ツイステッドワンダーランド
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「ヴィル……ああ、美しきひと。どうか目覚めておくれ……」
「………う………」
俺が目を開けると同時に、ヴィルも目覚めたらしい。
「アタシ、どうして………?」
「ヴィル!よかった。瞳にいつもの輝きが戻ったね」
「ほんとによかった……グスッ、ううっ、ヴィル~。心配させやがって……」
「なんでお前が泣いてるんだ、カリム」
「よかった……打ちどころが悪かったらどうしようかと」
「………………とんでもない醜態を、晒してしまったようね」
俯くヴィルの髪を乱れない程度に撫でる。
「癇癪を起して他人に当たり散らすなんて、最低だわ。この世で一番、美しくない行為……」
「そうですね。癇癪を起していいのは3歳児までじゃなかったですっけ?」
……おいおい、凄ぇ悪い顔になってんぞ、フェルミエ。
「ここでそれ言っちゃう?」
「全くだな」
アキと優羽が顔を見合って頷き合っていた。
「そうね……エペルの言う通り。こんなアタシは、もうアナタたちのリーダーでいる資格なんてないわ……」
「自惚れてはいけないよ、毒の君。残念だが……私たちは誰一人、地に伏していない」
「え……?」
確かに、俺達は皆自分の足で立ってんな。
「ルークの言うとおりだぜ、ヴィル。お前はまだ、誰も傷つけてなんかない。取返しのつかないことなんか、なにもしてないんだ」
「ネージュ・リュバンシェも、今頃7人のドワーフとのんきに踊っているんじゃありませんか?」
「つーか、オレらのことあんだけビシバシしごいといてこんくらいの怪我でリタイアするとかナシでしょ!」
「やや苦しいが……レッスンに熱が入りすぎてメンバーで喧嘩をしただけ、ということで」
「つーか、そもそも」
「誰かに見られる前に俺達が治癒する」
そうすりゃ、誰にも分らねぇさ。
「アンタたち……この騒ぎをなかったことにしようっていうの?」
「そうは言ってません。ただ、先生がたに事情を説明するのを、大会の後にするだけです」
「……ふっ。ジャミル、アンタやっぱり悪い男……うっ!」
「ヴィル!」
ヴィルの体がふら付き、俺が咄嗟に支える。
「少しよろけただけでしょう。情けない声出さないで」
「あれだけのダメージを負ったんだ。どうか無理はしないで。双子、治療を」
「「ああ」」
俺達はヴィルや皆に治癒術を使った。
「そういえば、ヴィル先輩を最後にぶっ飛ばしたデュースの魔法……あれ、なんだったわけ?」
「たしかに、あの強烈な一撃、スゴかったんだゾ!デュース。オメー、いつのまにあんなスゲー魔法覚えたんだ?」
皆の視線がデュースに集まる。
「いや、あれほど威力が出たのは、僕じゃなくてシェーンハイト先輩のおかげだ」
「どういうことだ?」
「あの魔法は、相手からくらったダメージを僕の身体に溜めて、そのまま相手にブッ込むものなんです。つまりシェーンハイト先輩が僕にくらわせた魔法が強かったから、あれだけの威力が出た」
……つまり、カウンター式魔法か?
「なんじゃそりゃ!喧嘩のお礼参りかよ!?」
「物騒な言い方するな!エペルと、海に行って絡まれた時に初めて使えたんだ。その時は、攻撃を耐えてるうちについうっかり出ちまったって感じだったんだが……」
「はぁ……うっかりで一般人を魔法で攻撃するな。ことによっては停学モノだぞ」
「うっ、す、すんません」
どうでもいいけど、元不良ってのがチラついてんな。
「でも、あれから何度やってみようとしても、全然使えなくて。さっきシェーンハイト先輩に本気でボコボコにされて、やっと感覚が掴めたっつーか」
「あっはっは!ほらな、やっぱお前は難しく考えちゃダメなんだよ。つまり、それがお前の
「個性?あ、そうか……もしかして、これが僕の……ユニーク魔法!?」
……あ、気付いてなかったのか。
「しっかり呪文叫んでたけど……」
「ええっ!?僕、呪文唱えてたか!?必死過ぎて覚えてねぇ!あとで教えてくれ、監督生!」
「マーベラス!素晴らしいよ。見事に殻を破った姿を見せてくれたね、ムシュー・スペード。ごらん。ヴィルもキミの渾身の一撃をお見舞いされてもう全身メロメロさ」
「全身ボロボロの間違いでしょう。治してもらったけど。でも……確かに。アンタからの最後の一撃、ガツンと効いたわ。やるじゃない、デュース」
「………………はいっ!!」
ヴィルに認められて、嬉しそうなデュース。
ずっとジャガイモ呼ばわりだったしなぁ。
「というか、一度も成功したことがなかったのにあんな自信満々に『お前ら伏せろ』なんて言ったのか?発動したから良かったものの、不発だったらどうする気だったんだ」
「まあまあ!成功したんだからいいじゃねーか!」
「……まったく、いきあたりばったりなヤツの考えは理解できない」
じゃあ、ロイドとかシング辺りの考えも理解出来ねぇかもな。
「デュ、デュースがオレより先にユニーク魔法覚えるなんて……マジかよ~……?」
「オレ様、絶対にデュースだけは先を越されないと思ってたんだゾ」
「ふふっ、僕たちも頑張らないと、かな!」
「さて……あとはこの崩壊したステージをどうするかだな」
ジャミルの言葉に周囲を見渡した。
……うわぁ、ボロボロ。
「幸いにも、ヴィル先輩がコロシアムに充満させていた毒霧によって、この騒ぎの目撃者は俺たち以外に誰もいない。ヴィル先輩のユニーク魔法が持続効果が長いタイプで逆に助かった。バレないうちに会場を修復し、呪いを解いて外に出たいところだが……俺たちの残りの魔力ですべてを元通りにするのは不可能だろう……くっ、どれだけ考えても手詰まりだ。さすがにどうしようもないかもしれない」
「ふなぁ……」
「そんな、それじゃあ『VDC』は……」
優羽とエーデュースが俺を見るが、その視線をアキが遮る。
ついでに、視線で俺を制していた。
「おやおや……これはどうしたことだ?」
「「「!!!!」」」
「アンタは……」
声に振り返る。
そこに居たのは……
「少し早く着いてみれば、ステージが滅茶苦茶じゃないか」
「「あっ、ツノ太郎」」
「「「「「「「ツノ太郎!!!!????」」」」」」」
ツノ太郎の姿に優羽と声を掛ければ、周りが酷く驚いていた。
「お~!オマエがオンボロ寮の庭を夜中に徘徊してるっていう、ツノ太郎か。コイツらから話は聞いてたけど、本当に頭にツノが生えてんだな!にゃっはっは……ふがっ!」
俺達同様に驚かなかったグリムの口をデュースが塞ぐ。
「こら、グリム!!お、お、お前っ!先輩になんて口の利き方してんだ!」
「監督生!ハル!あのヒトをツノ太郎呼ばわりするなんて、命知らずにも程があんでしょ!」
「おめぇら、あの人が誰だか知らねぇのか!?」
1年組に詰め寄られ、優羽が俺の後ろに隠れた。
「だって好きに呼べって言われたから……」
「本人からも許し出てるしな」
俺と優羽は顔を見合わせて頷く。
「
「招待されたんだ。オンボロ寮に住むヒトの子に……招待状もちゃんとあるぞ?」
多分、気にしてんのそこじゃねぇと思うぞ。
「いや、そういうことではなく……」
やっぱり。
「ヴィルがユニーク魔法で生み出した強力な呪いの毒霧は、まだ会場を覆っているはずだ。あの呪いに触れたものは、無事でいられないはずだけど」
「……ああ、そういえばそんな呪いがかかっていた気もするが……どれほど強力なものだろうとこのボクを呪えはしないさ」
「フン。この子たちの世間知らずをいいことに随分と戯れていたようね。茨の魔女の高尚な精神に基づく、ディアソムニア寮の寮長……マレウス・ドラコニア!」
ヴィルの言葉に微笑むツノ太郎。
「カードのイニシャルのM.Dって……」
「そうだろうとは思ってたけどな」
「…………いかにも、僕は茨の谷の次期当主、マレウス・ドラコニア」
俺は予想していたが、優羽からしたら意外だったらしい。
「ふな……エースたちがマジフト大会でめちゃ強だったって話してたヤツが、このツノ太郎だったってことか!?」
「言っただろう?僕の名前を知れば背筋に霜が降りる心地がするだろうとな」
「「いや、別に」」
「背筋に霜……独特な表現だな」
正直俺達はツノ太郎がマレウス・ドラコニアだろうが関係ねぇ。
「ところでシェーンハイト。お前こそどんな戯れに勤しんだらそう服がボロボロになるんだ?そんな姿では、美しき女王の精神が泣くぞ」
「…………それは……」
「どうした?さあ話してみせろ、ヒトの子らよ」
俺達はまた顔を見合わせた。
「ええと……」
「まぁ、実は……」
そして、簡単に彼に説明する。
「……なるほど、そんなことがあったのか。しかし……オーバーブロットするほどの魔力反応を、僕を含めこの学校に集まっている魔法士が誰も気付かないとは」
「ええっ!?外では騒ぎになってなかったってことか?」
「ああ、少し離れた体育館のそばでロイヤルソードアカデミーの生徒たちが歌い、そこに人間が群がっていたが……」
誰も、この騒ぎに気付かなかった……?
「このコロシアムではマジフトの試合や防御魔法の試験、寮長の座をかけた決闘なども行われる。もともと場外に被害が出にくいよう、特殊な結界が張ってあると先生から聞いたことがあるが……」
「それじゃあ、僕たちがヴィルサンを正気に戻せなかったら……」
「粘ってても、援軍は来なかったかもしれないってこと?コワッ」
……正気に戻せて良かったな。
あのままだと、俺かアキが出ねぇといかない感じだったし。
「……………………ふむ」
「「「?」」」
何か考える様に顎に指を当てるツノ太郎。
「まあ、いいだろう。貸しひとつだ、シェーンハイト」
「え?」
ゴオオ……
直後、ツノ太郎から魔力が放たれた。
「ふな゛ッ!?なんだ!?全身の毛がぞわぞわするんだゾ!」
「ぐっ……なんてプレッシャーだ!」
「「!彼の者に抗う力を……レジスト!」」
俺とアキが咄嗟に聖隷術でプレッシャーから彼等を護る。
「くくっ。ヒトの子らよ──お前たちに贈り物を授けよう」
「マレウス、なにをしようっていうの!?」
「この程度、解けた織物を織り直すより容易い。さあ、あるべき場所へ、あるべき姿へ戻れ!」
ゴゴゴゴゴ──
破壊された物が戻っていく……この世界じゃ、俺の専売特許じゃなさそうだな。
「…………ッ!……えっ、あれっ?嘘っ!会場が一瞬で元通りになってる!?」
「本当だ!」
「うおおぉっ!?これ、マレウスが魔法でやったのか!?すっげえ~~~!」
「うへぇ……マジフト大会で見た時も思ったけど、双子同様レベルが違いすぎ……」
「「何で其処で俺達が出て来る」」
「竜の君、素晴らしいよ。キミの魔法はいつでもマーベラスだ!」
「舞台が元通りになれば、お前たちの余興が見られるのだろう?僕はただ、それに興味があっただけだ」
……こりゃ、下手なモンは見せらんねぇな。
「ありがとな、ツノ太郎」
「すごいよ、ツノ太郎!」
「ふ、ははっ!お前たち、僕の正体を知ってもそのあだ名を貫くつもりか」
「ツノ太郎はツノ太郎だろ」
「ダメだった?」
「いや、かまわない」
……気に入ってんのか?
まぁ、本人が許可してる事を気にする必要もねぇか。
「さて、シェーンハイト。この僕がここまでお膳立てしてやったんだ。たっぷりと楽しませてくれるな?」
「フン。言われなくたって最高におパフォーマンスを見せてあげるわ。スタンディングオベーションする準備をしておいて」
「俺達も前座とはいえ、手は抜けないな」
「おう」
「そうでなくては。では……本番を楽しみにしているぞ」
そう告げると、ツノ太郎は消えた。
「ふふ。まさか竜の君から祝福を受けられるとは。運は我らに味方せり、だね。今こそ、私たちNRCトライブの結束を見せる時だ」
「ええ……学園長への言い訳も、後のことも、全部アタシが責任をとる。『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』──絶対優勝するわよ!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
そして……二時間後。
遂に本番が始まる。
俺とアキは前座として一番最初に出る為、其々反対の舞台袖で待機していた。
「あ、ハル」
「ん、ああ。お前達も待機か」
俺の後ろに彼等がやって来る。
そういや、開催校がトップバッターだったな。
「うわぁ、カッコいい」
「?そうか?」
今の俺の恰好は……故郷や他の世界を旅している時の物。
と、歓声が上がった。
『大変長らくお待たせいたしました。全国魔法士養成学校総合文化祭inナイトレイブンカレッジ!音楽発表会『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』!!ただいまより開催いたします!』
紙吹雪が舞い、小さな花火が上がる。
「「「「「わあああ」」」」」
『まず初めに学園に所属する双子による華麗なショーをお楽しみ下さい!』
呼ばれても直ぐに出ない俺に彼等が訝し気な視線を向けた時……俺達が用意した曲が流れ始めた。
初めは静かな導入……其れが激しくなる瞬間に飛び出せば、反対側から同じ様にアキが飛び出す。
中央に着くまでに何度も空中回転を繰り返した。
「──吹き荒れる風 立ち止る者……♪」
「──縛られた正義 鳴り止まぬsorrow……♪」
自分が歌う時は静かに、片割れが歌う時は激しく、二人で歌う時は一緒に体を動かし、間奏の時は愛刀を出してアキと剣舞を披露する。
そして、曲が終わる直前の静かに戻るタイミングで頭を下げてそのまま舞台を去った。
「「「「「「…………」」」」」」
「どうだった?」
「とにかく……すごかった」
「ありがとな」
優羽の頭を撫でる。
そして……
「ヴィル。俺は此処からお前達を見てる。観客を魅了して来い」
「ええ」
ヴィルとハイタッチをし、交代した。
それから彼等の演技を舞台袖から見詰める。
彼等の……圧巻な演技を。
其れから……俺達は一通りの演技を見届け、俺達は会場を後にした。
「結果は知らなくて宜しかったのですか?」
「「ルア、ソル。お前達、何処に……」」
人型になったソルが抱えているルスと……ルアの後ろに居る二人組の少年に目を瞠る。
「……スレイ」
「ミクリオ……」
「えへへ、久しぶり兄さん」
「楽しませて貰ったよ、兄さん」
其れは、俺達の生まれ故郷で深い眠りに就いた筈の義弟とそんな彼を待っている筈の義弟の姿があった。
「久し振りって程、時は……!ルア!ソル!」
「「申し訳ありません」」
「……そうか、目覚めた時空間から連れて来たのか」
「まぁ、兄さんが沢山持ってってくれたから、目覚めるのも早まったんだ」
「それで、彼等から誘いがあったから」
「……そうか。楽しんでくれたか?」
「「もちろん!」」
「俺も楽しかったよ!」
「「そりゃ良かった」」
それから俺達は兄弟として彼等と暫く談笑する。
暫くして……優羽達と合流すると、優勝はロイヤルソードアカデミーだと知らされた。
「そうか、駄目だったか」
「うん」
「……今日は疲れただろ。早く帰って休め」
「分かった。双子は?」
「俺はヴィルの所に行って来る……舞台を用意してやるって言ったしな」
「そっか……あ!その舞台なんだけど……」
優羽とグリムと別れ、ヴィルの元を訪れる。
「よー、ヴィル」
「ああ……兄様たち」
「凄いショック受けてるな」
「あはは……」
ヴィルはとても落ち込んでいる様子だった。
「なあ、ヴィル、ちょっとスカウトしてもいいか?」
「スカウト?……ああ、舞台の話かしら」
「そ。優羽から話もあって……俺達のお話から選んだものを映画みてぇにしたらっつー提案」
「お話?僕もお話好きだよ」
「ああ、フェルミエには話した事あったな」
「……エペル、でいいよ」
「分かった」
同じクラスって事で何度か話したな。
「この前の心の欠片を探す旅も面白かった」
「そりゃ良かった……で、アキの提案で」
「ヴィル、お前自分の名前しか知らない奴の演技出来るか?」
「え、ええ……」
ゾクリ…
その時、嫌な予感がした。
「……兎に角考えて置いてくれ!」
「ハル!?」
「「え!?」」
俺は嫌な予感がするコロシアムの方へと駆け出す。
「優羽……無事でいてくれ……──」
end.