チート双子の何でも屋
ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。
賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。
其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。
今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。
ジリリリ…
「あ、いらっしゃいませ」
「えっと……」
「何でも屋に御用のですよね?」
「は、はい」
「受け付けは離れなんです」
母屋のベルを鳴らした女性を出迎えた文也。
彼は女性に微笑みながら離れへと案内した。
「「何でも屋にようこそ」」
そんな二人を離れで出迎えた双子……咲良と輝久。
双子の後ろに鬼灯と桔梗が控えている。
「あなた方が、例の何でも屋さん……?」
「そうだよ」
「まぁ、座りなよ」
双子の正面に座る女性。
直ぐに文也が茶を出した。
「「文君慣れてる?」」
「え?普通だと思いますけど」
「依頼者優先しろ」
鬼灯が言うと、女性─日暮向日葵はビクリと肩を震わせる。
「鬼丸、怖いって」
「うっせ」
「……其れで」
「何をして欲しいの?」
「……あるお店を探して欲しいんです」
「店探しの依頼、という事ですか」
「はい……そのお店は、何時も雨の日にしか行けないんです」
向日葵の話によると、その店を始めて見つけたのは雨の日。
突然の雨に傘を持っていなかった向日葵は慌てて近くの店の屋根の下に入り、雨宿りをしようとしたらしい。
『良ければどうぞ』
『え、あ、ありがとうございます』
その店の扉が開き、青年が向け入れたそうだ。
店は青年が一人で経営しているブックカフェで、読書家な向日葵にとって素晴らしい店だった。
「「ブックカフェ?」」
「本が読める喫茶ってとこだ」
「「へぇ」」
暫く過ごしていると……青年から傘を渡され、その日は帰る事に。
翌日、その店を探すがどうしても見付からなかった。
それから暫くして……雨の日。
青年に渡された傘を使って帰路を歩いていると、視界の端にあの店を見付け、思わず駆け込んだ。
『ああ、いらっしゃい』
そして、あの青年とも再会。
向日葵は毎日の様に店を探しては落胆し、雨の日にだけ偶然発見しては店で本と青年と過ごし……
「もしかして、その店長さんの事……」
「…………」
文也の言葉に向日葵は顔を赤くして頷く。
「雨の日の店……」
「……その店長さんの名前は?」
「其れが……秘密、と」
「……髪は雨の様に青く、耳は隠れてて見えない?」
「え?あ、はい……」
其れを聞いた直後、双子は立ち上がった。
「あ、ちょっと待って下さい!依頼人は!?」
「「一度帰して。見付けたら連絡するから」」
「相変わらずだね」
「ったく」
「あらら……えーと、此処に連絡先書いて下さい」
「あ、はい」
「大丈夫です。あの双子ならきっと」
其れから双子と鬼灯、桔梗、文也と詩織は大通りを進む。
「菊」
「うん」
「鬼丸、傘。妖狐は気を付けてね」
「おう?“言の葉よ 雨を防ぐ傘となれ”」
「え、もしかして濡れるの?」
鬼灯が出した傘を広げた直後……
「雨ザーザー降ってるもん♪」
輝久が創造した。
ザーザーと音を立てて降る雨に桔梗が鬼灯に飛び付いた。
「……予想はしてたけどよ」
「ならいいじゃないか」
「妖狐のお兄は雨嫌い?」
文也と手を繋いでいる詩織がそう声を掛ける。
「雨つーより、濡れるのが嫌いなんだよ。此奴は」
「悪かったね」
「んな事、言ってねぇし」
「「出た」」
双子の言葉に一行は視線を追った。
其処には先程まで無かった筈の店が当たり前の様に存在している。
「「「「え」」」」
「「入ろう」」
双子は躊躇いなくその店へと入って行き、残りも慌てた様に続いた。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
中には青い髪の青年がおり、一瞬目を揺らしたものの笑顔で出迎える。
「「お日様ちゃんじゃなくてゴメンね」」
「え。お日様ちゃん?」
「依頼人の事だろうね」
「向日葵さん?」
文也の言葉に青年は驚いた様に目を瞠った。
「雨のオニ……
「!!どうして……それを……」
「桜はオニ関連なら何でも知ってるんだよ」
「雨童?」
「雨のオニの中でも、自力では雨は降らせられない。でも、雨の中でしか存在できないオニ」
「……ええ。その通り」
一先ず彼等は席に座る。
既に輝久が降らした雨は止んでいた。
その所為か、窓の外は違う街の雨の景色になっている。
「お客様の仰る通り、僕は雨童と呼ばれるオニです」
「こんな身近にオニが居るなんて……」
「オニは彼方此方に居るよ」
「夜月はオニを神聖視してたから、ちょっと意外かもね」
「夜月……あの夜月の?」
「あ、俺と妹はその夜月から出ました」
「ああ、そうなんですか……」
人数分の珈琲を出しながら話す青年、雨童。
「名前を名乗らないのは」
「オニで固有名が無いから」
「ええ、そうです」
「「お日様ちゃんの事、好き?」」
「ええ、そう……はい!?」
「何ではっきり聞いちゃうんですか」
「菊は仕方ないかな」
「桜はその辺よく分かってねぇだろうし」
ハッキリ聞いてしまう双子に雨童は顔を赤くし、何でも屋メンバーは呆れていた。
尚、珈琲では無くオレンジジュースを飲む詩織は外の景色を眺めてる。
「……可笑しいですよね。唯でさえ弱いオニなのに、人を想うなんて」
「「何故?」」
「え」
「あー、恋愛ってのは色々厄介なんだよ」
「まぁ、両片想いならいいんじゃないかい?」
「でもオニとの恋愛ってアリなんでしょうか?」
「御伽噺にあったよ?」
「それって、最後悲恋じゃ……」
わいわいと話す彼等を戸惑った様に見る雨童。
「オニと人の恋愛は有りだよ。子供の存在も記録にある」
「!」
「そうなんですか?」
「うん。唯、生きる時間が違うから、片側が置いていかれてしまうし、子供も七歳までは不安定だから気を付けないといけない」
「「「へぇ」」」
「……反対されないのですか?」
「「何故?」」
雨童の言葉に双子は首を傾げた。
「だって、普通はオニとなんて……」
「「私達は気にならない」」
「そ……そうですか。でも、僕の身勝手な想いで……お日様の様な彼女から太陽を奪うなんて……」
「「何でも屋に依頼すればいい」」
「え」
「「私達なら妥協案出せる」」
「え……」
数日後の雨の日。
向日葵を連れた何でも屋が再び店へと訪れる。
「店長さんがオニ……それでも、私……店長さんが好きです」
「……僕も好き、です」
「店長さん……!」
「其れで、今回雨童から依頼された」
「此れをどうぞ」
「「?」」
差し出されたのは指輪。
受け取った雨童と向日葵は顔を赤くした。
「あ、あの、まだ指輪は早いかな!」
「そ、そうです!まだ、まだ早いです!」
「「?」」
「あー、結婚指輪とかそんなつもりで渡してねぇから」
「というか、結婚はする感じかな」
「「あ……」」
真っ赤になった二人は俯く。
「?大きい方は雨童が身に着けて。雨の下じゃなくても存在出来る様になってるから」
「!!」
「小さい方はお日様ちゃんが持ってて。雨童の方の補佐をするから」
指輪は輝久が創造し、咲良が操作し、詩織の「対象に能力付加」する異能を使って生み出された物だった。
「……まるで、祝福だな。シオちゃんの異能は」
「「じゃあ、シオちゃんの異能名は『祝福』で」」
「え」
鬼灯の呟きで付けられた名前に、鬼灯が誰よりも驚いている。
「後は……雨童の名前だね」
「……向日葵さん。僕の名前を決めてくれませんか?」
「……貴方の名前は……」
雨の日にそっと開くブックカフェ。
「「いらっしゃいませ!」」
やがて夫婦となる二人の指には、白い花と薄桃色の花が描かれた指輪が填められていた。
「あ、文也君。詩織ちゃん」
「また来ちゃいました。あ、桜君と菊君も来るそうです」
「わぁ、嬉しい。でも、珍しいね」
「……妖狐のお兄と鬼丸のお兄は自分達が外に出ないと逢引しないって言ってた」
「「「…………え」」」
オマケ
・雨童
『雨の下でしか存在出来ない』そんな弱いオニ。
ブックカフェは趣味。
太陽の様な笑顔に惚れた。
・日暮向日葵
読書が趣味な元大学生。
珈琲を淹れてる姿や本を紹介する姿に惚れた。
後に奥さんとなり、娘を妊娠する。
end.