十六夜の月とかぐや姫

「あっちのお月様も綺麗ネ」
「お…おう」
銀時の位置から神楽の表情は伺えない。だけど彼女が普通でいる限り、自分も下手に意識しない方がいいだろう、意識するなという方が無理である事は百も承知だが、必死に平常心を貫こうと銀時は意地になる。
「銀ちゃん、昨日新八のウチでもみんなでお月見したネ。お団子もいっぱい食べたヨ。でも今日もお月見アルか?十五夜は2回もあるカ?」
神楽はこういった行事ごとには疎い。何にでも好奇心を見せるそんな彼女がまた愛らしい。
「ははっちげーよ。今日のは十六夜(いざよい)の月って言ってな、十五夜の後の月を楽しむんだよ。大勢で眺める月もいいが、こうして静かに一人で酒をあおるのも悪くないだろ」
銀時はゆっくりと天上の月を仰いだ。
「そうアルな。でも…私、銀ちゃんの邪魔しちゃったヨ」
今までの元気はどこへやら、今度はしょんぼりと俯く神楽はまるでころころと変わる今の時期、つまりは秋、の空模様のようだ。曇ってしまってはせっかくの十六夜の月が台無しというもの、銀時は手にした杯をそっと床に置くと片手を神楽の前に回しそのまま引き寄せ、もう片方の手でぽんぽんと優しく頭をなでてやる。
「そんなこたーないぜ。綺麗な月にかわいい神楽ちゃんまでいてくれて、銀さん酒がますます美味くなるわ」
冗談めかすように笑って言ったがそれは事実以外のなんでもない。
「ほんとアルか?」
銀時の胸に体を預けぐっと上を向くようにして見上げてくる神楽に銀時はこくこくと頷いて見せる。
「銀ちゃん…私の事避けてるように思ったネ」
神楽の言葉に銀時もやっとピンときた。先ほど神楽の機嫌が悪くなったのは思わず急接近した神楽に自分が距離を取ったせいだ。神楽の為、彼女を大切にしたいからこそ、と思ってやった事が裏目に出てしまったのだと分かった途端、心に詰まっていたものがスッと取れたと同時にどうしようもなく切なくなる。
「んなわけねーだろ」
ははっと笑って見せて銀時はそっと心の中で呟いた『心配しなくったってそんな事できるわけねーだろ、むしろお前に嫌われたくないのは俺の方だってーのによ』
「ならよかったネ」
やっと安心したのか再び満面の笑みに戻った神楽は相変わらず銀時の膝に腰を下ろしたままぎゅっと銀時の手を握った。
「銀ちゃん…」
「ん?」
二人でしばし月を見上げた後、再び神楽が口を開いた。
「銀ちゃん、私昨日、姉御にかぐや姫の話聞いたネ」
「ああ、そうだったな」
『育ての親のじいさんとばあさんを置いて月に帰っちまうなんざ、薄情な話だぜ』お妙が神楽に話して聞かせている所にそう言って悪態をついたら話の腰を折るなと後ろから鉄拳を喰らったのを思い出した。
「私はそんな事しないネ」
「ん?」
話がつかめず首をかしげる銀時に神楽はその手を握る力を少し強めた。
「私、銀ちゃんを置いて帰ったりしないネ。だから…ずっと銀ちゃんの傍に居させてほしいアル」
「そりゃ、お前…」
一度言葉を切って、銀時は神楽の手を解くとそのまま神楽を抱きあげ、くるっと向き合う形に座り直させる。
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