ツイステッドワンダーランド
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アキSide
「「「「「「「ああああああ~~~~~~~~~~~~~っ!!!」」」」」」
「チッ」
俺の聖霊術……風で調整し、何とか無事に全員を砂漠の上に降ろした。
「なんか最近こんなのばっかりなんだゾ~~」
「随分遠くまで飛ばされたみたい」
「うへぇ、マジで寒いんだけど……!流氷の下みてぇ」
……はぁ。
「アキ様」
「俺はまだ大丈夫だ」
ハルとは違い、前世がある所為か俺は穢れといったものに対する耐性が強い。
だからまだマシだが……先の聖霊術で大分体力を削られたな。
「カリムさん。カリムさん、ご無事ですか?しっかりなさってください」
「う……うぅ……ここは……」
「よかった、気がつかれましたか。どうやらスカラビア寮のある時空の果てのようです」
飛ばされた時に気絶してたらしいアジームが目を開けて周りを見渡す。
「グリムさんは毛むくじゃらですし、僕たち人魚はある程度寒さに強い身体ですが……アキ兄さんや監督生とカリムさんは長時間ここにいるのは命の危険が伴いそうな寒さだ」
「俺は問題ない。俺はあまりそういうのは感じないし、体調に変化はない」
そう言いながら目を閉じて体力の回復に努めた。
「箒も絨毯もありませんし、飛んでいくことはできません。どう致しましょうか」
「アキ兄さん」
「悪いが、空間特化はハルの方だ。俺一人なら兎も角、この人数で飛ぶ程の体力が無い」
「だるいけど、歩いて帰るしかなくね?」
「吹き飛ばされて着地するまでかなり滞在時間が長かった。徒歩で帰るには何十時間かかるか……それにしてもフロイドのその声、落ち着きませんね。契約書を破って破棄しますから、元に戻しましょう」
……確かに。
普段無邪気な声な分、今の渋い声は慣れない。
「えー、結構気に入ってたのにぃ……」
キラン
「ンンッ、あー、あー。うん。声、元に戻ったみたい」
アズールが契約書を破ると、フロイドの声が元に戻る。
「アズールと契約してユニーク魔法を“貸す”だなんてよくできますね。我が兄弟ながら感心します。なんだかんだで理由をつけて魔法を返してくれない気がするので僕なら絶対にアズールと契約なんてしたくありませんよ」
「確かにアズールならやりそうだけどさ。オレ別に魔法が返ってこなくてもいーし。声に飽きたらまた別の契約すりゃいいじゃん」
「お前たち、聞こえていますよ」
フロイドとジェイドは同じ環境で育った双子の筈だが……俺達みたいに性格が全然違うんだな。
「う、うぅ……っ。うう、ジャミル……信じてたのに……」
声に片目を開けて見ると、アジームが涙を流した。
「あれ、ラッコちゃん泣いてんの?涙凍るよ」
「オレのせいだ……!知らないうちに、ジャミルのことを追い詰めちまってた。ジャミルは、本当はあんなことするヤツじゃない!いつもオレを助けてくれて、頼りになるいいヤツで……ッ」
「そういうところが彼を追い詰めたのでは?」
「おっ」
「え……?」
優羽のツッコミ……相変わらず鋭いな。
優羽の言葉にアジームは呆気に取られる。
「で、でた。コイツのキツいツッコミ」
「あー、でもオレも小エビちゃんと同意見。ラッコちゃん、イイコすぎるっていうか……なんつーか、ウザい」
「え、ウザ……?」
優羽に同意するフロイド。
「そうですねぇ。もし僕があんな裏切り方をされたら……持ちうる語彙の限りにののしって精神的に追い詰め、縛って海に沈めますよ。それを自分のせいだなんて、いいヤツを通り越してちょっと気持ち悪いです」
「気持悪……いや、でも。ジャミルは絶対にオレを裏切ったりはしないはず……」
「いや、めっちゃ裏切ってるじゃん。しかもラッコちゃんに罪を擦りつけて追い出そうとしてたとか、マジでサイテーじゃん」
「卑劣さのレベルで言えば、アズールと比べても見劣りしません。自信を持って『裏切り者!』と罵っていいと思いますよ」
「どんな自信……」
全くだ。
そんな自信必要なのか?
「カリムさんの他人を信じ切った良い子ちゃん発言は僕やジャミルさんのようにひねくれた……いえ、計算で生きている人種からすれば、チクチクと嫌味を言われてる気にすらなります。小さい頃からずっとそうやってジャミルさんを追い詰めてきたんですね、あなた」
だからジャミルはハルを側に置いて、彼に甘えていた。
其れ程に追い詰められていたんだろうな。
「ですが、あなたはなにも悪くありません。あなたは生まれながらに人の上に立つ身分であり……両親や身の回りの人間から一身に愛情を受け、素直にまっすぐに育った。それゆえに、無自覚に傲慢である……というだけですから」
「カリムさんの場合、生来天真爛漫な性分でらっしゃる気もしますが」
「……そうか。ジャミルは、悪いヤツ……なのか」
「い、今頃!?」「今頃か」
本当に甘ちゃんだな。
「それなら、早く帰らなくちゃ。アイツを殴って、『裏切り者!』って言ってやらないと」
「1発じゃ足りねぇんだゾ!さらにオアシスまで10往復行進させてやるんだゾ!」
「ええ。それに、早くジャミルさんを正気に戻さなければ、彼自身の命も危ない。彼の魔力が尽きる前に戻らなければ」
「だからさー、どうやって戻るの?早歩き?」
問題は其処だ。
正直俺はアジームを置いて一刻も早くハルの所に行きたい。
「そんなのんびりしてたらオレ様の鼻が凍っちまうんだゾ!!」
「川でもあれば泳いで戻れたのですが……周辺の川はどこも干上がっているようですね」
「川?水が欲しいのか?」
「ええ。フロイドとジェイドが本来の姿に戻れば箒以上に速度が出るはずです。しかし、渇いた川を元に戻すなんて僕らには不可能……」
「オレ、できるぞ」
「「「ええええええええええ!?」」」
アジームの言葉にオクタヴィネルの三人が驚いた様に叫ぶ。
「そういえば、ユニーク魔法!」
「オレのユニーク魔法『枯れない恵み』は少しの魔力でいくらでも水が出せるんだ。川が作れれば、寮に戻れるんだな?」
「な、なんですかそのユニーク魔法!?すごすぎませんか!?」
「あっはっは!普段は水道があるから全然役に立たない魔法なんだけどな」
「あっはっはじゃないですよ!まだ治水環境が整っていない国などでは英雄モノの魔法じゃありませんか!そんなの、そんなの……商売になりすぎる!!!!」
おいおい、此処で商売の話か。
「コホンッ。下世話なアズールのことは置いといて……カリムさん。では、お願いできますか」
「川を作ればいいんだな。わかった!任せておけ」
ザァアア
アジームによって雨が降り……川が満たされていった。
「すげえ……みるみる川が水で満たされていくんだゾ!」
其れを見てリーチ兄弟が本来の姿になる。
「ではフロイド。川が凍る前に行きましょう。アズール、グリムくん、アキ兄さん。僕の背中に掴まって」
「小エビちゃんとラッコちゃんはオレの背中ね~」
「いや、俺は自力で追い掛けられる。ソルとルアも居るしな」
ジェイドに返しつつ、俺はレアボードを取り出した。
直ぐにソルとルアが俺の肩にしがみつく。
「あれ?でもアズールは人魚なんだろ?自分で速く泳げるんじゃねーのか?」
「アズールは人魚になても泳ぐのが速くありませんから」
「それは尾びれの形状差のせいです。さあ、スカラビア寮へ向けて出発しますよ!」
川を猛スピードで泳ぐ彼等をレアボードで追い掛けた。
「……優羽」
「何?」
「恐らく戦闘になる。が、俺はハルを助けるのを優先する」
「うん、それは勿論……ハル、大丈夫かな」
「……通常な状態なら魔法を跳ね返しただろう。だが、彼奴自身スカラビアの件で披露していた。ルアも此処に居る。もしかすると……洗脳下に入っているかもしれない」
「っ!早く助けないと」
「洗脳下に入っても、其れを打開する手段がある。其れを施行している間は、戦闘に参加出来ないと思う。ルアかソルを側に置いておくが、気をつけろ」
「うん、分かった」
「……さて、着くまでに作戦を決めるとしましょう」
「食料も飲み物も、全部持ってこい!今日は宴だ。阿呆な王が消え、真の実力者が王になった記念日だからな!ああ、とても清々しい気分だ……いくらでも魔力が沸き上がってくる」
「仰せの通りに、ご主人様……」
「ジャミル様こそスカラビアの王にふさわしい……」
「「「ジャミル様、万歳!」」」
「…………」
辿り着くと、ジャミルが寮生達に命令を出していた。
ハルは……ジャミルの側に立っている。
その瞳は虚ろで……洗脳下に入ってるのが分かった。
「ははは、そうだろう。もっと言え。俺を褒め称えるがいい」
「あなた様は、とてもハンサムで……」
「ほう?」
「色黒で、背が高くて……」
「それで?」
「目が吊り上がっていて、とても賢そうです」
「それから?」
「肩がイカッてて……」
「見るからに強そうな感じだな!」
「ステキです」
「ふん、なかなかの褒め言葉じゃないか……って、お前たちは!?時空の果てまで吹き飛ばしたはずだ。この短時間でどうやってここまで戻ってきた?」
正面からジャミルを褒め称えて現れた優羽達に驚いている隙に、俺はハルの側に駆け寄る。
直ぐにソルが防御壁を張り、遮断をしてくれた。
「乾いた川に水を満たして泳いで帰ってきた!」
「思ったより遠くて、かなり疲れた~」
「なんだと!?……チッ、そうか。カリムのユニーク魔法で……!フン、お前の魔法にも使い道があって良かったじゃないか。植木の水やりか、お遊戯くらいしか役に立たないくだらない魔法だと思っていたのに」
向こうに意識が向いてる間に、俺はハルの顔を覗き込み……瞳を見詰めたまま息を吸う。
「ふっ。カリムさんの力を侮っていたようですね」
「ジャミル……お前がオレをどう思ってたか、よくわかった。間違いなく、お前は卑怯な裏切り者だ!」
「馬鹿め。疑いもせず信じるほうが悪いんだろ?」
「正々堂々、オレと勝負しろ。そしてオレから奪った寮長の座……返してもらうぜ」
「奪ったふぁと?ハッ……どの口が!!俺からなにもかも奪ったのは、お前のほうだ!思い知るがいい、この俺の本当の力を!!アッハッハッハァ!」
ハル、戻って来い。
「俺の声を聞け。戻って来い……──」
そして、ハルの真名を唱えた。
ハルSide
「……っ、悪い手間掛けさせた」
「気にするな」
アキに感謝し、俺は愛刀を出して構える。
「悪いな、ジャミル……」
オーバーリミッツ開放。
「聖なる鎖に抗ってみせろ……シャイニングバインド!!」
驚いた様に目を見開くジャミルの背後……化身に秘奥義をぶつけた。
『ハル!大丈夫?』
『ああ、俺は大丈夫だ。それより……』
何時もの白黒な空間。
其処で、抑圧されるジャミルの過去が流れる。
大人は彼に「お前なら分かるだろう?」と彼の心を無視して押し付けていた。
そして……ジャミルは諦めた様に俯いている。
『ジャミル』
『俺は……自由になれない。俺は一番に成れないんだ……』
『そんな……』
『ジャミル、お前が望むなら俺が其処から連れ出してやる』
『『!』』
『どんな手を使ってでも、お前を連れ出してやる。俺がお前を迎え入れる』
『本当……?』
『ああ。お前が望むなら……望んでくれるなら……』