『いつかの夏祭り』

「んじゃオレはこれで。源外のじいさん、あんま飲みすぎんなよ」
ガラガラと開いた店の戸口から一人の男が現れる。黒いブーツに着流し姿、そして先程祭りで買って食べた綿あめにそっくりのフワフワの天パ頭。
「ぎ…銀ちゃん…先、生?」
思わずそう口にした神楽に、呼ばれた男が振り返る。
「ん?おー神楽か。お前も夏祭りの帰りか…ってオイオイオイ!お前何やってんだよ!!」
呼ばれた相手が神楽だと気付いた時には驚いた反応を示さなかったのに、その姿を目視した途端急に銀八は慌て始める。
「えっと…ちょっとだけ。ここで雨宿りさせてもらってたアル」
銀八の事を思い出して、というのは伏せたものの、神楽が正直にそう答えると、銀八は、はぁっと大きな手のひらで自身の顔を覆って、大きくため息をついた。
「んーなの見りゃ分かる。オレが言いたいのはそこじゃなくて、何つー格好してんだって事」
「ん?ああ、これアルカ?だって雨でずぶ濡れで気持ち悪かったのヨ。でも、搾ったらちょっとだけマシになったアル。ちょっと待ってヨ、あと裾も搾ったらもうちょいマシになるカラ」
ずぶ濡れの姿に呆れてしまったのかと、そう解釈した神楽が持っていた裾を搾ろうとさらに上へとたくし上げようとした時だった。
「いや、だから待って神楽ちゃんっ!!!お願いだからチョット待って!!」
いつも他人のやる事になど毛ほども興味を持った姿を見せた事のない銀八が、えらく慌てた様子でそれを止めに入った。
「何ヨ銀ちゃん?」
初めて見る担任の、思いのほか必死に慌てる姿に、しかし神楽は内心こんな場所で想い人に会えた嬉しさを気取られぬよう、あえていぶかしさ満々の表情を銀八に向ける。
「あーだからその…」
そんな神楽の姿にはっとしたように銀八は頭を搔くものの、うまく言葉が出てこないらしい。あーだのうーだのという言葉を繰り返していたが、今度は何やらあきらめのような為息を落として神楽の腕を掴んだ。
「とりあえずこっち」
「ちょっ…ええっ?こっちってどっちヨ?」
良く見知った銀八を信じていないわけではないが、それでも行き先を告げられないままぐいぐいと手を引かれればそう聞きたくもなる。想い人、ではあるけれど銀八だって一人の男性だ。期待もあるが、不安が全くないわけではない。そんな神楽の気持ちを察したのだろう
「店の上、住宅になってんだワ。オレの実家。そんな格好のままじゃ気持ち悪いだろ?タオル貸してやっからとりあえず寄ってけ」
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