2日目 それはまるでドラマのような

「は、はい。大丈夫です」
神楽がそう返すとぐっと背中を押される感覚がして視界が真っ直ぐになる。自分の足で床に立った事で、神楽は誰かに抱えられていたのだと気付いた。
そしてお礼を言おうとゆっくりと振り向いた先、今まで支えていた神楽の体をそっと離して顔を上げる男の姿が神楽の視界へと入る。
一番に目を引くのはふわふわのわたあめを思いい起させる銀色の髪。黒いパンツにグレーのジャケットを羽織った一見爽やかな好青年を思わせるその男は、しかしどこかで見覚えがあるようで――。
ぐるぐると神楽が記憶の糸を辿っているとその男はどこか困ったような笑顔で頭を搔きながら、神楽に小さく告げた。
「この前はどうも。ご丁寧に菓子折りまで頂いてしまって、ありがとうございました」
その言葉に神楽の頭の中に浮かび上がった一人の男の姿と目の間の男の姿がぴたりと重なる。
「あっ、お、お、お隣のこっ…!?」
“怖い人”と素直に出そうになった言葉を寸での所でぐっと止める。
男の方も、ん?と一瞬不思議そうな顔を浮かべたものの、それ以上は特に気に留める様子もなく神楽の言葉にこくこくと頷いてみせた。
「そうです、隣の。あ、オレ坂田っていいます。坂田銀時。あの時は名前も名乗ってなくて、スンマセンでした」
くしゃくしゃとわたあめみたいな頭を搔きながら銀時と名乗った男は申し分けなさそうに微笑む。
「あの時は、てっきり新聞の営業と思っちゃって…」
恥ずかしそうに俯きながら答える銀時。神楽よりは幾分年上で、しかし若そうな見た目でもあるが、なかなかの長身に見下ろされると何となく威圧感を感じてしまう。
「い、いえ、私こそタイミング悪くて…あと今も!た、助けて貰って、あ、ありがとうございましたアル」
しどろもどろになりながら、何とか早口にそれだけは伝える。
「いえいえ、それよかこれ、取ろうとしてたんじゃないですか?」もう一度棚に伸びた銀時の手が神楽の欲しかったケチャップを手にして視線の先に指し出される。
「は、はい!そう、なんです…けど…。あ、ありがとう、ございますネ」
ぺこりと頭を下げてケチャップを受け取ると、くすくすと笑う声が神楽の頭上から降ってくる。戸惑いながら神楽が顔を上げると。少し真顔に戻った銀時と視線が重なった。
「ああ、すんません。その、可愛なって思っちゃって、方言、とかですか?神楽さんのその、アルアル?みたいな話し方」
決してからかわれているのではないと思う。素直な銀時の言葉なのだろうけれど、急に恥ずかしさが込み上げてきて神楽は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
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