チート双子の何でも屋
「で、思い付いたんだけど……姐さんって、師匠の事意識してるよね?」
「そうなのか?」
「私は霜月が姐さんを意識してると思ったんだけど……その辺どうなの?」
「両方正解」
「「「マジか」」」
四人での任務中。
彼等は会話をしながら、今回の粛清対象であるオニの軍団を片っ端から倒していた。
「やっぱり最強の師走が居ると、仕事が早いね」
「本当。何でそんなに強いのって感じだよね」
「俺も負けないからな」
「ああ、強くなるのはいい事……!」
パァン キィン
「…………」
「「!」」
「なっ!?」
突如飛んできた弾丸を、持っていた刀で斬った師走。
彼の視線の先……
「りゅ、竜?」
「まさか、辰……干支か!?」
「干支?」
「『スサノオ』に仕える者達……だけど、どうして……」
屋根の上に立つ、竜の面を着けた男が立っている。
男は銃を懐に仕舞うと、屋根から飛び下り……
ガッ
師走へと殴り掛かった。
咄嗟に強化して受け止めた師走だが、その勢いで下がる。
男の腕は黒く硬くなっていた。
男がもう一度振りかぶろうとした時……
「俺の親友に何をしてる」
その首に水無月が鉄扇を突き付ける。
「……親友?貴様如きが?」
「……あ?」
「ちょっ……」
一触即発。
そんな空気の中、花弁が舞い込んだ。
「何をしているの」
ゴンッ
「っ!?」
「!」
「ごめんなさいね、敵対しに来た訳では無いのよ」
直後、男の背後に現れた桜の髪飾りを着けた女性が、男の頭に拳骨を落とす。
「「「「…………」」」」
「お初に御目にかかります、私は『華』に所属している藤と申します。此方の不届き者は『干支』に所属している辰と言う者です」
女性はそのまま綺麗なお辞儀をした。
「っ!何をする、ひ」ガッ
「「「「…………」」」」
男に今度は回し蹴りが決まる。
「………………大丈夫か?」
長い沈黙の後、衝撃で落ちた竜の面を拾いながら師走が問い掛けた。
「じゃじゃ馬……」
「学習しない方ですね?」
「す、すまん」
「俺の後ろに隠れないでくれ」
サッと師走の背後に隠れた男─辰に困惑した様子で師走は言う。
「お久し振りですね、師走」
「?」
「知り合いなのか?この不審者と女性と」
「いや?記憶に無いから人違いじゃないか?」
「「…………」」
言いながら師走は二人から目を逸らした。
「で?不審者と華が何の用だ」
「アマテラス様の命にて、ツクヨミ代理様へ手を貸す様に、と」
「同じく、スサノオ様の命にて馳せ参じた」
「「「「は?」」」」
彼等を代理の元まで連れていく事にした師走。
「随分と弱っていらっしゃいますね」
「最早起き上がる事も出来んとはな」
「代理とはそれ程負担の多いもの。其れを10年以上も勤め上げているのは、流石としか言えないわ」
「そうか、もうそんな年月が経っているのか……我等も変わったな」
「……何の事かな。俺と君達は今日が初めましてだけど」
そう言うと、師走は二人を置いて歩き出した。
その背を二人は見詰める。
「……気付かれたか?計画を早めないと…………いけないのに……っ」
その後、二人を迎えた彼等は初めギクシャクしていたが……翔琉が歓迎し巻き込んだ事で、親しくなっていった。
一方で、代理の方は眠りに就く事が多くなり……
「……師走……いや、結音。おいで」
「……はい」
そんな彼等が信頼関係を築いている中……師走は代理の元に。
「私はもう長くない」
「…………」
「だから……遠慮しなくていんだよ」
「やはり……気付いていたのですか」
「ああ……覚悟して、君を息子にした……からね」
細くなった手が師走の頬に触れた。
「私は後悔してないよ」
「……父さん」
「うん」
目隠しを外し、弱々しくも慈しむ様に微笑む代理……その胸に文字が掘られた短刀を突き刺す。
パキン
暦の証である腕輪が落ちた。
暦が欠けると言う事は腕輪が落ち、他の暦にも伝わる。
何より、代理の死はツクヨミ経由で全員に直接伝達された。
代理と師走の異変に暦が駆け付けないと言う事はあり得ない。
そして……
「師走……?」
代理を殺した師走の元へ暦が駆け付け、その現場を目撃する事に。
「何を、して」
「「…………っ!」」
先に動いたのは皐月と文月だった。
皐月が氷を、文月が実体化させた文字を師走へと放つ。
「……遅いよ」
「「!」」
が、足を強化させた師走が二人の間をすり抜けた。
そのまま庭へと降り立つ。
「何をしてるいるの!」
「捕らえよ!」
「「「「「っ」」」」」
皐月と文月の声に暦が構えるが、それでも躊躇い異能が放てないでいた。
「「彰彦!」」
「其れはもう俺の名前じゃない」
「ここ最近の事件、誰かが誘発し代理を弱らせているのは分かっていたが……」
「まさか、其れが貴方自身とは……優しい貴方らしくないわ」
「優しい?そもそも彰彦は死んだんだよ……」
「「!」」
師走の体から黒いオーラが出始める。
「まさか……」
「やはりか……」
「何をしてでも取り返す。あの子を取り戻す為なら……ヒトである事も捨てると決めた」
黒いオーラが師走を覆い……その額には大きな角。
体は幼くなり、衣装は黒装束になっていた。
「「オニ堕ち」」
「そんな、嘘だろ!?」
「結音!!」
「……さようなら」
「「師走!!」」
水無月と神無月が手を伸ばすが……そのまま師走は姿を消す。
「っ、説明しろ!!」
「!」
「知ってるんだろ!!師走がどうして!オニ堕ちなんて!!」
「オニ堕ち……?」
「ヒトがオニになる事」
「強い恨みでなるの」
「その分、歪みが生じる」
水無月が辰の胸倉を掴んだ。
翔琉が問い掛けると、卯月、葉月、文月が答える。
「結音は……あの幼い姿で、代理様……先生が何処からか連れてきた」
「名前すら無い言うとったから、先代師走の結弦が名前付けたんや」
「その先代師走は行方不明になったのだったな」
「其れも彼が最後に見たのでは?」
「そうだが……結音の仕業と言うのか!?」
「ふざけるな!兄を亡くして誰よりもショックを受けていたんだぞ!」
「演技ではないでしょうね。元の彼はオニの血が混ざる私達ですら、手を差し出してくれる子でしたもの」
その言葉に彼等は驚いた様に桜と辰を見た。
「私は花鬼の血を引いているの」
「俺は先祖に剛鬼が居て、先祖返りだ。だから、周りと馴染めずにいた」
「そんな私達が預けられたのが、彰彦……師走の家だったの」
「オニの血を持て余していたのは、俺達も同じ。たとえ暴走しても、奴は手を伸ばし続けた……そんな奴を俺達は信頼しきっていた」
とはいえ、オニとのハーフである藤と先祖返りの辰とでは成長スピードが異なり、二人がまだ幼くても師走─彰彦は成長していった。
やがて、彰彦は十代後半、二人は十歳くらいに見える程、差は開いていた。
其れでも彰彦は二人を対等の友人として扱っていた。
「奴には歳の離れた弟が居た。その頃には家の手伝いもしていてな。その合間を俺達と弟と平等に接していた」
「私達は正直其れに嫉妬していたの。だから、怒って私達屋敷を飛び出して……なかなか探しに来てくれないのにも怒って、不安になって、屋敷に帰ったら……」
「屋敷が燃えていた。中に入ろうとしても、周りに止められた。其れから、奴は生死不明になった。弟と共に」
二人の言葉に彼等は顔を見合わせる。
辰の胸ぐらから手を放した水無月は俯き……歩き出した。
「水無月?」
「……少し、頭を冷やしてくる」
そう言い、水無月が出ていくと、他の暦も出ていく。
代理の体は文月が運んだいった。
「取り戻すって……やっぱり弟さん、なのかな」
「恐らくな。彰彦は誰よりも弟を愛していた」
残った翔琉と辰、藤が話す。
「ええ、本当に仲のいい兄弟だったわ。ご両親の分まで」
「ご両親?」
「奥様は弟を生んで直ぐに、ご主人はあまり他に関心がない方だったからな」
「そうなんだ……」
「もし、弟が普通に成長していれば、貴様くらいだな」
「俺くらい……もしかして……」
「「?」」
何かに気付いた翔琉が視線を巡らせると、落ちている腕輪に気付き、拾い上げて自分の腕に装着した。
「あの人の考えは俺にも分からない。けど、やっちゃいけない事をした。なら、行かなくちゃ。皆の為にも」
「……そうか」
「一先ず華への報告は後回しにしておくわ……ただ、ずっとは誤魔化せない」
「同じく。時間は限られている。もし今回の事がバレれば、成り立ての貴様では手が出せなくなるかもしれんぞ」
「上等です!」
「よくやってくれた。一番目障りな代理の始末だけでなく、この短刀で止めを差す事で奴の力も奪えた」
「…………」
「此れさえあれば……私が神になる日も近い」
「……渡すものは渡した。約束は守る」
「ああ、この一件で其れが証明された。ご褒美をやらんとな?まぁ、待っているがいい」
「…………失礼する」
現世ではない何処か。
一人、三つの名を持つ青年が歩いていた。
「……楽しかったな。あの子にも味会わせたかった程に……………………────」