ツイステッドワンダーランド
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その日の晩も、俺達はジャミルの部屋に案内された。
「…………」
「ハル、大丈夫か?」
「「ハル様……」」
「大丈夫だ……」
ジャミルがアジームを寝かし付けに行ってる間、アキ達が心配そうに俺の顔を覗いて来る。
正直、俺は特訓に参加してねぇのにも関わらず、スカラビア寮生並みに疲労していた。
なんつーか……スカラビア全体に穢れに近い……負の様なモノが存在している。
そういったものには敏感な方という事もあり、自浄出来るとはいえ、体が重く感じていた。
「ハル、無理をするな」
「……ん、悪いな。だが、あんたも少なからず影響受けるんだ。無理するな」
「ああ、分かっているさ」
翌朝、昨日同様にオアシスまで行進する。
「ぜぇ、はぁ、喉がカラカラなんだゾ。カリム、水を出してくれぇ~」
「このオレに水を出せ、だと?お前、誰に向かって口を利いている!」
「ヒェッ!?」
グリムがアジームに声を掛けると、昨日とは違って彼は怒鳴り返した。
「オレはお前らの水道じゃない。水が欲しいものはオアシスから汲んでくるがいい」
「……この干上がったオアシスから水を汲めだって?」
「さすがに横暴が過ぎるだろ…………」
「寮長は本当にどうしてしまったんだ?」
干上がったオアシスを前に寮生が戸惑う。
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、ラクダに水を積んできてある。荷物を降ろして水を分け合え」
其れを予想していたかの様に、ジャミルが直ぐにフォローをした。
「ありがとうございます。ああ……ジャミル先輩が寮長だったら良かったのに」
「!!滅多なことをいうんじゃない。カリムに聞かれたらどうする」
寮生の呟きにジャミルは表情を険しくして咎める。
「だって、そうじゃないですか」
「カリム寮長がこうなる前から、寮長の仕事らしいことは、ほとんどジャミル先輩が……」
「シー……いいんだ。それがアジーム家に仕える俺の一族の……いや、俺の仕事だからな。水を飲んで少し休め。陽が高くなって気温が上がってきた。きっと帰り道のほうがキツくなるぞ」
「ジャミル先輩…………」
……主人のアジームと従者のバイパー、か。
「寮生集合!休憩時間は終わりだ!さあ、さっさと隊列を組め!」
またアジームの鋭い声が飛んで来た。
「ジャミル先輩、俺、俺……やっぱりもうこんな寮にはいたくない」
「僕も、もう寮長には従えません!」
「ジャミル先輩はなぜあんなカリム寮長に従うんですか!?」
「…………っ……」
「ハル……!」
ああ、そうか……負は寮生達から出てたのか。
「それは……アイツが『カリム・アルアジーム』だからだ」
「小さい頃から主従関係だから?」
「……それも理由のひとつではある…………今日の夜、少し話をしよう。カリムには気付かれないように俺が手を打っておく。君たちも、時間をくれないか」
という事で、勉強やら訓練やらを終えた後……夜の談話室にアジーム以外が集まる。
「……みんな、集まってるか?」
「はい……カリム寮長は?」
「寝たよ。安眠効果のハーブティーを煎じたからいつもより深く眠っているはずだ」
念の為、声を抑えてジャミルと寮生が話した。
「──で?なんなんだゾ?オレ様たちに話って。もうオレ様、ヘトヘト……一刻も早く寝かせて欲しいんだゾ」
「みんな同じくらいキツいんだ。静かにしてろ」
「まぁまぁ」
不満そうなグリムを優羽が抱き抱える。
俺達は彼等から少し離れた所で、互いに寄り掛かって座り、各々ルアとソルを膝に乗せて話を聞いていた。
「お前たちがカリムのやり方に不満があるのはわかってる。冬休みに寮生たちを寮に縛り付け、朝から晩まで過酷な特訓。不満を待たないヤツはいないだろう。俺もカリムのやり方が正しいとは思ってない」
「じゃあ何故止めないんです!?」
「止めたさ、何度も。聞く耳を持ってもらえなかったけどな」
「オマエら、そんなにブーブー言うなら、ジャミルじゃなくてカリムに直接文句言ってやればいいんだゾ」
グリムの言葉に、ジャミルに噛み付いていた寮生達が退く。
「それは…………その…………」
「なんだ、オマエら。ジャミルには言えてもカリムには言えねぇのか?いくじがねぇヤツらなんだゾ」
「ち、違う。俺たちだって言おうとしたさ、何度も!」
「でも、様子がおかしくないときの寮長は本当に大らかで、優しい人で…………」
「こんなことになる前は、俺たち全員寮長のことを尊敬してたんだ。どの寮よりも素晴らしい寮長だと思ってた」
次々とアジームに何をして貰った、いい人だと意見が出た。
「そう、カリムは本当にいい寮長だ。誰とでも分け隔てなく接し、偉ぶることもない。ああ、なんでこんなことになってしまったんだ……」
「慕っているからこそ踏ん切りがつかない、と……」
……まぁ、今の状況じゃあ、アジームよりジャミルに言いやすいってのもあんだろ。
「あのよー。カリムのヤツ、医者にでも見てもらったほうがいいんじゃねーか?言ってることはコロコロ変わるし、性格がまるで別人みてーになっちまうなんて、ちょっと変だろ?なんか悪いモンでも食っちまったんじゃねーのか?」
「あるいは心の病気とか……」
「確かに、その可能性も否めないな。しかし、医者か。熱砂の国に戻ればアジーム家お抱えの医者がいるが……今の様子じゃ、実家に連れ戻すのも一苦労だろうな」
他人に強制してる奴が、そう易々とは帰らねぇわな。
「そんなぁ……」
「このままじゃ、俺たちが先に参っちまいますよ……」
「今のスカラビアが抱えている問題は、つい先日までハーツラビュルが抱えていたものと似ている。ハーツラビュルも、寮長の圧政に寮生たちが苦しめられていたとか……あっちは寮長であるリドルのユニーク魔法が怖くて誰も逆らえなかったんだろうが」
……いや、ハーツラビュルとの今回のは明らかに違う。
「そこで、ハーツラビュルの問題解決に活躍した君たちにアドバイスをもらいたい。俺たちはどうしたらいいと思う?」
ジャミルが優羽達へと問い掛けた。
「ジャミルがカリムに決闘を挑んで寮長になっちまうのはどうだ?リドルのときは、学園長の提案でエースとデュースがリドルと決闘したんだゾ!ま、アイツらポンコツで、全然歯が立たなかったんだけどな。カリムはリドルと違ってユニーク魔法も大したことねーし、楽勝な気がするんだゾ!」
「──それだけは、絶対に出来ない」
グリムの言葉に……ジャミルは直ぐに強く否定する。
「ガクッ!アドバイス求めといて即却下するんじゃねーんだゾ!なんでダメなんだ?」
「俺の一族・バイパー家は先祖代々アジーム家に仕えている。家臣が主人に刃を向けるなんて許されるわけがないだろう?それに、俺がそんなことしたとカリムの父親に知れれば、バイパー家の処分は免れない。悪いが、俺の身勝手で家族全員を路頭に迷わせるわかにはいかないんだ」
「………………」
……あ、アキが怒ってる。
押し付けんの嫌いだしな。
「それは子どもに背負わせていい責任じゃないような……」
「仕方ないさ。それがバイパー家に生まれた者の宿命だ」
諦めた様に言うジャミル。
……子供に言い聞かせて、諦めさせていい事じゃねぇだろ。
「ジャミルがカリムに決闘を挑めないのはわかったけどよぉ。寮長があんな調子じゃ、寮生みんなが振り回されて参っちまうんだゾ。リドルも大概だったけど、支離滅裂な分カリムのほうがひでぇ気がするんだゾ」
「そうですよ。俺たち、もうカリム寮長にいはついて行けません!」
「今のカリム寮長は、寮長の条件を満たしてない!スカラビアの精神に反しています!」
「「「寮長の条件?」」」
寮長に成るには条件があんのか?
「ナイトレイブンの7つの寮における寮長の条件は『寮の精神に一番相応しい者であること』──。逆に、寮で一番出ないなら寮長の資格はない。決闘はわかりやすく“一番”を決める方法といえるな。7寮それぞれ特色が違うから“ふさわしい”条件も寮によるんだ。たとえば、ポムフィオーレは、誰よりも強烈な毒薬を作れる者が寮長になる伝統らしい」
あー、そーいやグレートセブンの一人がそーいうのに長けてたから、其処から来てんのか。
「ゲッ、なんか怖い寮なんだゾ!じゃあ、カリムはなんでスカラビアの寮長に選ばれたんだ?」
「前寮長の指名さ。カリムのそれまでの働きぷりと人徳が“寮で一番”だと評価されたということだな……アイツが指名されたときは、俺も嬉しかったよ」
「それもジャミル先輩の助力あってのものじゃないですか!寮生はみんな知ってますよ」
「なんで前寮長はジャミル先輩を選ばなかったんだ!?」
「前寮長を責めるな。アジーム家の親戚筋の人間が
しまったと言わんばかりに焦った表情をするジャミル。
「はぁ~!?また“アジーム家”なんだゾ!?」
「そんな事情があったなんて、知らなかった……つまり、コネじゃないですか!」
「汚ねぇ……汚すぎるぜ、アジーム家!」
「頼む。どうか今の話は聞かなかったことにしてくれ」
「ナイトレイブンカレッジは、実力主義だからこそ名目と呼ばれているはず。親の威光で評価されていいわけがない!」
「そうだぜ、副寮長!俺たち、そんなの納得いかねぇよ!」
「学園の中では身分や財力なんて関係ない!誰もが平等であるべきでしょ!」
ジャミルの言葉も虚しく、寮生達は熱り立った。
「それは──しかし……」
「スカラビアは砂漠の魔術師の熟慮の精神をモットーにした寮。俺は昔から、アジームよりもバイパーのような思慮深いヤツが寮長になるべきだと思っていたんだ」
どうやらジャミルと同じ二年らしい奴がそう言う。
「待ってくれ。俺だって特別優秀なわけじゃない。成績だって、いつも10段階でオール5の平凡さだ。寮長にはふさわしくないよ」
「寮の精神にふさわしいかどうかは、魔法力じゃない」
「お前たちはどう思う?俺たちの中で、誰が寮長にふさわしい?」
「そんなの、ジャミル先輩のほうが寮長にふさわしいに決まってる!」
あー……この流れは面倒なヤツだ。
「そうだ。カリム先輩より、ジャミル先輩のほうがスカラビアの寮長にふさわしい!」
「身分のある家の生まれだからって無能が寮長でいいわけがない!」
「そうだそうだ!スカラビアに無能な寮長はいらない!」
「「「スカラビアに無能は寮長はいらない!!!」」」
コツコツ
「──お前たち、こんな時間に集まってなにをしている?」
「「「!!!」」」
寮生達が宣言した直後……険しい表情のアジームが現れた。
「げげっ、見つかっちまった!」
「カ、カリム……!」
「どうやらお前らには昼間の訓練では物足りなかったようだな。体力が有り余っているらしい。ジャミル!今すぐ寮生を庭へ出せ」
「庭へ……?」
こんな時間に庭、ねぇ。
面倒な予感がする。
「限界まで魔法の特訓をする」
「そんなむちゃくちゃな……!」
「オレ様、すでに疲れが限界なんだゾ~!」
「聞こえなかったのか。早くしろ!」
「…………わかったよ。お前たち、外へ出ろ」
この後は倒れる奴が出る程の特訓が行われた。
その日の深夜。
ピーーーピーーー バタバタバタ……
「「「「?」」」」
「…………」
部屋の外が騒がしい。
俺達は首を傾げるが、正直確認に行くには億劫な程疲弊していた。
「……気にしなくていい。兄さん達、疲れてるんだろう?というか……ハル兄さん、顔色が悪いか?」
「いや……大丈夫だ」
「ならいいんだが……」
「ジャミル、ハルと休んでやってくれ」
「アキ……」
「?ああ、わかった」