ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。

其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。

今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。

　ジリリリ…

「はい、ご依頼ですよね？」
「え、ええ」

文也が玄関に迎えに行くと、其処に居たのは一人の女性だった。

「どうぞ此方へ」
「はい」

離れの双子の元へと案内する途中……

「！詩織ちゃん？」
「あ、先生」

花畑で菖蒲と花冠を作っていた詩織と会うと、お互いに驚いた様な顔をする。

「え？先生？」
「うん。担任の雨井先生」
「其れは……何時も妹がお世話になっています」
「妹……え、あ、保護者の方、わ、私担任の雨井雫枝です！」

分かった途端にお互い挨拶を始める二人。

「……三者面談してないで、中に入りな？」
「「はっ」」

そんな二人を結音が苦笑しながら促した。

「「ご依頼は？」」
「私、詩織の学校の教師をしているものです」
「へぇ、シオちゃんの先生」
「可愛い感じだな」
「はえ……！？///」
「…………」
「鬼丸君は少し黙っててくれ。妖狐君は嫉妬しない」

再び苦笑しながら言う結音。

「で、ご依頼は？」
「あ、そ、それで、最近うちの生徒が夜の間に居なくなってしまうんです」
「「居なくなる？」」
「……詩織ちゃん、何か知ってる？」
「うん。違うクラスの何人かが行方不明になってる」
「…………」

詩織の言葉を聞き、結音は何か考える様に宙を見る。

「その子供の特徴は？」
「あの……所謂訳ありとか問題児でして……警察は家出の可能性もあると……」
「……成る程」
「結音兄、分かったの？」
「察しはついた。桜良も知ってるタイプだ」
「…………まだ分からない」
「誘うモノ」
「！夢幻鬼？」

桜良が言うと、結音は頷いた。

「無限？」
「夢に幻と書いて夢幻」
「その名の通り、夢や幻で獲物を引き寄せる。別名誘うモノ」
「よく分かったな」
「夢幻鬼の好物は子供。特に詩織ちゃんくらいのな」
「そして、現実に不満がある者程罹りやすい……条件に当て嵌まってる。でも、他のオニも……」
「夢幻鬼はその特徴から、夜にしか活動出来ない。加えて、詩織ちゃんの学校近くには夢幻鬼の封印場所がある」
「！？そんなものが近くに！？」

文也が動揺しながら問い掛ける。

「封印自体は強固なもの。滅多な事では破れない……誰か封印を解いたとしても、其れだけで消耗する……となると、一族に何かあったか……」
「其処まで強固な封印……まさか、若頭？」
「かもしれないな」
「若頭？ヤクザか何か？」
「外見が若い青年の姿をしたオニだ」
「あまりにも強力なオニで、指を集めるのが趣味だからそんな渾名がついたって……」
「「「「悪趣味……」」」」

文也達がドン引きした様に言った。

其れに結音は頷き、双子は顔を見合せる。

「其れが夜な夜な」
「子供を誘拐してるって事？」
「その可能性が高い」
「けど、家出っつー可能性もあんだろ？」
「まぁな。菖蒲はどう思う？」
『結音様の仰る通り、オニの気配が僅かにします。ですが、辿るのは困難かと……』
「…………今回は君達は留守番していなさい」
「「「「！」」」」

結音は双子の頭を軽く撫で、そのまま出て行った。

そんな彼を見送り……互いに視線を交わす。

「「まぁ、行くしかないよね」」
「「だよなぁ」」

そして……夜。

双子達は学校へと向かう。

「結音さんいませんでしたね」
「「そうだね」」
「おい、一応気を……！！」
「っ！！」

緊張感を感じない双子に注意しようとした鬼灯が硬直し、横に居た桔梗もビクリと体を震わせた。

「「？」」
「どうしたんですか？」

鬼灯と桔梗は目を瞠き、体を微かに震わせて固まっている。

其れに双子達が動揺した時……

『おっと。随分美味そうな童が居るなぁ』
「「「！」」」

視線を上げると、何時から居たのか校門の上に一人の青年が立っていた。

流しを着ており、煙管を吸いながら不敵な笑みで双子達を見下ろしている。

「「……ヤバイ」」
「！」

鬼灯と桔梗の言葉を聞くと同時に輝久が炎を創造して放った。

『はは、丁度いい火だ』
「「！」」

が、其れは煙管の中に吸い込まれてしまった。

「桜！」
「ん」
『おお！』

咲良が異能で青年を吹き飛ばす。

其れに青年は楽しそうな顔をしつつ……

『ほうれ、お返しだ！』
「「「「「！！」」」」」

先程煙管で吸い込んだ炎を咲良へと向けた。

「桜君！」

そんな咲良の前に文也が出る。

と、炎は文也に触れる前に消えた。

『ほう？珍しいの。力を消す異能か』
「…………」
「……君が若頭」
『ふむ。其れは彼奴が俺をそう呼んでから、外の者もそう呼び始めた名だな』
「彼奴……？」
『あの異様な気配の若造。彼奴にいい様にやられた所為で封じられてしまってな』
「いい様にというか、単純に調子に乗ってただけだろ」
「「「「！」」」」

その時、双子達の背後から呆れた様な顔をした結音が歩み寄って来る。

「大丈夫か？鬼丸君、妖狐君。やっぱり飲まれちゃったか」

結音は苦笑しながら鬼灯と桔梗の頭を撫でた。

『……久し振りだな。お前さんの所為で封じられてしまったわ』
「俺より弱かったのが悪いんだろ。で、今時狩りをしてるって事は力の方は封じられたままって事か」
『本当にお前さんは面倒だな……まぁ、狩りをしてるのは真だが？』

懐からまだ小さな指を出しながら不敵に笑う青年。

其れを見て文也、鬼灯と桔梗は硬直する。

「相変わらず悪趣味だな……今回ばっかは返せねぇな」

ボソリと呟かれた最後の言葉に、文也は消えた子供の行方を察してしまった。

『ふむ。やはり心に闇を抱える子供は美味い。其処の双子も美味そうじゃ』
「……私が？美味そう？感情が分からないのに？」
「…………」

輝久が首を傾げ、咲良も表情を変えずに青年を見ている。

『何を言うておる。其れはお前さん達の闇そのもの』
「で？俺が喰わせてやるとでも？」
『……儂としてはお前さんを一番喰いたいがな』
「ハハハ……気持ち悪」
「「「其れは同意」」」
「……さて双子」

結音が声を掛けると、双子は振り返った。

「アレは強い。だが、今の双子よりは弱い。やってやれ」
「「うん」」

その言葉を受け、双子は再び青年に向き直る。

其れからは異能と怪異のぶつかり合いだった。

輝久が異能で生み出し、其れを咲良が操る。

「さ、流石双子」
「「それな」」
「……まぁ、倒せないだろうけど」
「「「え？」」」

文也と鬼灯と桔梗は結音へ振り返った。

「今は夜だからな。彼奴は夜にしか動けない分、夜の間は死なない」
「じゃあ、どうすれば……」
「昔は弱体させてその間に封印してけどな。一族の方見たら当主が亡くなって、次代が幼過ぎて受け継げてなかったっぽい」
「其れを確認しに行ってたんです？」
「そ。まぁ、代わりは居なくはないけど……もう暦辞めたからなぁ」
「つまり、暦のメンバーに居るって事っすか」

そう話している一方で、双子が青年を追い詰めている。

『チッ、力さえ取り戻せば……』

　リーーン……

「「「「「！」」」」」

鈴の音が聞こえたと同時に、双子と青年の間に少女が割り込んだ。

おかっぱ頭に赤い着物を着た少女。

彼女の手には鈴。

「……お兄ちゃん、帰ろ？」
『……致し方無し』

青年がそう呟くと少女を抱えると同時に消える。

「「逃げられた」」
「……あの娘……」
「結音さん、知ってるんですか？」
「んー……微妙。正直、違うといいなぁという感じ」
「「それって知ってるじゃん」」

彼等の問い掛けに結音は笑って誤魔化した。

「取り敢えず、あの先生には子供は喰われた事を報告しないとな。そうすれば、本格的な所が動くだろ」
「でも、奴が野放しに……」
「其処は双子にやってもらおう」
「「？」」
「菊君が強固な結界を創造して、其れを桜君が操作して強化」
「「うん、分かった」」

双子が言われた通りに結界を張る。

「……さて、困ったな」






──裏側“夜の街”

『全く、勝手に出て来ちゃ駄目だろ。お嬢』
「お兄ちゃんが心配だったから」

街を進む青年と少女。

「向こうに居たお兄さんがお兄ちゃんを弱らせて……お父さんを倒した人」
『おう。親父は確かに彼奴に倒されたな』
「ふぅん」
『おや、お帰りなさい。旦那にお嬢』

そんな彼等に声を掛けたのは、角を生やしたオニ。

『見られませんでした？』
『見られたが大丈夫だろ。向こうは逸れ者だからな』
「逸れ者。あたしと同じ？」
『ああ。出会いさえありゃ、こっち側だったな。まぁ、彼奴と親父が相性最悪だけど』
「ふうん。其れにしても、向こうの夜も中々だったなぁ」






「そうですか……」

翌日。

担任の先生に報告すると、彼女はショックを隠せない様子で呟いた。

「適切な所に報告する事を進めるよ」
「……はい」
「……あんたは優しいなぁ。居なくなった子供の事を想ってんだろ？」
「え？は、はい……私、事情知ってたのに……何も……」
「あんたの所為じゃねぇ。その分、今居る子供を頼むな？」
「っはい！」
「……一応言っとくけど、鬼丸は僕のだからね」

そう言った桔梗に皆が苦笑した。

「……夜が近付いてるな」

そんな様子を見つつ……結音が呟く。

……夜が歩み寄って来る。




end.