チート双子の何でも屋


ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。

其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。

今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。

「えっと、手紙?」

郵便受けを覗くと、一枚の手紙が入っていた。

「『何でも屋様』……依頼?」
「文也君、どうかした?」
「あ、結音さん。何でも屋宛てに手紙が入っていました」
「本当だ。差出人は?」
「……此れって、何て読むんでしょうか?」
「んー……」

手紙を裏返すと、其処には謎の字が描かれている。

「此れはオニの言葉だな」
「え、オニの?」
「と言っても随分昔の文字で、今は統一されているから知らないのも無理はない」
「(逆に何で結音さんは知ってるんだろう)」
「『黄昏』」
「黄昏……?」

一先ず手紙は双子の元へと届けられた。

「「事件を解決して欲しい」」
「事件の」「解決」
「都から離れた田舎の村で奇妙な事件が起きてて」
「其れを村に来て解決して欲しいって書いてある」
「つー事は出張になるのか?」
「此れは電車を乗り継がないといけないね」
「お泊り?」『お泊りでしょうか』
「そうだね。この距離だと泊まりになりそうだね」
「…………」

予定を立てる彼等の一方で……結音は何か考える様に口元に指を当てている。

「「結音兄さん?」」
「……いや、何でもない。其れで行くのか?」
「「依頼とあれば」」

其れから彼等は桔梗の知り合いだという狐のオニに留守を任せ、一行は電車を乗り継いで目的の村『黄昏村』へと訪れた。

「すみません、村長のご自宅は?」
「ああ、其れなら……」

文也が率先して依頼主である村長の家を聞く。

と、村人の視線が鬼灯と桔梗に向けられた。

「そっちの二人はオニかい?」
「え、ええ……まぁ……」
「なら、気を付けなさいな」
「「?」」

その言葉に二人が首を傾げつつも、案内通りに村長の元へ向かう。

「初めまして、村長をしている入間と申します」
「其れで」
「解決して欲しい事件って?」
「この村を見て、オニの方々の姿は見ましたか?」
「……そういや見てねぇな」
「気配も無かったね」
「其れが、この村で起きている事件です」

入間と名乗った初老の男が話し始めた。

この村にも勿論オニが居て、都同様に共存していたが……ある日突然、オニが一人、また一人と消える事件が発生。

どれだけ探しても消えたオニ達が戻る事は無く、今はオニが居ない村になってしまったらしい。

「どうか、この事件を解決して下され。もし、叶うなら行方不明のオニ達を……」
「「その依頼、承りました」」
「…………」

何時もの様に依頼を受ける双子を、やはり何か考える様に結音が見詰める。

「一先ず情報収集かな」
「鬼丸と妖狐と菖蒲は一人になっちゃ駄目」
「「分かった」」
「何時も通り鬼丸は頼んだよ、桜」
「妖狐もよろしく、菊」
「文君とシオちゃんはどうする?」
「……二人は俺が見るから、三組に別れよう」

という事で、咲良と鬼灯、輝久と桔梗、結音と文也、詩織と菖蒲の三組で別れる事になった。

「すみません、オニが消えた事件を調べているんですが……」
「ああ、そうなのですか?」

文也が手当たり次第に村人に尋ねていく。

そんな彼に詩織と菖蒲が寄り添い、一歩離れた所で結音が周りを見渡した。

「……此処は神様は居るのか?」
「「え?」」
「ええ、キジキ様が居りますよ」
「キジキ……様?」
「家、其れとも神社が?」
「神社ですね。この道をまっすぐ進んだ先の丘にありますよ」

村人が指差した先を四人が見る。

「ありがとう」

そう言うと結音が歩き出し。文也達も慌ててその後を追い掛けた。




一方、その頃。

「目ぼしい情報はねぇな」
「うん。目撃者も居ない」

咲良と鬼灯は聞き込みを終えて村長の家へと向かう。

「それにしても、何でまたオニだけが……」

 チリン

《ねぇ、コッチよ》
「!!」

背後から聞こえた女性の声に鬼灯が動揺した様に振り返った。

其れに直ぐに気付かなかった咲良と距離が出来る。

「……鬼丸?」

咲良が振り返った時……其処に彼の姿は無かった。




結音を先頭に神社へと向かう。

「……!」

と、神社らしいものが見えて来た所で結音が足を止めた。

同時に菖蒲の体が震える。

「菖蒲?」
『この先はいけません……』
「ああ。この先はオニを連れてはいけない」
「「?」」

神社まではそう遠くない。

結音はその方角を睨んだ後、文也達に振り返った。

「戻ろう。鬼丸と妖狐が心配だ」
「二人が?」
「菖蒲、詩織ちゃんの側を離れるな。出来れば帽子の中にいなさい」

遠出だからと被って来た詩織の帽子に触れながら言えば、菖蒲は躊躇いなく入り込む。

「詩織ちゃん、菖蒲から絶対に離れないで。出来れば常に触っている状態で」
「う、うん」

詩織が返事をすると同時に歩き出す結音。

早足な彼に文也達は駆けながら続いた。

「キジキ……キは鬼、ジキは喰……鬼喰様。オニを喰う神……黄昏」




その頃……

「収穫無し、かぁ」
「態々オニの家に行っても何も分からなかったね」
「うーん、結音さんに期待かな」

村長宅へと向かう輝久と桔梗。

「……!あれ?桜?」
「え?」

と、其処に立ち尽くす咲良を見て、輝久が駆け出す。

其れに桔梗も続こうとした時……

 チリン

《もういいよー》
「!」

足を止めて振り返った。

「妖狐、結音兄さんの所に……妖狐?」

輝久が気付いた時には桔梗は消えていた。





「神社だな。多分、其処に二人は居る」

村長の家の前、其処で決して中に入ろうとせずに結音が双子に言う。

桔梗まで居なくなった事で、輝久が咲良を引っ張って連れて来て、早足で帰って来た結音達と合流したのだ。

「キジキ様がオニを喰べる神様だなんて……」
「……いや、キジキ様は本来存在しない」
「え?」
「……私も知らない」

オニ関連に詳しい二人が否定した事で、文也が困惑した様に見詰めた。

「黄昏……そもそも、そんな村すら存在しない」
「「!?」」

その言葉に文也と詩織は目を瞠った。

「そんな、確かにこの村は……」
「誰そ彼」
「?」
「黄昏の所以だね」
「黄昏時はその暗さから其処に居る人が誰かも分からない」
「そんな言葉が昔のオニの言葉で書かれていた」
「手紙の差出人!」

ハッとした様に文也も言う。

「此れは誘われたな」
「てっきり村の代表だから『黄昏』って書いたのかと思ったけど」
「オニの居ない村でオニの言葉で書かれてる事自体おかしい」
「何で気付かなかったんだろう」

結音が再び早足で歩き出した事で、彼等は神社へと向かい始めた。

「黄昏……心当たりがある」
「!」
「無いモノを映し、有るモノを消す。幻惑を見せて誘う」
「…………」

文也が咲良に視線を向けると、彼は首を横に振る。

「菖蒲、大丈夫?」
『も、申し訳ありません。私は……』
「うん。其処に居ていいよ」

菖蒲はストラップに入らず、帽子の中に留まった。

「…………」

神社に着く頃には暗くなっており、静まり返った空間に入る。

「……出て来い。気配が完全に消せていないぞ」

結音がそう言った時……

《兄様》
「!」
「え?子供?」

彼の背後に現れた幼い少年。

結音は振り返らない。

《兄様、一緒に遊びましょう!毬持って来ましたよ!》

少年の手には毬。

無邪気に結音に声を掛けていた。

《兄さ……》
「成程。その者にとって後悔の念を持っている者に成り代わって振り向かせる……でも、間違えたな。俺にはもう弟は居ない。桜!」
「!」

咲良が其れを結音の前に吹っ飛ばす。

『此れは手厳しい。いやはや、まさか知ってる者がいるとは』

其れは着地する頃には糸目の青年に変わっていた。

外套を羽織、深緑の軍服の様なものを着た青年。

『先日はお嬢と若がお世話になりました』
「!若頭の……」
「で、お前が浚ったのか?」
『ええ。いいモノが手に入りましたわ』
「双子、遠慮なくやっていいぞ」

その言葉に双子が青年に向かっていく。

『あわわわ、そりゃ勘弁』
「「!」」

異能を使おうとした時、双子の前に鬼灯と桔梗が放り出された。

二人を受け止めた直後、青年は直ぐに姿を消す。

「逃げた?」
「ああ」

鬼灯と桔梗を寝かし、顔を覗き込んだ。

どうやら気絶しているらしい。

「さて、本命だ」
「「!」」
『ギギギギ』

神社の向こうから、黒い塊が現れる。

口だけが付いた其れは、ゆっくりと近付いて来た。

「ちょっと今」
「機嫌悪いんだよ」

そして、先程の鬱憤を晴らす様に双子が瞬殺する。

その間に鬼灯と桔梗が詩織の異能で目覚めさせた。

「「…………」」

二人は複雑そうな顔をしている。

「……外に出よう」

神社から出ると、景色は一変していた。

其処には何も無い平地。

文也が慌てて振り返ると、神社も跡形も無くなっている。

「こんな広範囲となると……厄介な奴がまた生まれたものだ」
「(生まれた……?)」

其れから彼等は近くの町まで歩き、其処で一泊した。

「若頭にお嬢、其れに黄昏……そして、俺達を誘う為に映された村。何が起きてる?」

考え込む結音を見詰める文也。

「(結音さんは……何者なんだろう)」

謎で終わった事件だった。




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