魔法使いの物語


それから数日、彼等は一緒に学校へと通う。

瑞姫は元居た家でも一人の時が多く、慧斗も家事が出来た為、一人暮らしを始めても問題なかった。

「あのさ、今日時間ある?」
「「仕事が入らなければ」」
「僕も構わないけど」

そんなある日の放課後、慧斗が彼等に言い出す。

「行きたい所があるんだ。出来れば一緒に来て欲しい」
「「「?」」」

それから慧斗は彼等を連れて、とある病院を訪れた。

「妹の陽菜だよ」
「「「…………」」」

彼等が連れて来られたのは、病室で眠る少女の元。

酸素吸入に繋がれた彼女は、その目を開ける事なく眠っている。

「父さん達が事故で死んだ日から、陽菜は起きないんだ。俺はずっと、魔法使いの仕業だと思ってた。でも、月華達に魔法をいざ教わってみて……人を眠らせ続けるのが凄い難しいって分かったんだ」

慧斗と瑞姫は魔力を暴走させない様にする為、伏倉を中心に魔法を教わっていた。

何故か才能に溢れる瑞姫と違い、慧斗は小さな火を出す事でも苦労している。

「なぁ、何で陽菜は起きないんだ?」
「……一般に魔法は使えない。特例は身内のみ」
「だから、月華ははなちゃん?に魔法を使う事は出来ないよ」
「……だよ、な。月華なら、陽菜が起きない理由が分かると思ったんだけど」
「「でも、分かる事はある」」
「分かる事?」
「君の妹さんは……」
「呪いを受けてるね」
「「呪い?」」

月華達の言葉に慧斗と陽菜は首を傾げた。

「呪いって何?」
「魔法とは違うの、か?」
「呪いは魔法使いが命と引き換えに放つ呪」
「解呪の魔法を持つ人しか解けない」
「もし、慧斗が妹ちゃんを起こしたいなら…………慧斗がその魔法を使える様にならないと」
「俺、が?」
「解呪は固有魔法の一種」
「今の慧斗じゃ、死ぬ気で頑張らないとねー」
「~~~~頑張る!」
「「「頑張れー」」」

気合を入れる慧斗。

それから暫く彼女の見舞いをした後、彼等は病室を出る。

「終わったか?」
「あ、伏倉兄ー」
「来てたんだ」
「ああ、俺は保護者だからな」

何時の間にか病室の前で待機していた伏倉と合流し、正面入口へと向かった。

「……!」
「「「?」」」
「!」

途中、何かに気付いたらしい瑞姫が顔を青褪めて立ち止まった。

其れに月華達は首を傾げるが、伏倉はハッとして入口に視線を向ける。

「結局、何の検査だったのか分かんなかったー」
「本当だよね」

其処に居たのは女子高生達。

「大丈夫だ」

青褪める瑞姫の肩を抱き寄せる伏倉。

そのまま女子高生達は彼等を見る事無く出て行った。

「……彼女達には記憶処理されている。君の事も覚えていない」
「……ああ!見覚えあるなーと思ったけど、例の子達かー。大丈夫だよー、もうあの子達は君に手を出す事無いからー」
「……あ、ありがとう……」
「だが、まだ不安だろう。一先ず、車まで俺の手で良かったら握っててくれ」
「……!」

瑞姫は恐る恐る伏倉の手を取る。

「……そういえば、姫って」
「其れ、言わない方がいいよ」
「あ、ああ」
「……ふふ、お似合いだねー」
「「?」」
「あ、伏倉兄ー俺寄りたい所あるから姫ちゃんと先に帰ってー」
「?付き合うぞ?」
「姫ちゃんに付き合ってあげてよ。俺と月華、二人一緒ならだいじょーぶ!常識的な事は慧斗に教えて貰うから!」
「そうか?あまり遅くなるなよ」
「「「はーい」」」

それから伏倉と瑞姫は二人で帰った。







あの後、暫くして……慧斗は必死に魔法を覚えようとするが、元々が魔力を持っていない所為か、中々覚えられずにいる。

「そう言えば、叔父さんとやらは大丈夫だったのー?」
「え!?……あぁ……うん。叔父さん、魔法使い嫌いみたいなんだよ。だから、俺が魔法使いになったのがキツいみたい」

そんな魔法の練習中、慧斗は苦笑して言った。

「確か東刑事だったっけ?」
「うん」
「あの人、魔法使い嫌いで有名なんだよねー。魔法関連の部署なのにー」
「ああ、東さんか。彼は魔法使いを逮捕する為にその部署に入ったからな」

休憩中、彼等の会話に伏倉が入る。

「何か恨みでも?」
「……恨み、というか……俺が話していいのか分からんが、第一世代の事は知ってるか?」
「「第一世代?」」
「一部の魔法使いの事」
「俺と月華は第三世代で、伏倉兄は第二世代って言われてるんだー。第一世代は俺も会った事がある人とない人が居るんだ」
「お前達に魔力を宿らせた男、白柘さんと鈴蘭さんが第一世代と言われている」
「「!」」

白柘を筆頭とする第一世代、葉蘭を筆頭とする第二世代、月華と彼岸が当たる第三世代。

彼等は其々違う天才であり、少なくなってきているとはいえ数百人は居る魔法使いの中で彼等だけが特級の資格を持っている。

加えて、一般家庭ではなく幼少期から魔法協会で育っているのも特徴だ。

「その第一世代に、紫園という人が居たんだ。その紫園さんは血縁上、彼の双子の兄に当たる人らしい」
「え?」
「其れって……俺のもう一人の叔父さんって事?」
「ああ。とは言え、紫園さんも小さい時に魔法協会に連れて来られて、其処まで面識は無かったらしい。其れもあって、そっくりな顔だけど魔法使いじゃない東刑事と会った時酷く拒絶したらしい」
「「「「…………」」」」
「加えて、東刑事の婚約者がはぐれとの戦闘に居合わせて死亡する事件があった。其れで、拒絶しているそうだ」
「「「「それだ」」」」

伏倉の言葉に慧斗は複雑そうな顔をした。

「その紫園?さんは今どうしてるんだ?その人も魔法使いなら、慧斗は彼に引き取って貰えばいいんじゃないか?」

瑞姫の言葉に今度は伏倉が複雑そうな顔をする。

月華は何時も通り無表情で、彼岸は困った様に笑った。

「「「魔法石になった」」」
「魔法石?それって、魔力が籠った石だよね?」
「ああ。魔法石は魔法使いの命そのもの」
「命……?」
「魔法使いは死んだら遺体を残さない」
「「!?」」
「代わりに残すのが魔法石。だから、魔法使いが死んだ時、俺達は魔法石になったって言うんだよ」

その言葉に慧斗と瑞姫は言葉を失う。

「今、第一世代は白柘さんと鈴蘭しか居ない。後は皆魔法石になった……その魔法石も今は行方不明だ」
「本来なら魔法協会が回収するんだけどねー」
「……僕が死んでも、魔法石になるのか?」
「え?」

瑞姫が俯きながら言った。

其れに声を出した慧斗、そして伏倉が眉をひそめて彼女を見る。

「僕は……あの人達の所には帰りたくないな」
「瑞姫……すまない、触る」
「え?」

伏倉がそっと瑞姫の頭を撫でた。

「君がどんな目に遭っていたか……すまないが、調査の段階で知っている」
「そう、だよね」
「だが、俺達には関係ない。君は俺達の仲間だ」
「!」
「可愛い俺達の姫、だ」

微笑みながら言われたその言葉に瑞姫が顔を赤らめる。

その後ろで彼岸が呆れた様に月華に視線を送った。

視線を受けた月華は……首を横に振る。

「?」

瑞姫達のやり取りと彼岸達のやり取りを見ていた慧斗は首を傾げた。

「そういえば、姫の方は血縁とかにないの?」
「ああ、念の為調べたら祖母が最後の魔法使いだったらしいな」
「「「へぇ」」」
「そういえば、あの人達はおばあちゃんを嫌ってたかも」
「まぁ、魔法使いを受け入れられないという者達は居るからな」

慧斗の叔父然り、瑞姫の両親然り、魔法使いにとって生きづらい世の中になっている。

「そういえば、月華と彼岸のお父さんとお母さんは?」
「「お父さんとお母さんって何?」」
「「え」」

二人の問い掛けに、慧斗と瑞姫は困惑した。

一方で伏倉は目を伏せる。

「……両親に対して、子供が呼ぶ呼称だ」
「「そうなんだー」」
「えっと……」
「二人は赤ん坊の頃に魔法協会に連れて来られたから、血縁者が居ないんだ。だから、俺が兄代わりという訳だ」
「そうだったんだ……」

伏倉は微笑みながら二人の頭を撫でた。

二人は視線を交わしながらも、抵抗する事無く頭を撫でられる。

「……俺も二人の家族になる!」
「ぼ、僕も」
「「?ありがとう?」」

二人に抱き付く慧斗。

その後ろで頷く瑞姫。

首を傾げながらも礼を言う月華と彼岸。

そんな彼等を優しく見守る伏倉。

転校生という余所者だった慧斗と瑞姫は確かに彼等の仲間になっていた。







「~♪~~♪」
「……楽しそうですね、白柘さん」
「ああ!どうやら血縁者に入れれば才能が無くても魔法使いになれるというのが判明したからね」
「少年に入れた方ですか?」
「そう!彼に入れたのは、彼にとって“叔父さん”に当たるからねぇ」
「いじめられっ子のお嬢ちゃんは?」
「其れはねぇ……俺の大切な人」
「!意外ですね。彼女を手放すなんて」
「そりゃ断腸の想いさぁ……だけど、彼女しか該当しなかったからね。それに、入れればその中で彼女は生きる事になるから。もし、君の大切な人が見つかったら、君に入れてあげようか?」
「……考えておきます」

「……百合を殺した上、何処に隠したんだ。あの化け物は」







「…………」
「第一世代は、確か白柘っていう人と、鈴蘭姉。あと、紫園っていう人と楓って言う人。あと、翠兎兄だよね」
「その内、魔法石になったのは紫園、楓、翠兎」

ある日の夜。

肩を寄せ合い話す月華と彼岸。

「調査によると、瑞姫は楓、慧斗は紫園と血縁的な関りがあるらしいね」
「……どうして、今彼等は二人に接触したんだろう」
「んー狙いとしては魔法使いにする為?」
「……もしかしたら、二人を使って……───……」
「うわ、其れはヤバイね。まぁ、気を付けないといけないかぁ」
「そうだね。伏倉は手一杯だから、俺達が気を付けないと」
「うん、阻止しないとね」

一つのベッドの上で話す二人。

「…………」

その部屋の外で聞いている伏倉は何か思い詰めた表情をしていた。



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