秋の足音

「ん…うーん…」
もそもそと薄手の夏布団を手繰り寄せるようにして寝返りを打った神楽は、しかしそのままガバッと起き上った。
「やっぱりこのお布団じゃもう寒いネ」
神楽の寝室である押入れの中にも9月を中ほど過ぎたこの頃は秋の気配が徐々に忍び寄る。昼間こそまだそこそこの暑さは残るものの、朝夕の冷え込みはかなりのもので、薄い夏布団一枚で寝ていた神楽は寒さで目を覚ましてしまった。
「冬布団出してもらっとけばよかったアル」
ごしごしとまだ眠い目を擦りながら押入れの下段を覗き込むと愛犬の定春が小さな寝息を立てている。ふわふわの毛はこれからの時期、重宝される。
『定春のとこ行こうかな』
きっとそのやわらかい毛に包まればまた穏やかな眠りにつけるだろう。すすーっと開いた押入れの外はまだ朝日も差し込まない暗闇だった。
「でもやっぱり…」
定春を起こさないよう忍び足で押入れから出るとひんやりと体に触れる秋の冷気にぶるっと小さく身震いして神楽はそっと隣の和室へと向かった。
すすーっと静かにふすまを開ければ部屋の真ん中に一枚敷かれた布団からきつめの天パがちらりとのぞく。
暗闇にすっかり慣れた目が、それを見つけるのは簡単で、無防備な姿で眠る銀時の姿を見るとそれだけで神楽の心はほっと温かくなった。それでも体の冷えは変わらないので神楽は小さく襖を叩いた。
「銀ちゃん」
合わせて小声で囁くがそれに返る返事はない。
今度は少し強めにふすまを叩いてみた。
「銀ちゃんってば!」
やっと布団が少し捲れて、寝ぼけ眼の銀時がひょっこりと顔を出した。
「何?」
熟睡していた所を起こされたせいか少し不機嫌そうに眉が歪んでいる。
「眠れないアル」
「あっそー、そのネタもう聞いたワ」
前に一度なかなか寝付けずに銀時を振り回した事があった。その苦々しい思い出をフラッシュバックさせたのだろう。もう関わるまいと銀時は深く布団に潜り込んだ。
「銀ちゃん、隣りで寝ていいアルか?」
「…ラジオはナシな。あと声かけんのもナシね。それと俺の睡眠を妨害しないってんなら別にいいぞ」前回は散々振り回されたが、今回は条件付きですんなりOKが出た。下手に抵抗するより一定の条件を出して無難に乗り切った方が被害が小さく済むと前回の件で学習したのだろう。
「うん、銀ちゃんには迷惑かけないネ。ありがと銀ちゃん!」
神楽は嬉しそうにそう言ってそそくさと銀時の隣に潜り込んだ。
と同時に今度は銀時が跳ね起きる。
「ちょと神楽ちゃん!これ俺の布団なんですけど」
眠気はどこへやら異様に慌てた様子の銀時に神楽はぱちくりと瞬きをする。
「だて銀ちゃん、隣に寝ていいって言ったアル」
もう起きる気はないのだと、布団に横になったまま神楽が答える。
「だーから布団隣に持ってきて寝ていいって言ったの!誰も銀さんの布団で一緒に寝ていいなんて言ってないからね」
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