十六夜の月とかぐや姫

「たとえ月から迎えが来たってお前を渡すもんかよ」
明々と差し込む月明かりに、神楽の頬がほんのりとピンクに染まったのが分かる。
銀時自身もまた耳まで真っ赤になっていた。
『はぁ、結局我慢できなかったな、思いっきりスイッチ押されちまったからな』
絶対に口にはしないでおこう、神楽に打ち明けて彼女の重荷になるような事だけはしたくない、今の関係が壊れてしまうかもしれないくらいなら黙って心の奥深くに仕舞っておこう。そう決めていた自分の本心をつい言葉にしてしまった事に心の中で大きなため息をついて神楽を見るとその瞳にじわりと涙が浮かんでいる。
「お、おい大丈夫か?」
銀時の慌てた様子に神楽はごしごしと手の平で涙をぬぐう。
「銀ちゃんアリガト」
月夜に照らされ、うっとりするほど艶めく銀時の髪。その左右を小さな両手でくしゃりと掴んで、チュッとわずかに触れるだけのキスをその唇に落とし、神楽はパタパタと走り去った。
一度だけ押入れの前で立ち止まり振り返ると
「おやすみネ」
そう言ってがさごそと彼女の寝室である押入れの奥へと消えて行った。
「ったくかわいいかぐや姫さんだな。…今のキスはそーいう意味で受け取っていいわけかね」
ぽつりと独り言のように呟いて床に置いた杯を持ち上げると先ほどと変わらぬ姿で大きな月が揺れていた。
『俺はかぐや姫のじいさんでもばあさんでもいる気はねぇ。どちらかってーとかぐや姫に求婚して、難題を押し付けられようとも何とかその心をものにしようとした男たちの一人だな』
そう、だけど“かぐや姫”と違うのは思いを寄せたその姫と思いが通じたということ――。
小さな唇が触れた自分のそれをしなやかな指でそっとなぞると決して夢ではない事を再認識させられカッとまた頬が赤く染まってゆく。
銀時はそれをごまかすようにぐいっと一気に酒を煽った。
最後の一杯はどこか切なく優しい味がした――。


End...
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