!!」
「うぅううん」
その時、倒れた花魁鬼の体から男と思われる体が出て来る。
直ぐに私と天元殿は攻撃をした。
だが、花魁鬼の帯が切れただけ。
部屋の隅に視線を向けると、完全に分離した男が座らせた花魁鬼の前にしゃがんでいる。
「泣いたってしょうがねえからなああ」
「ひぐっひぐっ」
「頚くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」
花魁鬼の頸を付けつつ、涙を拭っていた。
「顔は火傷か、これはなぁぁ。大事にしろ顔はなあ。せっかく可愛い顔に生まれたんだからなあ」
ゴシゴシと禰豆子嬢に燃やされた箇所を拭いている内に、火傷は再生していく。
そこに天元殿が斬り込んだ。
私も何時でも追撃出来る様に構える。
ビチッ
直後、天元殿の纏められた髪と頭が斬られた。
その背後にあの男鬼が居る。
「へぇ、やるなぁあ。攻撃止めたなぁあ。殺す気で斬ったけどなあ、いいなあお前。いいなあ」
男鬼の両手には……血の様な鎌が握られていた。
切国が私の前に立つ。
「お前らいいなぁあ。その顔いいなぁあ。肌もいいなぁ、シミも痣も傷もねぇんだなあ」
天元殿と切国の顔を見ながら言っていたが……その視線が天元殿へと留まった。
「肉付きもいいなぁあ。俺は太れねぇんだよなぁ。上背もあるなぁあ。縦寸が六尺は優に超えてるなぁあ。女にも嘸かし持て囃されるんだろうなぁあ」
顔を掻く男鬼とまだ泣き止まない花魁鬼。
「妬ましいなああ妬ましいなああ。死んでくれねぇかなぁあ。そりゃあもう苦しい死に方でなぁあ。生きたまま生皮剥がれたり、腹を掻っ捌かれたり、それからなぁ」
……物騒な発言だな。
「お兄ちゃんコイツだけじゃないのよ!まだいるの!!アタシを妬いた奴らも殺してよ絶対!そこの狐面だけはあの方のだから駄目だけど!アタシ一生懸命やってるのに!凄く頑張ってたのよ一人で……!!それなのにねぇ皆で邪魔してアタシをいじめたの!!よってたかっていじめたのよォ!!」
「そうだなあそうだなあ、そりゃあ許せねぇなぁ。俺の可愛い妹が足りねえ頭で一生懸命やってるのを、いじめるような奴らは皆殺しだ」
花魁鬼の言葉に顔を掻きながら、男鬼は頷く。
「取り立てるぜ俺はなぁ。やられた分は必ず取り立てる。死ぬときグルグル巡らせろ。俺の名前は妓夫太郎だからなああ」
妓夫……遊郭の呼び込みや集金をする役職の事か?
「雪の呼吸 肆ノ型“淡雪”」
咄嗟に放たれる二つの鎌を型で何とか受け流した。
私達の背後には……一般の客と遊女が。
「妬ましいなぁあ、お前ら本当に。いい男じゃねぇかよ、なあぁ。人間庇ってなぁあ、格好つけてなぁあ。いいなぁ。そいつらにとってお前らは命の恩人だよなぁ。さぞや好かれて感謝されることだろうなぁあ」
「当たり前だ。俺の主は優しいんだ」
「…………」
「まぁな。俺たちは派手で鮮やかな色男だし当然だろう。俺なんて女房も三人いるからな」
一瞬男鬼……妓夫太郎が黙る。
「お前女房が三人もいるのかよ。ふざけるなよなぁ!!なぁぁぁ!!許せねぇなぁぁ!!」
え、そこでキレるのか?
「血鬼術 飛び血鎌」
薄い刃の様な幾つもの血の斬撃が飛んできた。
「雫!」
「!」
名を呼ばれ、構えを見て察し、切国の腕を掴んで天元殿に駆け寄る。
ドン
天元殿が床を破壊し、私達は下の階に。
「キャアアッ」
一般人達はちゃんと抱えていたから無事だ。
「逃げろ!!身を隠せ!!」
「はっはい」
「!……来る」
上から血の鎌が降って来た。
それを三人で全て斬り払う。
成程……当たるまで止まらないのか。
「やるぞ!!」
「……了解」
天元殿が爆薬である小さな三つの球を放った。
「雪の呼吸 捌ノ型“風花”」
その爆丸を斬りつつ、奴らの元へと運ぶ。
ドン パラパラ
「…まぁ、一筋縄にはいかねぇわな」
「「…………」」
土煙が晴れた所には……帯によって防御されている所だった。
「俺たちは二人で一つだからなあ」
ああ……厄介だ。
end.