チート双子の何でも屋


ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

この世界にはオニの上位互換に当たる“神”と呼ばれる存在がある。

日輪を象徴とする『アマテラス』。

月を象徴とする『ツクヨミ』。

剣を象徴とする『スサノオ』。

海を象徴とする『ワタツミ』。

火を象徴とする『カグツチ』。

彼等は五大神と言われ、神の中でもその存在は格上だった。

その中『ツクヨミ』に仕えるのは『暦』と呼ばれる者達。

『睦月』『如月』『弥生』『卯月』『皐月』『水無月』『文月』『葉月』『長月』『神無月』『霜月』……そして『師走』。

彼等は月が見下ろす夜……ヒトとオニ、調和を乱す者を粛正する。





闇夜。

路地裏を駆け抜ける男。

その右腕は鋭い鎌の様になっている。

軈て行き止まりに着いた男が振り返り、誰も居ない事に安堵の息を吐いた時……

「駄目だぞ?まだ鬼ごっこは終わっていない」
「!?」
「ほら、捕まえた」
「ち、」

男の肩に長髪の青年が手を置いた。

「師走さーん」
「此処だ、睦月」
「あ、いたいた。例の辻斬りは?」
「粛清完了だ」

数分後。

少年が路地裏にやって来ると、青年と横たわる男が出迎える。

「……自分が鎌だからって相手を斬り殺していい理由にならないってのに。しかも通り魔するなんて」
「まぁ、だから粛清対象になった……さて、睦月。他の任務は?」
「今日は此れで終わりです」
「じゃあ、戻ろうか」
「はい」

少年─睦月は青年─師走と共に歩き出した。

彼等暦は其々『ツクヨミ』の屋敷を取り囲む様に其々の邸宅がある。

睦月と師走……始まりと終わりの彼等はその邸宅が近かった。

「「おかえり」」
「……また待っていたのか?水無月、神無月」

睦月と別れて自分の邸宅に向かっていた師走の前に現れたのは、彼と同い年位の男女。

長い髪を結い上げている娘─神無月と無表情の青年─水無月だった。

「私達も明日任務無いからさ」
「折角同期全員休みだから、飲もうという話になった」
「俺は任務帰りなんだけど。というか、飲める歳じゃないだろ」
「「其処は雰囲気」」

そう話しながら、彼等は師走邸へと入る。

「それにしても、最近任務が多いな」
「其れは私も思ってた。今まで週1で暦が出れば十分だったのに、最近毎日誰かしら出てるね」
「……もしかすると、夜が騒がしいのかもしれないな」
「夜が騒がしい?まさか、器?」
「さぁ、其処までは」

神はこの世に降臨する為にヒトの器を必要としている。

が、ツクヨミの器は数十年と出ておらず、彼等は代理の元で任務に就いていた。

「だが、本当に器が現れたなら……確実に手に入れる」
「師走は凄いな」
「ああ。最強の師走……同期として自慢だ」
「俺は大した事はない。異能も平凡の域でしかないからな」
「「いやいや」」

異能。

それはヒトが持つ特異能力。

逆にオニは怪異と呼ばれる特異能力を保持している。

水無月は水に纏わる異能を、神無月は風に纏わる異能を持っており、師走は……

「強化の異能。持つ者次第では本当に厄介だ」
「と言っても、俺が強化出来るのは自分自身だけだけどな」

肩を竦めて二人のそう返す師走。

「「其れでも十分」」
「本当に仲良しだな、夫婦は」
「「夫婦じゃなくて幼馴染!」」

顔を赤らめて返された言葉に、師走は笑った。

翌日。

出掛ける誘いを断った師走は、如月邸を訪れる。

「如月、居るか?」
「!師走さん」
「……師走さん……」
「師走さん、昨晩はどうも」

女性と見間違う程の容姿の少年─如月、他にも鳥を肩に乗せた少女─弥生、そして昨晩行動を共にした睦月が居た。

「同期で集まっていたのか?」
「ああ、師走さんの話を聞かせて貰っていた」
「うん……」
「本当、如月ったらしつこいんだから」
「いいだろう、別に。僕だって師走さんと任務出たいんだから」

仲良く話す三人は師走達より下の同期組。

雷を操る睦月と空間操作の如月、そして動物を操る弥生。

暦になる前に彼等の指導をした事で、この三人は師走に強い憧れを持っている。

そんな彼等に複雑そうに微笑む師走。

「?」
「師走さん?」
「談笑もいいが、鍛錬を怠るなよ?」
「「「はい!」」」
「で、如月。代理からの伝達で明日、皐月と任務だそうだ」
「げ、姉様と?」
「あら、随分なご挨拶ね?」
「「「!」」」
「御機嫌よう、皐月」
「御機嫌よう、師走」

師走の背後から金髪の女性─皐月が現れ、如月をジロリと見た。

「姉への挨拶はないのかしら?」
「オハヨウゴザイマス、姉様」
「はい、おはよう」

氷に纏わる異能を持つ皐月は如月の実姉。

そして、敵わない相手である。

「皐月姐さん……おはよう」
「おはようございます、皐月姐さん」
「ええ、おはよう」
「如月にご用ですか?」
「ええ、明日の事を決めようと思って」
「あ、僕達居ても?」
「構わないわ」
「じゃあ、またな」
「あ、はい。また今度稽古つけて下さいね」

彼等と別れた師走はそのまま中央……ツクヨミの屋敷へと向かった。

「文月爺……何をしてるの?」
「また迷子?」
「むぅ、散歩じゃ散歩。任務まで時間あるでの」
「「寝なよ」」
「文月に卯月に葉月?何しているんだ?」
「「「あ、師走」」」

途中、話し込んでいる男女三人組と遭遇する。

「聞いてよ師走!文月爺ってば、また迷子になってるの!」
「迷子にはなっとらん。風の向くままに歩いとるだけじゃ」

封印に関する異能を持つ卯月と地を操る異能を持つ葉月。

そして、記憶に関する異能を持つ文月。

「だから迷子になるんだよ」
「師走の言う通りだよ。直ぐに迷子になるんだから」
「卯月と葉月は買い物か?」
「「そうだよー」」
「気を付けて行って来い」
「「はーい!」」

まるで姉妹の様な二人に師走と文月は顔を見合わせて笑った。

「文月もあまり徘徊してないで、夜まで少し休んだらどうだ?」
「うむ、そうさせて貰うかの。それにしても儂はまだ若いというのに、何故お主以外皆爺と呼ぶのかのぅ」
「……その口調と徘徊癖の所為だと思うぞ?」

師走は苦笑し、再びツクヨミの屋敷へ。

屋敷の中を進み、最奥の部屋の前で止まる。

「あ、師走~待っとったよ」
「来たか」
「長月に霜月も来ていたのか」
「おん」

部屋の前に眼鏡の青年─長月と鋭い目付きの青年─霜月が立っていた。

幻惑系の異能を持つ長月と、炎を操る異能を持つ霜月。

「……昨晩は任務があったそうだな」
「ああ。問題無く粛清した」
「通り魔やったらしいな。最近多くなっとらん?」
「確かにな……各家もざわついている」
「余計な事せんとええんやけど」

部屋の前で合流した彼等は一緒に中に入る。

「ああ、来てくれたね」
「「「御呼びでしょうか、代理様」」」

中には札で目隠しをした男が中に座っていた。

その側には少年がキョロキョロと落ち着かない様子で回りを見ている。

その少年を見て師走は目を見開き、長月は怪しげに微笑み、霜月は訝しげな顔をした。

「皆を呼んだのは、この子を任せたくてね」
「任せる、とは?」
「この子もまた月の加護にある子でね」
「「!」」「…………」

月の加護。

其れは暦にとって、次代の暦候補であるという意味だ。

「という事で、君達にこの子を任せたい」
「それなら霜月がいいと思う」
「!?」
「ああ、それええな。師走が言うなら特に」
「はぁ!?何故俺がこんな若造の面倒を見なければならんのだ!?そういうのは師走の方が適任だろ!」
「其処は俺の名前出さへんのな」
「お前に預けたら変人になるだろ」
「んー、俺はちょっと遠慮しとくかな」

それから二人で霜月を丸め込み、少年は彼に預けられる事になった。

「決まって良かったよ」
「それにしても、何故我等のなのですか?」
「せやね。爺や姐さんもおるはずやし」
「うーん、どうしても君達を頼りたくなるんだよね。付き合いが長い分ね……っ」
「!霜月、長月」
「!ほな、要件は終わりやと思いますんで、退出させて頂きますわ」
「あ、ああ。一先ず来い」
「え、あ、はい?」

霜月が少年を引っ張りながら、部屋を出る。

「……代理、ますます時間が短くなっているな」
「おん。早よ器見付けへんといけんな」
「あ、あのさ」
「ん?」

少年が師走へと声を掛けた。

「ああ、俺は師走」
「えっと、翔琉です。大和翔琉」
「大和……」
「?俺、オジサンにお願いして弟子入りしたいって」
「その結果、月の加護を持っていたのか……っと、目付き怖い方が霜月、眼鏡の方が長月」
「オジサンが付き合いが長いって言ってたけど……」
「代理をオジサンと呼ぶ等なんたる不敬だ!叩き直してやる!」
「う、わ、えっと、じゃあね師走!」
「候補が暦に軽口叩くな!」
「わっ!?」

少年─翔琉は霜月に引きづられて行く。

其れに苦笑し、長月も去って行った。

「…………もうそろそろ、か」







数日後、彼等は共に任務に出る事になった。

「え、師走さんってオジサンの息子なの!?」
「かーけーるー!」
「わ、すみません!えっと、代理様のご子息なんですか」
「すっかり仲良しだな」

霜月に睨まれ、慌てて訂正する翔琉。

「……別に気にしてないさ。息子って言っても、義理なんだ。俺は代理に昔拾われたんだ」
「そ、そうなんだ……あのさ、霜月さんと長月さんは……」
「二人は俺の義兄……本当の息子さんの幼馴染みなんだ」
「そうなんだ」
「霜月は怖いけど優しい人だ。心配しなくていい」
「う、うーん……あ、そのお兄さんは?」
「左腕だけ残して行方不明になった」
「!」
「翔琉君も……危ない事も多いから気を付けてな」
「ああ。でも、俺は死なないよ」
「ん?」
「大好きなお兄さんを探さないといけないから」
「……そうなんだ」
「翔琉!何時まで喋っている!」
「ご、ごめんなさい!」

霜月に叱られ、慌ててついて行く翔琉を師走は複雑そうな瞳で見詰める。

それから翔琉は暦の中に馴染んでいった。

特に歳が近そうな師走、水無月、神無月に絡み、師匠である霜月にも少しずつ認められていく。

そんな彼を、師走はずっと見ていた。

春には花見を、夏には海へ、秋には紅葉を見に、冬は雪で遊び……一年という期間で、彼等は確かな絆を育んでいった。

最強と言われる師走が彼に背を向けるまで。



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