1日目 お引越しのご挨拶
それは日曜日の晴れた午後――。
「ではここに、お荷物搬入完了のサインをお願いします」
引っ越し業者のスタッフに促され受け取ったボールペンを契約書に走らせる。
「ありがとうございました。それではこれで失礼しまーす」
「こちらこそ、お世話になりましたヨー」
帽子を取って、ぺこりと礼儀正しく下げられた頭に会釈を返して神楽は玄関の扉を閉めた。
“パタン”というドアの音がまるで自分と外の世界を閉ざしてしまう合図かのように、シンと静まり返った部屋を見渡して神楽は小さなため息をこぼした。
人生初の引っ越し。
元々出張が多く、家を空けがちな父親と、友人宅を渡り歩く不良息子の兄、そんな家族との暮らしも一人暮らしのようなものではあったけれど、それでも神楽にとってこの引越しは自立の為に大きな一歩には違いなかった。
とはいえ、元々ほとんど荷物など持たない神楽の引越しは午前中で綺麗に片付いてしまった。
電気やガスは事前に業者に頼んでおいたし、洗濯機やテレビの設置も引っ越し業者のオプションでまとめて頼んだので全て完了している。自分でやった事といえば持ってきた少ない食器を食器棚に仕舞ったくらいだ。まだ積み上げられたままのダンボールもあるが、それも片手で足りるほどの数だ。今すぐ必要な物はほぼ出しているし、残りはゆっくり必要に応じて開封していけばいい。
神楽は先程仕舞ったばかりの食器棚からマグカップを一つ取り出して、ケトルでお湯を沸かした。
食品類を詰め込んだ箱はまだそのままになっていたので、いそいそとその中からお気に入りのドリップコーヒーを1つ取り出す。
カップに載せたドリップコーヒーのフィルターにケトルで沸かしたお湯を注げばコーヒーの匂いがふわりと部屋に漂う。
しっかり抽出されるのを待って、アツアツのコーヒーにふーっと息を拭きかけてから恐る恐る口をつけると、いつもの飲みなれた大好きな味が口の中に広がった。目を閉じれば、そこに広がるのは昨日と何も変わらない日常だ。けれど、ゆっくりと瞳を開けば、そこに広がるのはがらんとした部屋。神楽の新しい新居だ。
「えっと…まずはカーテンをつけて、それからお隣さんへのご挨拶デショ。食料品の買出しついでに周辺をちょっと回って…」
ケータイを開いて、今日中にやってしまいたい事をリストにメモする。お気に入りのコーヒーで一息入れて気持ちも落ち着いた所で、神楽は早速カーテンの取り付けに取りかかった。ホームセンターで一目ぼれしたカーテンを付ければ、部屋は先程より少しだけ愛着が湧いて見えた。
「ではここに、お荷物搬入完了のサインをお願いします」
引っ越し業者のスタッフに促され受け取ったボールペンを契約書に走らせる。
「ありがとうございました。それではこれで失礼しまーす」
「こちらこそ、お世話になりましたヨー」
帽子を取って、ぺこりと礼儀正しく下げられた頭に会釈を返して神楽は玄関の扉を閉めた。
“パタン”というドアの音がまるで自分と外の世界を閉ざしてしまう合図かのように、シンと静まり返った部屋を見渡して神楽は小さなため息をこぼした。
人生初の引っ越し。
元々出張が多く、家を空けがちな父親と、友人宅を渡り歩く不良息子の兄、そんな家族との暮らしも一人暮らしのようなものではあったけれど、それでも神楽にとってこの引越しは自立の為に大きな一歩には違いなかった。
とはいえ、元々ほとんど荷物など持たない神楽の引越しは午前中で綺麗に片付いてしまった。
電気やガスは事前に業者に頼んでおいたし、洗濯機やテレビの設置も引っ越し業者のオプションでまとめて頼んだので全て完了している。自分でやった事といえば持ってきた少ない食器を食器棚に仕舞ったくらいだ。まだ積み上げられたままのダンボールもあるが、それも片手で足りるほどの数だ。今すぐ必要な物はほぼ出しているし、残りはゆっくり必要に応じて開封していけばいい。
神楽は先程仕舞ったばかりの食器棚からマグカップを一つ取り出して、ケトルでお湯を沸かした。
食品類を詰め込んだ箱はまだそのままになっていたので、いそいそとその中からお気に入りのドリップコーヒーを1つ取り出す。
カップに載せたドリップコーヒーのフィルターにケトルで沸かしたお湯を注げばコーヒーの匂いがふわりと部屋に漂う。
しっかり抽出されるのを待って、アツアツのコーヒーにふーっと息を拭きかけてから恐る恐る口をつけると、いつもの飲みなれた大好きな味が口の中に広がった。目を閉じれば、そこに広がるのは昨日と何も変わらない日常だ。けれど、ゆっくりと瞳を開けば、そこに広がるのはがらんとした部屋。神楽の新しい新居だ。
「えっと…まずはカーテンをつけて、それからお隣さんへのご挨拶デショ。食料品の買出しついでに周辺をちょっと回って…」
ケータイを開いて、今日中にやってしまいたい事をリストにメモする。お気に入りのコーヒーで一息入れて気持ちも落ち着いた所で、神楽は早速カーテンの取り付けに取りかかった。ホームセンターで一目ぼれしたカーテンを付ければ、部屋は先程より少しだけ愛着が湧いて見えた。
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