チート双子の何でも屋


ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。

其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。

 ジリリリリリ…

「はーい」
「……ん?」
「えっと、依頼人ですよね?」

玄関前に立つ青年に文也が声を掛けた。

文也を不思議そうに見る青年に文也は戸惑う。

「ああ、すまない。俺は依頼人じゃないんだ」
「あ、そうなんですか?」
「そう。双子は居るかな?」
「えっと、まだ出掛けてます」
「そうなんだ。どうしようかな」
「文君、ちょっといい……!?」

文也を呼びに来た鬼灯が青年を見て、目を瞠った。

「師走さん!?」
「え、師走って……」

師走。

五大神の内、一神に仕え守護する『暦』。

その内、最強と言われているのが師走だった。

「元、師走だ」
「え?元って、まさか……」

動揺する鬼灯に青年はふわりと微笑んだ。





其れから、青年は離れに案内される。

「あ、美味しい」
「!?」
「えっと、ありがとうございます」

文也が出した茶を飲む青年の言葉にまた動揺する鬼灯。

「あ、の、師走さん、味が……」
「元、師走だと言っただろう?制限も解かれているからな。其れと、結音と呼んでくれ」
「は、い。結音さん」
「敬語も要らないんだけどな」

肩を竦める青年……結音に対し、恐縮している鬼灯。

其れに戸惑う文也。

「そういえば君の名前、まだ聞いてなかったな。改めて俺は結音」
「あ、文也です。えっと結音さんは本当に、あの師走なんですか」
「ああ、どの師走かは知らないけど、少し前までは師走だったな」
「わゎ……」
「君、もしかして古い一族の出か?師走の事を知ってるって事は」
「え、ええっと……」

 ダダダダダダ… バァン!!

「「師走兄さんが来てるって本当!?」」
「やぁ、双子。元気そうで何よりだけど、戸は静かに開けような」

文也が返す言葉に戸惑っていると、双子が駆け込んで来た。

その後を詩織を抱えた桔梗が続く。

「「師走兄さん!」」
「甘えん坊は直ってないのか?其れと、俺はもう師走じゃないから結音と呼んでくれ」
「「結音兄さん!」」

双子は結音を見るとそのまま抱き着いた。

「妖狐君も久し振り」
「は、はい!お久し振りです」

呼ばれた妖狐も背筋を伸ばして返す。

「えっと、結音さんって……」
「あー、師走さ、じゃなくて結音さんは俺達の師匠みてぇなもんだ」
「「え」」

驚き思わず結音を見る兄妹に、彼は微笑んだ。

「師匠って……」
「「私達は体術と異能を」」
「俺も怪異と……後は家事だな」
「僕も怪異と料理だね」

怪異とは、オニが使う特殊能力の事である。

「異能と怪異を教えるって……結音さんは人、ですよね?」
「残念。俺はオニになった人だ」
「……ぇ」

オニ堕ち。

古い一族の出なら聞いた事がある、程度の伝承。

其れは人が異形のモノになったという本来在りえない現象。

「そんな、最強と言われた師走がオニ堕ち……?」
「はは……その子、文也君の妹さんか?」
「え?あ、はい。そうです」

桔梗から降ろされた詩織は視線を向けられた際に、文也の後ろへと隠れた。

「君は、その子が攫われたら何としてでも取り返したいと思う?」
「……はい」
「俺もそんな感じさ。どうしても取り戻したいものがってね。人のままでは駄目だった、という事さ」
「っ……!」

オニ堕ちすると言えば、伝承の多くは強い恨みから。

だが、彼は恨みではなく取り戻すという想いから……一度詩織を一族の者達に連れていかれた身としては、その気持ちは痛い程分かってしまう。

「……所で、文也君とその妹さんは夜月に何か関わりでもあるのか?」
「「え?」」
「知り合いから、双子が夜月と対立してたと聞いてものでな。隠居ついでに夜月の相手をしたら如何だと言われたんだ」
「知り合い……」
「もしかして……」
「夜月は追放されたは言え、かつて暦にも属していた古い一族。双子だけでも十分だろうが、俺が居ればもっと抑止になるんじゃないかって」
「……実は……」

文也は自分達が家を出た事、其れに至った経緯、そして双子達との出会いの事を話した。

「……またあの一族は愚かな事を。何故俺が追放したのか分かっていないのか」
「「え?」」
「所で双子。暫く此処に居てもいいか?」
「「勿論」」
「ありがとう。一先ず俺が此処に居る間は俺も君達の護衛に入る」
「「え?」」
「俺の異能と怪異は双子達の様に凄くは無いけど、応用は利くつもりだから」

という事で、結音もまたこの何でも屋に居候する事となる。

「兄さん、また稽古つけてよ。桜も相手して貰うでしょ?」
「……うん。そうだね」
「構わない」
「……結音さん!」
「ん?」
「僕にも稽古をつけて下さい!僕も妹を護りたいんです!」
「……いいよ。でも、手加減苦手だからその辺覚悟してくれ」
「は、はい!」


「……そーいや、確か結音さんって」
「昔、夜月って呼ばれてた様な……」


「確かに君の拒絶の異能は凄いな。だけど、その前に体を鍛えないと」
「は、はい……」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「う、うん……」
「此れは双子達も一緒。君達は唯でさえ異能が強力だから異能に頼った戦い方になってる。体術をもっと伸ばしなさい」
「「はい」」
「鬼丸君と妖狐君は逆にもっと怪異を利用しな?君達も出番がないとは限らないんだから」
「「はい」」

中庭で転がる双子達。

そんな中立っている結音は淡々と告げた。

「あ、あの……」
『初めまして、遠き方』
「ん?珍しい、花妖精の進化体だ。詩織ちゃんと契約してるのかな。あと、結音って呼んでくれ」
「うん」
「そっか。じゃあ、君達はまず絆を深めよう……という事で、ちょっとお出かけしようか」
「『?』」

結音はポケットからチラシを出す。

「……お祭り?」
「そう。明日は学校?」
「うん」
「じゃあ、明日学校が終わったら行こうか」
「お兄ちゃんも一緒?」
「そう、一緒」
「行く」
「じゃあ、決定」

笑顔を浮かべる詩織の頭に結音が手を伸ばし……撫でる事無く、その手は降ろされた。

「双子達も行かないか?」
「「はい」」

それから翌日。

詩織を送り出した後……

 ジリリリリリ…

「はーい。えっと、依頼人ですか?」
「え、ええ。何でも屋さんですよね?」
「はい。此方へどうぞ」

以前の様に依頼人を離れへと案内する。

「「ようこそ。ご依頼は?」」
「その……祭の裏側、というのをご存知ですか?」
「祭の裏側?」
「表で行われる祭の一方で、裏の領域へ対象を拐う……神隠し」
「神隠し?」
「祭は良いモノだけでなく、悪いモノも寄って来る。他にも野良神とかたまに居るし」
「中には気に入った奴を自分の領域に連れて帰ったり、食べたりする。だから、神隠し」
「つまり、裏側とは其れの領域を指してるんだ」

咲良と結音が説明すると、依頼人は顔を伏せた。

「実は……息子がその祭の裏側に……」

その言葉に咲良は結音を見上げ、結音は複雑そうな顔をする。

「どうか、息子を取り返して下さい!お金なら幾らでも払います!」

バッと頭を下げる依頼人。

「「その依頼、お受けする」」

という事で、彼等は祭会場へとやって来た。

今はまだ昼間だが、屋台も出ており、其れなりに賑わっている。

「可能なら詩織ちゃんの学校が終わるまでに」
「解決したいね」
「僕も頑張ります」
「っつーか、その前に」
「どうやって裏側に入るかだね」
「…………」
「結音さん?」

文也が無言で最後尾にいる結音へと振り返った。

腕を組んで佇む彼の目の周りが、うっすらと光っている。

「もしかして、異能を?」
「結音さんの異能は『強化』なんだよ」
「多分、今は視力強化してるんだと思うよ」
「稽古の時、あれ程強かったのも……」
「「あれは素」」
「「異能無しであれ」」
「え」
「遠回しにゴリラ扱いしないでくれるか?」

結音は異能を解き、肩を竦めた。

「何か分かりましたか?」
「オニの痕跡が残っていた。恐らく、この先の社を根城にしてるんだろう」
「社なら神がいるんじゃ?」
「もう此処には居ない」
「そうなんですか……」
「「取り敢えず社に行ってみよう」」

一先ず彼等は社へ足を進める。

「桜、此処に居るオニの予想は?」
「…………」
「ヒントは小さな足で人型」
「……もしかして、迷いオニ?」
「正解」
「「「迷いオニ?」」」
「迷子を領域へ連れ込むオニ。その姿は人の子供と同じで、帰りたいと泣いた所を喰らう」
「じゃあ、例の息子は……」
「確かめないと分からないぞ?」

結音は言いながら少し目を細めた。

軈て、社へと辿り着く。

「さて、チート双子の桜。君の出番だ」
「?」
「桜君の出番?」
「君の異能で裏側への扉を抉じ開ける」
「分かった」

言われた咲良は両手を前に出し、異能を使った。

両手を……扉を開ける様に左右へ広げる。

「……来た」

そして、空間が歪んだ。

『だぁれ?』
「「「「!」」」」
「お邪魔するぞ」

歪んだ先……空間が切り開かれた先に小さな男の子が居たが、結音は気にする事無くその中に入った。

其れに一行も続く。

『あなたたちだぁれ?まいごぉ?』
「双子」
「前に迷子になった子供」
「その子供を返して貰うよ」
『だぁめ。あのこはぼくのなのぉ』

小さな男の子はニィイ…と笑った。

其れは雨童子や花妖精とは違う存在だと直感させる。

久々にそういったモノに接触した文也は冷や汗をかいた。

「あの子は僕の……まだ取り込んでないのか?」
「!」
「どうやって取り返すつもりだ?双子」

結音は呟いた後、双子へと問い掛ける。

「このオニ倒しちゃえば変わらなくない?」
「そうしたら、空間ごと潰れて迷子も一緒に消滅だな」
「迷子を捜すのは?」
「どうやって?下手に時間を掛ければ、オニが先に取り込むぞ?」
「私がオニを捉えておく」
「そうだな。其れなら捜す時間は確保出来る……けど、時間も掛かるしな。俺が出てもいいか?」
「「勿論!」」

双子は笑顔で道を開けた。

其れを見て、結音は指切りをする様に小指をたて……

「さぁ……“遊ぼう”」
「『!!』」

呟いた瞬間、空気が変わる。

「内容は鬼ごっこ。俺がお前を捕まえたら、迷子を返してお前の形を変えさせる。お前が逃げ切ったら俺を迷子として取り込んでいい。制限時間は五分。お前に触れて“捕まえた”と言ったら俺の勝ち。よーい、始め」

 パン

乾いた拍手の音に、迷いオニがハッとして駆け出した。

「残念。逃がさないぞ?」
『!?』
「“捕まえた”」

が、気が付いた時には迷いオニの前に回り込んだ結音に顔を掴まれている。

「俺の勝ちだ。先ず迷子を返せ」
「おっと」

直後、男の子が落ちてきて鬼灯が受け止めた。

「今日からお前は土地神だ。小さな男の子の姿をした土地神。この社がある限り、この地でオニから子供を護る存在になる……其れが、今日から君の形だ」

そう告げて結音が頭を撫でると、迷いオニは着物を来た小さな男の子の姿になる。

『……ごめんなさい』
「許されるかどうかは、此れから君が何れだけ護れるかに掛かっている。励め」
『うん』
「じゃあ、俺達は行くぞ。あ、また後で来るな」
『またね』

男の子が手を振るのに返し、結音は彼から離れた。

「さて、迷子を送り届けるぞ」
「「流石結音兄。仕事が速い」」
「今、えっと怪異を?」
「ああ。まぁ、説明は後でな」

迷子を依頼人の元へと送り届け、一行はそのまま詩織の迎えへと行く。

「俺の怪異は『夜遊び』なんだ」

その道中、結音が説明をした。

「遊びを申し出る事で、その空間を掌握する。そして、遊びと勝ち負けの賞品を提示してそれで勝負するって感じ」
「チ、チート……」
「「それな」」
「まぁ、強いオニであればある程、遊びを断られる可能性も負ける可能性もある」
「「結音兄なら負けないでしょ」」
「負けない為に強くなってるからな」

そう微笑みながら結音が返す。

其れから一行は詩織と合流し、一度帰宅して浴衣となって祭会場へ赴いた。

「『わぁ……』」
「沢山楽しんで絆を深めるんだぞ?双子と文也君は二人から目を離さない様に。妖狐君と鬼丸君は逢引でもしておいで」
「「!!///」」
「(あ、その関係結音さんも知ってるんだ)」

其々に言うと、結音は人混みの中に消える。

其れから詩織と菖蒲が金魚すくいや水風船を取ったりし、文也がその様子を撮り、双子がその傍ら射的をした。

鬼灯と桔梗もゆっくりと歩きながら、わたあめやりんご飴等を買う。

其々笑顔で楽しむと、社へと向かった。

社には土地神と成った元迷いオニと談笑する結音が。

『!可愛い……お名前、教えて?』
『私ですか?菖蒲という名前を貰いました』
『僕は暁彦って名前貰ったの。よ、よろしく』
『よろしくお願いします、土地神様の暁彦君』
『うん!』
「「「「おやおや」」」」

小さな出会い。

其れに皆が顔を見合わせていると……

 ヒュー…ドォオオン

「あ」
「わぁ」

花火が上がる。

確かに彼等は絆を深めた。




end.
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