チート双子の何でも屋
翔琉の異能。
其れは、繋がりを糧にする事だ。
か細くなっても、結音との繋がりを掴み、如月の空間操作で、裏側の空間へと降り立つ。
「………………」
そして、やって来たのは……翔琉、辰、藤、睦月、長月、霜月、神無月、水無月だった。
他の暦は残り、暦の使命を果たしている。
降り立った彼等を出迎えたのは、結音。
彼等を睨む瞳には感情がない。
「暦として、お前は放置出来ん」
「…………“さぁ、遊ぼうか”」
小指を差し出し、結音は呟いた。
「相手に先に一撃を与え、全滅させた方が勝ち。一撃を与えられたら、其奴は動けなくなる。俺が勝ったら、お前達は追い出され二度と此処に来れない。お前達が勝てば……俺の消滅」
「「「「「!?」」」」」
「さぁ、やろう」
直後、結音の姿が消える。
咄嗟に動いたのは、睦月だった。
「っ!!」
「睦月君!」
「先ず一人」
強化した体で消滅の言葉に動揺した翔琉に近付いたが、雷の応用で出した速さで睦月が彼に覆い被さり、代わりに一撃を受ける。
「うご……けない……!!」
「ぼーっとしないで!」
「あっ」
次に藤が翔琉を引っ張り、彼を庇った。
「また一人」
「彰彦っ!!」
「!」
辰が結音へと殴り掛かるが、其れは体が変化した事で空振りになる。
「……“遊鬼”……其れが、俺だ」
「遊鬼?」
「触れたら敗けの鬼ごっこ……お前達も好きだっただろ?」
「ッ!!彰彦は……もう居ない!!」
「その通り」
辰が結音─遊鬼へと向かった。
剛鬼というオニは、強く硬い体を持ち、拳一つであらゆる物を破壊するという性質を持つ。
そんな剛鬼の先祖返りである辰は、その性質を異能として発現した。
その威力は、遊鬼の強化でも敵わない程。
故に、遊鬼は力で対抗せず、速さで対抗する。
「チッ!」
「変に介入出来へんな」
二人の勝負に霜月と長月は割り込めないでいた。
暦同士なら兎も角、連携等しない独立スタイルの辰の援軍は難しい。
「…………」
一方、翔琉は違う理由で割り込めない。
翔琉はあくまで結音を連れ戻す気で此処に来ている。
連れ戻す為には負けられない。
だが、勝てば結音が消える。
そんな葛藤の中にいた。
ドクンッ
「ぐっ!!」
「!」
その時、遊鬼が動きを止める。
同時に体が結音の姿へと戻った。
其れに辰が目を瞠り……拳を向ける。
「駄目ーーー!!!」
「!?」
「っ!!」
二人の間に、小さな影が割り込んだ。
「兄様を苛めないで!!」
両手を広げて遊鬼を庇おうとする満。
「まさか……満?」
「?どうして、僕の名前知ってるの?」
辰が目を瞠き、動揺する。
硬直している間に遊鬼が満を抱き込み、必死な様子で弟を庇った。
「──傷付けるなら、誰だろうと許さない」
「なっ」
そんな彼等に手を伸ばそうとした辰の背後……結弦が立つ。
振り返ると同時に、辰の肩に触れ……
ザンッ
「がっ!!」
「武瑠!!!」
其処が斬り裂かれた。
「……此れで、もう一人だね」
「に、義兄さん……どう、して……」
「君が俺達を選んだ様に、俺も君を選んだだけさ」
瞳を揺らす遊鬼に、結弦は困った様に笑いながら言う。
「結弦……生きて、いたか」
「今まで何しとったんや、こんのアホダラがぁ!!」
そんな結弦に霜月と長月が向かった。
触れただけで何でも斬り裂く結弦と、炎と幻惑の霜月と長月が衝突する。
「……満」
「?」
「兄様は許されない事をした…………其れでも兄様と呼んでくれるかい?」
「うん。僕の兄様は何があっても兄様だよ」
「そっか」
答えを聞いた遊鬼は満をソッと離し、見ているだけだった翔琉、水無月、神無月へと向き直った。
同時に、遊鬼の姿に戻る。
「ずっと、親友でライバルだと思っていた」
「……師走の親友はお前だった」
「そうか」
ふっと微笑む遊鬼と水無月。
直後、二人の異能がぶつかり合った。
放たれる水に、強化し迎え撃つ。
「……私も居るからね!」
「!」
其処に混ざる神無月。
其れでも、翔琉は動けずにいた。
「───翔琉」
「!え?」
そんな翔琉の元に、満が歩み寄る。
「眠ってても、知ってるよ。僕の異能は千里眼だから」
「えっと」
「翔琉は知らないよね。僕は満。血は繋がってなくても、同じ兄様を持つ身」
「同じ?」
「僕のお父さんと、翔琉のお母さんの間に生まれたのが兄様」
「!師走さんが俺の兄さん?まさか、大好きだったお兄さん?」
「そうだよ……翔琉、手を貸して」
「え?」
「兄様を失いたくない。僕達の為に自分の心を犠牲にしてきた兄様を。翔琉だって、師走を取り戻す為に来たんだよね?」
「ああ!」
「僕には、兄様も知らないもう一つの異能があるんだ。其れを使えば……」
二人が手を結ぶ一方。
結弦、霜月、長月が衝突していた。
炎だろうと幻惑だろうと、結弦は冷静に斬り裂いていく。
「お前!今まで何処に居た!!」
「ほんまや!!弟放っといて何ほつき歩いてとんねん!!」
「お前が居なくなった後、酷く落ち込んでいたんだぞ!!」
「其処!?いや、確かに結音の事は申し訳無く思ってるけど、君達が気にするの其処!?」
喧嘩をしながら……彼等が暦の名を継ぐ前の様に、怒鳴りながら異能をぶつけ合う彼等。
その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「「「…………」」」
彼等とは逆に、無言で異能をぶつけ合う遊鬼達。
空気中の水を集め、凄い威力で放つ水無月。
其れを強化した足と危機察知でひらりと避け、近付く隙を狙う遊鬼。
そんな彼を近付けさせまいと風で援護する神無月。
互いの脳裏に過るのは、同期として励んだ日々。
「「……っ」」
一瞬、二人に隙が出来る。
其れに遊鬼が水無月の懐に入った時……
「ぁああああ!!」
「「「!?」」」
其処に翔琉が割り込んだ。
「!みつ……!?」
「!」
その背に負われている満の姿に遊鬼の動きが止まる。
「ちょっと待って!!」
「「!?」」
その隙を狙おうとした二人を翔琉が止めた。
「お願い、ちょっといい。俺に時間をくれ!」
「……どの道、俺はもう脱落だ」
「!」
「水無月……」
がくりと膝をつく水無月。
その脇腹には、先程懐に入り込まれた時の傷が出来ている。
「神無月さん、手を貸して下さい」
「?」
彼が神無月に計画を話す一方、翔琉の背から降りた満が遊鬼の前に立った。
「兄様」
「満、下がっていなさい」
「駄目……だって、兄様の目的は自分の消滅でしょ?」
「!!」
満の言葉に、遊鬼の目が見開かれる。
「いくら兄様でも、この人数の暦や武瑠さん達相手に、オニ堕ちした歪みで苦しむ兄様が勝てる筈がない」
「…………」
「僕はずっと兄様を見ていた。だから、彼等が兄様の事情を知ればきっと僕達を保護してくれる。そして、傀儡子に囚われている自分は消滅すれば、全部解決する……でも、そんなの僕絶対に嫌だ」
「!満、何を……」
「僕は、兄様と居たい!だから、僕と翔琉で、この遊びを拒否する!」
翔琉、満、両名の体から力が溢れ、其れに神無月が力を貸した。
動けない水無月、藤、睦月も彼等に力だけでも貸そうと手を上して力を放つ。
その様子に結弦達の動きも止まった。
パリィイン
「……が……ぁ」
自分より強い力を持つ場合“遊び”を拒否出来る。
千里眼で遊鬼の怪異の弱点を知っていた満の提案だった。
諸にその拒否を受けた遊鬼の体は、再び結音の状態へと戻り、そのまま膝から崩れる。
「お、れは……此処で、消えない、と……父上の仇に、彼奴にこの体が……」
「ふふ、やっぱり気付いていた」
キリキリ……
「兄様!!」
糸の様な音と共に遊鬼の体が引っ張られた。
「この子は意思が強くてね。中々傀儡に出来なかったん上に、あんな遊びを始めてしまうなんて……でも、君達のお陰で手に入れたよ?大事な僕の器」
「「「「傀儡師ッ!!!」」」」
遊鬼の目を傀儡師の手が覆う。
そんな男を睨む結弦達。
「満」
「うん」
「さぁ、逝こうか」
傀儡師の体が崩れ……虚ろな瞳の遊鬼が立った。
そのまま、満達へと迫る遊鬼。
「止めろ!!」「止めんか!!」「止めや!!」
そんな遊鬼を結弦、霜月、長月が三人がかりで受け止める。
「翔琉君!この後は!」
「何とか兄さんの意識を呼び戻す!」
「兄様の体を操っているのは傀儡師!でも、兄様は二人の父様が護ってる!」
「どういう事だ!」
「二人の……其れは、父さんが?」
「はい!兄様の体に入り込んだ今、兄様の心しか体の無い傀儡師を倒せない!」
「「「「……!」」」」
その言葉に、彼等の目が変わった。
ゴポッ……
「…………」
水の中に沈んでいく、小さな意識。
辛うじて残っていた結音の心だった。
そんな彼が消えない様に光が彼を包む。
『彰彦、彰彦』
「父、上……?」
『すまない。お前が苦しむと分かっていても、お前を生かしてやりたかった。私が彼女に出会って、漸くヒトらしい幸せを手にしたように。友や弟が出来た事でヒトらしい幸せを手に入れたお前を、生かしてあげたかった』
『私も謝らないといけない、結音。君の事情を察しながらも、歴代の暦や私の妻を殺した傀儡師を倒す為に、君を利用した』
「……俺は……二人の願いを……叶えられなかった……」
うっすらと目を開けると、自分の体でかつて大切だったモノを苦しめる傀儡師の姿が見えた。
「兄さん!!」「兄様!!」
「…………?」
聞こえた声に、閉じ掛けた目がもう一度開かれる。
「負けるな、兄さん!!」「戻って来て、兄様!!」
「あの子達の……声……?」
「結音、頼むから戻って来てくれ……!!兄らしい事、まだまだ出来ていないんだ!」
「……気付いてやれず、すまない。お前はずっと、苦しんでいたのだな」
「ほんま、何見とったんやろな。戻ってきい、今度こそ……!」
「兄さん……戻るって、何処に……」
「先輩!!如月も弥生も、姐さんや爺、葉月さん、卯月さんも向こうで待ってます!!」
「睦月……どうして、待って……」
「彰彦。俺はお前が大切だった。此れで最後だ。我儘はもう言わない」
「ええ、戻って来て……一緒に戦って」
「武瑠……陽葵……探しにいけなくて、ごめん」
「「師走……信じてる」」
グッと彼の手が握られ、目が強くなった。
そのまま体制を変える。
『『行きなさい、愛しい息子』』
「……はい。父上、義父さん」
彼はそのまま水面まで浮き上がった。
「……これ以上、好き勝手するな」
「「「「!」」」」
彼の意識が戻ったのは、満達も気付いた。
「まだ、抗うのか?君が生きて、心を犠牲にして、君は何を手にした?」
「さぁ?少なくとも……大切なものを手に入れたよ」
彼の手には……代理を刺した短刀。
「その大切なものの為に……一緒に消えようか」
「貴様!!」
そして、其れは彼の心臓目掛けて、深く刺される。
傾く彼の体。
『『此奴は私達が連れて逝こう』』
飛びそうになる意識の中、父親の声が聞こえた。
「……翔琉」
「兄さん……」
「君を次の師走に指名する……大きくなったな」
「っ」
今まで一番の笑顔を浮かべる彼。
「義兄さん。俺、義兄さんの弟になれて良かったよ。霜月や長月にも沢山心配掛けたね」
「結音っ……!」
「当然だろう……!」
「せや、お前は俺にとっても弟なんやから」
「睦月。指導する約束、破ってごめんな。皆にも謝っておいてくれ」
「っはい……!」
「武瑠、陽葵。探しに行ってやれなくてごめん。俺にとっても、お前達は大好きな友達だったよ」
「……ッ……」
「私も……同じよ……」
優しい笑顔で、水無月と神無月を見る。
「信じてくれて嬉しいよ」
「「当たり前」」
「満……」
「……ッ……」
満の頬に伸ばされた手。
「大好きだよ」
言うと同時に……彼の体は光の粒となった。
満が泣きながら、もう一つの異能……母から譲り受けた『転生』の異能を発動させる。
「本当に行くのか?」
「ああ。此処に居る事は出来ないさ」
短くなった髪を風に揺らしながら、幾つもの名を持つ彼が歩き出した。
そんな彼に声を掛けたのは、辰と呼ばれる青年。
転生の異能により、彼は生まれ直した。
結果、オニ堕ちしたままだが、転生した事で歪みが消滅し、彼は何者でも無い事を選び……彼等には何も言わずに行く事にした。
「で、今の名は?」
「取り敢えず、結音だな」
「そうか……結音」
「?」
「行く先が決まっていないなら──……」
師走の物語、終焉。