チート双子の何でも屋


ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。

其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。

今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。

 ザッザッ

文也が玄関の掃除をしている時……

「お兄ちゃん」
「どうした?詩織」
「落ちてた」

妹の詩織が花を彼に差し出した。

「えっと……」
「ペンタスだな」
「うわっ!」
「あ、鬼丸のお兄」

その花を見てどうしようと文也が迷っていると、鬼灯が顔を出す。

「ペンタス?」
「確か……花言葉は『希望が叶う』や『願い事』だったか?」
「へぇ……」
「それ、依頼?」
「「あ」」

そんな事を話した翌日。

玄関にはキョウチクトウとオトギリソウ、クローバー、オドントグロッサムが置かれていた。

流石に不思議がった文也と鬼灯は双子の元へとその花を運ぶ。

「キョウチクトウは用心、注意。オトギリソウは迷信、敵意、秘密、恨み。クローバーは幸福、復讐。オドントグロッサムは特別な存在だな」
「うわぁ、意味深だね」
「前日はペンタスだった」
「…………花鬼」
「「「「花鬼?」」」」
「花に纏わるオニ。花を贈るだけなら……花妖精かな」
「可愛い名前」
「花妖精も弱いオニ。声すら出せないから、花に想いを託す」

オトギリソウの花を持ちながら咲良がそう説明した。

「其れはつまり……」
「オニからの依頼?」
「「かもね」」
「えーっと、その花妖精は何処に?」
「花妖精は昼間は花畑に居るよ」
「まさか依頼人探す所から始めるとはな……」
「……あ、心当たりある、かも」

詩織の言葉に彼女に視線が集まる。

「学校の裏に……花畑がある」

詩織は自由になった事で学校に通っていた。

毎朝其処に寄ってから学校に入っていると説明する。

「「行ってみよう」」
「案内、する」

其れから一行は詩織の案内で学校の裏……林を抜けた先の花畑へと赴いた。

「うん、この広さなら居るかも」
「この中からどうやって探すんですか?」
「確か歌うと出て来るって話だったかな」
「「「歌……」」」
「?」

咲良の言葉に輝久と桔梗、詩織が鬼灯を見て、鬼灯は顔ごと目を逸らす。

其れに文也が首を傾げた。

「鬼丸のお兄、歌上手」
「え、そうなんだ。というか、詩織は何で知ってるの?」
「偶に聞かせてくれるから」
「へぇ……」
「……~~俺は言葉に関わる鬼だから多少は上手くねぇといけねぇんだよ!」
「「照れてる」」
「うるせぇ!!」

鬼灯は顔を赤くしながら諦めた様に溜息を吐く。

「歌に拘りは無い筈だよ」
「なら、あの歌がいい。洗濯干しながら歌ってたの」
「ぐっ、アレは聞かせようと思って歌ったヤツじゃねぇ……」

やがて、鬼灯は目を閉じた。

「……──♪」

鬼灯が紡いだのは、この世界のアニメに使われている歌。

其れを全員が目を閉じて聞き……

「「「「「「あ」」」」」」

歌が終わって目を開けると、目の前に小さな生き物が浮かんでいる。

髪はピンク、瞳は緑、服はまるで花弁の様なワンピースを着ていた。

「君は花妖精だね」

生き物……花妖精はコクンと頷く。

「可愛い……」

詩織がその姿を見て呟くと、花妖精はニコリと嬉しそうに微笑んだ。

「君が依頼を?」

再び頷く花妖精。

そして、花妖精は詩織と文也を指さす。

「「もしかして、復讐?」」
「「え」」

花妖精はコクコクと何度も頷いた。

「多分、花妖精は毎朝来ているシオちゃんを見てたんだよね」
「そして、シオちゃん達を狙っている奴等に気付いた」
「復讐……っつーと、夜月か?」

また頷く花妖精。

“夜月”という単語に文也と詩織が青褪める。

「あー、贔屓の鬼は桜が倒しちまったし」
「長と強そうな人は菊が倒しちゃったからね」
「……夜月は中々に古い家だから」
「家を出たのも狙われる理由かも」

彼等の言葉に兄妹は顔を見合わせた。

「……なら、誰を敵に回してるか教えてあげればいいんだよ。ね、桜」
「…………そうだね」

ニコリと笑う輝久に、少しの間を置いて咲良が答える。

今度は花妖精は白いアネモネ、パキラを降らせた。

「……桜が勝つ事を確信してやがるな」
「そう……ちょっと不便だね。シオちゃん」
「?」
「君の祝福でこの花妖精に喋る力を付与してあげて」
「分かった」

詩織が花妖精にそっと触れる。

直後、花妖精は光に包まれた。

『……ありがとう、特別な人』
「あ、喋った」
『本当は、私が貴女を護りたいけど……私は弱いから』
「忠告だけで十分だよ。此れはそのお礼」
『感謝します、尊き方』
「尊き……?桜君が?」
『ええ。尊き方と特別な人はオニの中では有名だから』

花妖精の言葉に輝久と桔梗、鬼灯は真剣な顔をする。

「オニの中で有名なんですか……」
『兄君様も有名ですよ?』
「え?だって、異能すら持ってないのに?」
『あります。貴方の異能があるから、貴方達兄妹は奪鬼に惑わされなかった』
「……そっか、文君の異能の正体が分かったよ」
「え?」

咲良が文也の方に手を向けた。

しかし、何も起こらない。

「文君の異能は、向けられた力を相殺する能力なんだよ。其れも無意識に」
「「へぇ……」」
「まるで拒絶してるみてぇだな」
「「じゃあ、文君の異能は『拒絶』で」」
「え」
「あったんだ……異能が……」
「良かったね、お兄ちゃん」

そう話すと、咲良は目を閉じる。

「……今回は、私が行くよ」
「桜……」
「大丈夫。菊は文君とシオちゃんを頼むよ」
「念の為、俺も行くぞ」
「気を付けて。二人は任せて」
「花妖精、念の為二人と一緒に居て」
『はい』

その言葉を聞き、咲良は一人歩き出した。

其れについて行く鬼灯。

「……私達は帰ろうか。花妖精ちゃんが住める花畑を家に作らないと」
『!一緒に住んでいいのですか?』
「うん、いいよ。シオちゃん、文君、名前をつけてあげて」
「「え」」

輝久が歩き出し、花妖精を手の上に乗せた詩織が続き、その後を文也と桔梗が続く。

「……あの、桜君って……オニに詳しいですよね?」
「そうだねぇ。僕達も割と同族のオニの事しか知らないんだけど、桜は全てと言っていい程知ってる」
「どうして……」
「其れしか許されなかったから」
「「!」」

先を歩いていた輝久が立ち止まり、無表情になって呟いた。

「其れしか許されなかった。奴等は桜をそういう風にしか扱わなかった」
「奴等?」
『その先は知らなくても良いかと』
「……どっちみち話せないよ」

そう言うと、輝久は再び歩き出す。

桔梗はそっと息を吐き、文也と共に歩き出した。







「「…………」」

先を歩く桜に続く鬼灯。

彼等は無言で歩いている。

「……居た」
「おう」

軈て、少し離れた所に居た男達の前に立った。

「ねぇ、文君とシオちゃんを狙ってるの?」
「!!」
「そうだ。特に娘の方は器になれる。生贄にすれば大いに役立つ」
「“器”……」

器、其れは神が降り立つ為に必要とする存在。

貴重な存在である。

そして、器はオニにとって進化を促す絶品食材でもあった。

「器っていう単語……菊、嫌いなんだよ」

 『貴方は何れ──様の器となるの』
 『余計なものは要らん』
 『書庫ならば良かろう』

 『んー、やっぱ駄目だ』
 『『え』』
 『気に入らね』
 『そんな……その為に……』

 『何言ってるの?そんなの許さないよ』

咲良の脳裏に浮かぶ映像。

「……もうあの子達は私の家族だよ」
「!」

咲良がそう言った直後、彼の周りにある物が浮かび上がる。

「おい、桜。やり過ぎんなよ」
「桜?さくら……まさか、旭咲良か!!」
「あ、旭だと!?」

一人の言葉に男達に動揺が走った。

「あの……五大神を抱えてる……」
「そうだ、咲良は器にこそ成らなかったが……この世で唯一神の器とも言われている……」
「異能も凄まじいと……聞いているが……」
「……………………」

男達が冷や汗を流す中、咲良は静かに見詰めている。

「随分派手な事をしているな」
「「「「「!!」」」」」
「…………」
「あ?」

その時、割り込んできた新しい声に全員が視線を向けた。

「ま、まさか……旭の……」
「夜月よ。よもや、我等と対立するつもりはあるまい?」
「……退くぞ。相手が悪い」

この声の持ち主を確認すると、男達は去っていく。

「桜……?」

一方、咲良は鬼灯の後ろに隠れた。

戸惑う鬼灯に対し、声の持ち主は咲良をジッと見詰める。

「……オニと共にあるのか」
「…………私の家族。手を出すなら許さない」
「態々その様な事はせぬ。近々茶会がある」
「……気が向いたら」
「そうか」

それだけ話すと、声の持ち主は立ち去った。

「……鬼丸」
「おう?」
「アレと会った事は菊に言わないで……彼は菊と相性悪いから」
「分かった」

咲良はそっと息を吐くと歩き出す。

鬼灯は声の持ち主が去った方を一度振り返り、咲良の後に続いた。





「「おお……」」

咲良と鬼灯が家に着くと、離れの横に小さくはあるが花畑が出来ている。

「あ、お帰りなさい」
「お帰り、桜」

帰宅に気付いた文也が笑顔で出迎え、輝久が咲良の隣に移動した。

「こんな感じ。どうかな?」
「とてもいいと思うよ」
「お帰り」
「おう、ただいま」

双子が話す一方で、桔梗も鬼灯を出迎える。

「お兄、これ」
「?」

と、詩織が桜の花の髪飾りを咲良に差し出した。

其れを輝久が受け取り、咲良の髪に着ける。

そんな輝久には菊の花の髪飾りが差し出された。

「サクラは精神美、優美な女性、純潔。キクは高貴、高尚だな」
「菊は高貴、かな」
「桜は純潔かな」

双子は小さく笑いながら話す。

「鬼丸のお兄と妖狐のお兄も」
「俺達もか?」
「えっと、ブローチかな」

鬼灯と桔梗には其々の名前と同じブローチが手渡された。

「鬼灯は偽り、ごまかし、欺瞞、心の平安、不思議、自然美。まぁ、一般的にゃぁ、偽りとかごまかしだけどな」
「僕からしたら心の平安と自然美だけどね」
「っ!?」
「痛ッ!」

桔梗が鬼灯の髪に口付けをしながら言った事で、鬼灯は思いっ切り頭を叩く。

「~~~桔梗は永遠の愛、変わらぬ愛、気品、誠実。お前には気品じゃねぇか」
「そうかな」
「……俺的には永遠の愛や変わらぬ愛でいて欲しいけどな」
「!!勿論だよ!なんなら、今晩分からせて……痛ッ!!!」

先程よりも強く鬼灯は桔梗の頭を叩いた。

「えっと……もしかして、鬼丸さんの方が受け……?」
「お兄ちゃんにはコレ」
「あ、うん」

二人のやり取りをスルーし、詩織は椿のストラップを文也に差し出す。

「椿は控えめな素晴らしさ、気取らない優美さ」
「「文君にピッタリ」」
「あ、ありがとうございます。詩織のは?」
「ううん。私、からのお礼だから。花妖精にお願いしたの」
「……花妖精さん」
『はい』

文也が呼ぶと、花妖精が詩織の肩に現れた。

「やるなら、百合でいいんじゃねぇか?」
「じゃあ、百合のストラップが欲しいのですが」
『勿論です』

花妖精は詩織の手に百合のストラップを落とす。

「「此れでお揃い」」
「だな」
「……うん」
「花妖精、シオちゃんと契約したら如何?」
「『契約?』」
「そう。シオちゃんからは名前を、花妖精からはシオちゃんの守護を渡せばいい」
『私には護る力は……』
「だからシオちゃんから名前を貰えばいいんだよ。そうすれば、守護の力が得られる筈だよ」

花妖精と詩織は顔を見合わせた。

「……私と契約してくれる?」
『はい』
「うん、じゃあ……菖蒲アヤメちゃん」


其れから詩織の携帯には百合のストラップが着けられ、学校に向かう時にそのストラップに花妖精基菖蒲が入り込む。

そして、彼女達は毎日一緒に居た。




オマケ

・菖蒲
  花妖精で詩織と契約したオニ。元々は弱いオニだったが、力の強い詩織と契約した事で花を象ったアクセサリーの御守りを作れる様になった。加えて、いざという時は大きな花で詩織を護る。
  外に出る際は、ストラップの中に居る。




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