チート双子の何でも屋
ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。
賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。
其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。
今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。
ジリリリ…
「はーい」
「あ、こんにちは」
「あ、先生」
チャイムの音に文也が出ると、其処には以前依頼に来ていた詩織の担任である雨井だった。
「ご依頼ですか?」
「えっと、はい。すみません、また」
「いえいえ」
文也は笑顔で彼女を招き入れる。
「「何でも屋へようこそ」」
「あ、先生」
「ん?また来たのか」
「あはは、すみません」
「…………」
「妖狐君、敵意出さないの」
前回鬼灯の言葉に照れた姿を見せていた彼女に、桔梗は気付かれない様に威嚇していた。
其れに結音が苦笑して制する。
「「で、今回の依頼は?」」
「えっと、今回は幽霊屋敷の調査をお願いしたくて…」
「「「「幽霊屋敷?」」」」
「ええ。何年も前に潰れたお屋敷なのですけど、其処にお化けが住み着いてると噂になっていまして……その、男の子達が行こうとしてるって」
「男の子って、時々馬鹿みたいだね」
話を聞いていた詩織がバッサリと言った。
「どうして、お兄ちゃん達みたいに……大人になれないんだろ」
「子供だからね……シオちゃん」
「?」
「そう言った話は聞いた事ある?」
「ううん……あ、でも……」
『そう言えば、一部の子達が言っていました。其処に居るお稲荷様に隠れん坊で勝てたらお願いが聞ける、と』
「……!」
その言葉に、桔梗の体が硬直する。
「まさか……」
「大丈夫か?」
声を震わせる桔梗に、鬼灯は心配そうに声を掛けた。
「……うん、大丈夫」
「あの、其れで子供達が行ってしまう前に、調査をお願いします」
「「依頼とあれば」」
という事で、彼等は件の幽霊屋敷に赴く事に。
「お稲荷……一般的に妖狐に分類されるオニ」
「とは言え、役割は異なる」
「お稲荷様はあくまで神に仕えるオニ。でも、妖狐の多くは敵意を持つ者ばかり」
「もし、其処に居るのがお稲荷様なら、神が信仰を得る為に己の配下に試練を命じてる」
「妖狐なら、食べる為の手段にしている」
咲良と結音が道中話しながら情報共有をする。
「妖狐、キツいなら休んでた方が良いんじゃねぇか?」
「……本当に大丈夫だよ」
心配する鬼灯の言葉に桔梗は微笑みながら返した。
その笑顔は何時ものと違い、何処か思い詰めたもの。
其れに鬼灯は顔をしかめ、結音は視線を向ける。
「文君」
「はい」
結音が文也を手招きすると、小声で話し掛けた。
「妖狐君の事、君とシオちゃんで見てて貰って良いかな」
「其れは構いませんが……その、何かあるですか?」
「未だ確定では無いんだけどね……俺が考えてる場所なら、彼と出会った場所だ」
「!」
数年前。
「ねぇねぇ、桔梗」
「何?竜胆」
「遊ぼー!」
「いいよ」
其処には、未だ幼い狐のオニがとある屋敷に住み着いていた。
常に二人で過ごす狐。
「仲間に入れておくれ。桔梗、竜胆」
「「あ、旦那様」」
そんな二人を抱き上げる一人の男。
彼が屋敷の主人であり、所謂お稲荷様と呼ばれるオニである。
彼は路地で暮らしていた狐達を迎え入れ、育てていた。
「いいよ!何する?」
「旦那様の好きな遊びでいいよ」
「じゃあ、隠れん坊にしようか」
「「うん」」
何故拾われたかは分からない。
其れでも狐達はお稲荷様を慕い、お稲荷様は狐達を愛でる。
そんな日々を過ごしていた。
「…………」
「君、もしかしてお稲荷様か?」
「!」
狐達が寝静まった頃。
その狐達を見詰めるお稲荷様に声を掛けたのは……塀の上に腰掛ける師走。
「どちら様かな」
「師走……と言えばお分かりか?」
「!」
「本来お稲荷様は神に仕えるオニ。君の主は何処だ?」
「ギャゥウ…」
スゥ…と目を細めて師走は問い掛ける。
其れにお稲荷様も威嚇する様な声を出した。
「旦那様?」
「……ああ、桔梗。起きてしまったか」
すると、狐の片方が起きて来る。
其れに威嚇を止め、お稲荷様は彼の頭を撫でた。
「さ、もうお休み」
「うん」
視線を塀に戻すと、既に師走の姿は無い。
狐を寝かし付けたお稲荷様は一人、部屋へと戻る。
「暦にバレた……急がなければ。我が主の為に」
「あのお稲荷様……はぐれか?其れにしては……」
「「旦那様」」
「ああ、お前達……今日は少し忙しくてね。二人で遊んでくれるかい?」
「「うん」」
その日、狐達は二人で遊んでいた。
「何するの?」
「隠れん坊しよう。旦那様と最近よくやるし」
「そうだね」
「鬼やるよ」
「お願いね、竜胆」
片方が駆け出し、片方が目を塞いで数を数える。
「もういーかい」
「もういいよー」
狐は箱の中に隠れていた。
小さな暗闇の中に居る狐。
「!」
其処に小さな光が入り込む。
もう見付かったのだと思った狐が笑顔で顔を上げた時……
「え」
一方、もう片方の狐はパタパタともう一人を探していた。
「あれー?居ないな」
ガンッ
「!」
物音に狐が駆け寄る。
「……桔きょ」
「何のつもりだ。あの狐をどうするつもりだ」
彼が見付けた先。
其処で師走がお稲荷様に詰め寄っていた。
「俺が入れる時点で、此処の結界は既に脆くなっている……其れは、お前が道を外しているという事だ。幾らお稲荷様とは言えど、祓いの対象となる」
「……邪魔はさせない。我が主の為に」
「旦那様?」
狐の声にお稲荷様が振り返る。
一瞬迷う様な表情をし……無表情へ。
「桔梗は既に取り込まれたか」
「旦那、様」
「っ」
直後、狐は師走に抱えられていた。
お稲荷様の尾が襲い掛かろうとしていたのだ。
「チッ、道を外したか」
一つだった尾が九つに別けられる。
「此処で祓う。其れが師走である俺の役目だ」
「師走……?旦那様をどうするんだ?」
「彼奴は道を外した。死んだ主を復活させる為に、幼い命を差し出した」
「幼い、命……」
「其れこそ人やオニ関係無く、な」
「でも、旦那様は僕達を……」
お稲荷様から離れると、師走は狐を下ろした。
「早く片割れを見付けてやれ」
「う、うん」
下ろされた狐は躊躇いながらも駆け出す。
「桔梗!桔梗、何処なの!」
片割れの姿を必死に捜すも、彼は何処にも居なかった。
「いない……ぁ、ひっく、ひっく、うわぁああん」
師走が狐の元に戻った時、其処には泣き付かれた彼だけが。
「「…………」」
「うわっ」
狐が目を覚ますと、自分よりも更に小さい二人の人の子供に顔を覗き込まれている。
「「師走兄さん、起きた」」
「ああ、今行く」
声の後に続いて、師走が顔を見せた。
「此処、は?」
「俺の実家。最近あの双子を引き取ってな」
「僕、は……」
「……お前の主人は俺が倒した。恨むなら恨め」
その言葉を聞き……狐は首を横に振る。
「旦那様が……僕達を時々怖い目で……見てたから」
「気付いてたのか」
「うん……もっと早く言ってれば……」
「……君は未だ唯の狐。妖狐となるかお稲荷様になるか。其れが決まるまで、此処に居るといい」
そう告げ、師走は双子を連れて部屋を出ようとした。
「そう言えば、君の名前は?」
「………………桔梗」
其れから狐は桔梗と名乗り、後に妖狐となる事を選ぶ。
そして、桔梗が名を変えた事を知っている師走は、彼を妖狐と呼ぶ様に。
「妖狐?」
「!」
過去を思い出していた桔梗が鬼灯の声にハッとなる。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。もう、鬼丸は優しいなぁ」
「お前に何かあったら困るからな。多分後追いする」
「鬼丸……」
「イチャついてるとこ悪いが、着いたぞ」
結音が苦笑しながら目の前の屋敷を指差した。
其処は……かつて未だ狐だった頃に住んでいた屋敷。
彼等は警戒しながらも中へ。
『もういいよー』
突然聞こえた声に彼等は固まる。
『もういいよー』
「き……きょ……う」
「!妖狐!桔梗!待て!」
フラりと歩き出す桔梗の後を鬼灯が慌てて追い掛け、更に皆が続いた。
最後に結音がゆっくりと追い掛ける。
『もういいよー』
「何処……何処に居るの……」
『……此方だよ』
「!」
桔梗の足元。
其処に小さな影があった。
「桔梗、なの」
『竜胆』
「桔梗!」
「!」
その時、桔梗が鬼灯に抱き寄せられる。
鬼灯は桔梗を自分の後ろに庇った。
『……大切な人が出来たんだね』
「……うん」
『旦那様の主が奥に居るよ。あの時食べれなかった竜胆……桔梗を欲しがってる』
「「!」」
『気を付けて……僕を見付けてくれて有り難う』
「あ」
そう言うと、影は消えてしまう。
「桔梗……」
「有り難う、名を呼んでくれて」
「「妖狐」」
「大丈夫ですか!?」
「皆もごめんね」
桔梗の元へと駆け寄る一行。
最後に歩み寄ってきた結音の顔をしっかり見詰めた。
「狐の旦那様の主が奥に居るそうだよ」
「堕神……いや、擬きだな」
「擬き……」
「死んだ神を象った異形」
「それ、禁術だよね」
「体を維持させる為にも幼い子供を捧げた」
「「「!!」」」
「終わらせてやれ」
「「分かった」」
奥へと進む一行。
其処に居たのは……
『グルルル』
辛うじて形を保っている異形。
「「終わらせる」」
細長い触手の様な腕が桔梗に伸ばされる。
その前に双子が立ち塞がり、咲良が吹き飛ばし輝久が炎で燃やした。
「…………!」
「帰んぞ」
「え、あ、鬼丸?」
その様子を見ていた桔梗の手を鬼灯が掴んで歩き出す。
「えっと、終わりですよね?」
「うん。念の為、妖狐君を頼むよ」
「分かりました!行こう、詩織」
「うん」
その後を文也と詩織が追い掛けた。
双子は結音をチラリと見て、彼等の後に続く。
「……君がアレを抑えていたんだな」
『うん』
結音の足下に現れた影。
あの日、この影は師走だった彼の手を掴んで、泣き付かれた狐の元へと導いたのだ。
「君は此れから如何する?」
『他の子と一緒に逝くよ。片割れをよろしくね』
「俺より鬼丸君が話さないさ」
『それもそっか。二人の子供に生まれたいなぁ』
「…………出来なくは……ない……か……?」
其れから帰った一行は桔梗の側にずっと居た。
因みに、最期の言葉を鬼丸と桔梗に伝えると、珍しく桔梗まで顔を赤らめていた。
end.