チート双子の何でも屋


ヒトとオニが共存する世界“日ノ本”。

賑やかな都から少し離れた森にひっそり佇む屋敷。

其処は知る人ぞ知る何でも屋がある。

今日も願いを叶えに、依頼人がやって来る。

 ジリリリ…

「あ、今チャイムが鳴ったね」
「……みたいだね。妖狐か鬼丸が案内するんじゃないかな」
「あ、噂をしたら来たみたいだよ」

屋敷の敷地内にある離れ。

其処が何でも屋の仕事場。

「ご主人達、お客さんだよ」
「ったく、居るんならちったぁ自分で迎えに行けよな」

白銀の髪に金色の瞳、瞼に赤い化粧を施している青年─妖崎桔梗と長い赤毛を編み、赤色の瞳に褐色の肌の青年─道言鬼灯が一人の青年と共にその離れにやって来た。

「「いらっしゃい。何でも屋へようこそ」」

その青年を黒髪に青色の瞳の双子─咲良と輝久が出迎える。

蒼い羽織を着た双子の兄の咲良。

翠の上着を着た双子の弟の輝久。

この双子が何でも屋の主人だ。

「えっと」
「「まぁ、座りなよ」」

青年は指されたテーブルの向かいの席に座った。

「……それで」
「依頼は何かな?」

静かに問い掛ける咲良と少し楽しそうに問い掛ける輝久。

「……本当に何でも叶えれるのですか?」
「何でも無理かな」
「あくまで私達が出来る範囲」
「そうですよね……妹を助けて欲しいんです」
「「妹?」」
「このままだと、妹がオニに殺されちゃうんです!」

必死な表情で、茶髪に灰色の瞳の青年─夜月文也がそう話し始める。

其れに双子が首を傾げ、控えている桔梗と鬼灯が顔を見合わせた。

「一族の風習らしくて……10年に1度、女の子を生け贄に捧げないといけないらしいんです」
「その生け贄に」
「君の妹が選ばれたと」
「っ……はい。俺はそんなのに従って、妹を差し出したくない……っ、でも妹は連れてかれたし、もう時間がないんです」

その言葉を聞いた直後、双子は立ち上がる。

「気を付けてね」
「そっちもね」

そのまま双子は出て行こうとし……

「「ちょっと待った」」

桔梗と鬼灯に止められた。

「もう、貴方達は……」
「自分だけじゃなくて、ちゃんと説明しろっての」
「私がオニを」
「私が妹を」
「「分かった」」
「え?え?」
「あー、つまりだな。片方がオニを倒しに、片方が妹を助けに行くっつー事だよ」
「……ぇええ!?」









「此処が例のオニの棲み家の様だね」
「淀んでんな」
「…………」

咲良は鬼灯と文也を連れ、廃れた神社へとやって来る。

「あの、本当にオニを倒せるんですか?だって、相手は……」
「神、と言われてるのかな」
「!」
「此処に居るのは神じゃないよ。神を名乗るオニ。神は生け贄じゃなくて器を求めるものだしね」
「でも、其れでも……」
「まぁ、桜や菊なら大丈夫だろーさ」
「?」

そう話している間にも咲良は神社へと近付いていった。

『誰じゃあ?』
「……………」
『なんじゃ、ヒトか。随分美味そうなヒトじゃのう』

すると、神社から大きな角を額から生やし、大きな牙を持った赤黒い生き物が出て来る。

男の形をしているが、明らかにヒトではない存在。

「オニ……!?」
「ふむ。奪鬼か」
「だっき?」
「その名の通り、奪う事を生業とするオニだよ」
「奪う傲慢と奪われる恐怖から生まれ……命を奪い、喰らう事で強くなるオニ……そんなモノが放置されてるなんてな」
「その一族とやらが隠蔽していたんじゃないかな。どうせ、繁栄とか他を食べない代わりに、という理由で」

焦る事無く、静かに言う咲良。

心当たりがある文也は頷きつつも、目の前のオニに冷や汗を流しながら見詰めた。

『ゴチャゴチャと何じゃあ。まぁいい。全員喰らってやろ……「煩いよ。少し黙って」っ!?』

咲良が立てた人差し指を口に当てると、奪鬼が黙る。

「え」
「鬼丸」
「此奴は消していいヤツだ。やっちまえ」
「分かった」

黙った奪鬼が怒りの表情で襲い掛かろうとするが、咲良が口に当てていた人差し指を奪鬼に向けた。

すると、奪鬼がピクリとも動かなくなる。

「此れは……異能?」
「ああ」

異能はヒトが持つ特異能力。

其れは誰しもが持ち、一人一人が異なる能力を持つ。

「咲良さんの異能って……」
「“森羅万象”。俺や妖狐はそう呼んでる」
「森羅万象!?なんかカッコいい……」
「所謂超能力っつーのだろうがな。桜のは超能力で済ませられる様なのじゃねぇ」

そのまま咲良が人差し指を右に払った。

すると、奪鬼の体が右側の樹に叩き付けられる。

「鬼丸」
「“言の葉よ。刃となりて彼の者の剣となせ”」
「うぇえ!?」

鬼灯が人差し指と中指を立てた状態……手印を口元に当てながら呟くと、指の間から筆で書かれた様な文字が出て、咲良の手に収まると同時に剣の形になった。

「鬼灯さんの異能?でも、今のは……」

手印を結んだ事に戸惑いを見せる文也。

「たたっ斬れ、桜」
「ああ、分かった」

咲良はその剣を握り、飛ばされた奪鬼を見る。

『貴様!!よくも……』

奪鬼の言葉が終わる前に……咲良がその剣で奪鬼を真っ二つにしてしまった。

「は……え?」

敵わないと思い、何でも屋にもダメ元で出向いた文也は戸惑うしかない。

『ぎ……なっ』
「眠れ」
「えぇ……こんなあっさり……」
「まぁ、桜は現存してる事に関してはチートだからな。自分の体だろうと」
「へ?」
「俺達が森羅万象と読んでる理由はな、所謂超能力で……現存してる全て、万物を操る事が出来るからだ」
「万物を?」
「自分の体だろうが、其処に存在してりゃあな」

文也は真っ二つにした後も静かに佇む咲良を見詰める。

「桜、其奴は?」
「放置してても死ぬだろう。確実に倒すなら、此処で燃やせばいい」
「“言の葉よ。炎となりてその形を表せ”」

今度は炎となり、咲良は其れを簡単に操り……奪鬼の体を燃やした。

「此で奪鬼は消える」
「そうか。なら、帰るぞ」
「分かった」
「ち……チート」
「それな」
「…………?」








一方、その頃の輝久と桔梗。

「な、何なんだお前等は……」
「ん?何でも屋だよ?」

文也の叔父に当たる男に首を傾げて問い返す菊。

其れに同行していた桔梗は苦笑する。

「…………」
「大丈夫かい?」

その桔梗の腕に抱かれている……文也の妹─詩織は戸惑いながらも頷いた。

「どんな契約を結んだのかは知らないよ。でも、依頼人の願いを叶えるのが私達何でも屋だからね」

輝久が右手を出すと、その手から剣が生まれる。

「剣……」
「菊の異能はね……僕達は“天地創造”って呼んでる」
「天地……創造……?」
「菊は無から有を生み出せる。其れだけなら創造だけど……彼には制限がない」
「……その娘を返して貰おう」

叔父を峰打ちで気絶させると、奥から男が現れた。

「その娘は貴重な生け贄だ」
「君達の思惑は無くなるよ。何せ、最強の……神になる筈だった人が倒しに行ってるからね」
「何?」
「邪魔しないでくれるかな。私達は最強なんだよ……桜を見捨てた奴等に分からせてやるんだ」
「ゴチャゴチャと……娘は渡さぬ!!」

男から炎が放たれる。

「ふふ。私は何でも創れるよ」
「!?」
「例え、どんなものでも凍らせる氷でもね」

輝久が言った直後、炎が凍り付いた。

「なっ」

その氷は、男へと迫る。

「私が望めば、私が想像すれば……何でも創れる。そして、君は永劫の檻の中に綴じ込まれてしまえ」
「!!」

氷が檻の形になり、男を閉じ込めた。

「あ、鍵創ってないから、ずっと其処だね」

柔らかく笑いながら告げる輝久。

その笑みを見て、男と詩織がゾッとする。

「菊、終わったなら戻ろう」
「そうだね」

詩織はギュッと桔梗にしがみ付いた。

「ごめん、怖いね。本人に悪気は無いんだ」

そんな詩織の頭を軽く撫で、先に歩き出した輝久に続いて歩く。





「詩織!」
「お兄ちゃん!」

屋敷で合流すると、兄妹は抱き締め合った。

「あ?思ってたより小せぇな」
「13歳くらい離れてるんだって。確か、7歳くらいだったかな」
「ふぅん……って、文也って20か?」
「え?あ、はい。アレ、そういえば皆さんは?」
「あー……」
「ご主人達は16歳だよ」
「……え」

桔梗の言葉に彼は硬直した。

「み、未成年……」

日ノ本では18歳から成人と見なされる。

つまり、双子は成人すらしておらず、学生でも可笑しくない年齢にも関わらずチート。

「ねぇ、依頼人君」
「え?はい?」
「君、此れからどうするの?」
「此れから……」

輝久の言葉を受け、文也は詩織を見詰めた。

「君、一族に反抗して妹ちゃん助けたんだよね?」
「其れに、私と菊が一族の当主とオニを倒してしまったからね。行く当てあるの?」
「あ……えっと……」
「というか、ご主人達に対価を渡さないと」
「確かになぁ。けど、対価払えんのか?一族と契約してるオニと一族倒すなんて、結構な対価になんだろ」
「あー……その……」

畳み掛けられ、文也はしどろもどろになる。

確かに一族の所には戻れない。

しかも、断られる前提のダメ元だった上に何とか一族の目を掻い潜っての脱走した身。

つまり、手持ちも大して持っていない。

「……家族になる?」
「「え?」」
「「出た」」

首を傾げながら言った咲良の言葉に、兄妹が同じ様に首を傾げ、桔梗と椿が苦笑した。

「「菊、訳」」
「君達、仲良しだよね。つまりね、住み込みでバイトしてみない?って話なんだよ」
「ええ、そんな感じでした?」
「桜にとっては、同じ家で住むならヒトだろうとオニだろうと家族って事だからね」
「オニ……だろうと?」
「ああ。俺と妖狐はオニだからな」
「……はぁ!?」

詩織の言葉に何でもない様に言う鬼灯。

其れに文也は大きな声を出す。

「ちょっと待ってねー」
「だな」

直後、桔梗を青い炎が覆い、鬼灯を紙の様な物が覆った。

其々覆っていた物が消えると……

「耳に角!?」
「改めて。オニ、妖狐だよ」
「同じく、オニの言葉ことは鬼だ」

桔梗の頭に狐耳が、鬼灯の額に小さめだが角が生えている。

「「で、どうする?」」
「……………お、お願いします」

文也はがっくりしながら言った。


其れから文也は何でも屋の住み込みアルバイトとなり、何でも屋に舞い込む事件に巻き込まれていく。

そして、双子のチートを目撃していく事になる。




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