小さな嘘

「私、謝ろうと思って銀ちゃん帰ってくるまで起きて待ってたネ。そしたら銀ちゃん昨日はすごく酔っ払って帰ってきて、添い寝してくれたらイチゴ牛乳全部飲んじゃった事水に流すって言ったヨ」
「うっ…」
神楽の言葉に銀時は言葉を詰まらせる。もはや反論の余地もない。銀時が心配したような、それ以上の事はなかったようだが自分のやった事に対する罪悪感は変わらなかった。それと同時に自分に対する腹立たしさが湧いてくる。自分にとって大切な存在。誰にも渡したくない、離したくない、自分だけのものにしてしまいたい、でもそれは決して表に出してはいけない感情。『もしその一線を越えちまったら、きっと神楽は俺を嫌いになるだろうな』いつもそう心に思い、歯止めをかけ続けてきたのだから、酒に酔っていたとはいえ、表に出してしまった本心を己の弱さを銀時は悔やんだ。
「銀ちゃんどうしたアルか?」
無意識の内にうつむいてしまっていた銀時の顔を至近距離で神楽が覗き込む。
「な、何でもねぇよ」
赤くなった顔を隠すように逸らして、銀時は体制を立て直した。
「私嫌じゃなかったヨ」
「…」
神楽の言葉に銀時は思わずドキリとする。
「私、銀ちゃんに抱っこして寝てもらってとっても気持ちよかったネ。私銀ちゃん大好きアル!銀ちゃん、前にさっちゃんと寝てた時、私すごく嫌だったヨ。でも銀ちゃん昨日私の事ぎゅってしてくれたヨ。覚えてないかもしんないけど大好きって言ってくれたネ。だからそれだけで幸せいっぱいヨ」
「神楽…」
『きっと神楽の“大好き”は俺のそれとは全然違うんだろうな』自分の神楽に抱く感情とは違う、自分の事を家族のように思ってくれている、父親のように思ってくれている、純粋で素直な気持ちだ。女として神楽の事を意識する自分のそれとは全然違う…そう意識させられたようできゅっと胸が切なくなる。でもそれでも神楽が自分を好きだと言ってくれるのなら、今までと何の変りもなく自分を慕ってくれるのなら、やはり自分はそんな神楽に甘えてしまう。『ずるいよな、俺』銀時は神楽の肩に腕を回すとぎゅっと自分の方に抱き寄せた。
「ごめんな、神楽」
覚えてなくてごめん、つまらない事で心配かけて、不安にさせてごめん、一人の女として好きになってしまってごめん…。色んな感情の詰まった銀時の言葉の重みはどれ位神楽に届いただろうか。
「うん、もう平気ネ」
にっこりとほほ笑む神楽の愛らしい顔に銀時はまた鼓動が高鳴るのを感じた。そんな事など知る由もない神楽は銀時に甘えるように首を持たれかける。
「これで仲直りヨ」
「…ああ、そうだな」
神楽の肩を抱く腕に少しだけ力を入れて銀時は神楽を抱きしめた。
『ほんとは私が言いだしたネ。怒って出て行っちゃった銀ちゃんが心配で、なかなか眠れなくて、すごく心配で…やっと銀ちゃん帰ってきたと思ったらベロンベロンに酔っ払ってて…だから「銀ちゃん、眠れないアル。一緒に寝てヨ」って言ってみたネ。そしたら銀ちゃん、「今日は特別だかんな」ってにっこり笑ってくれたネ。私、銀ちゃんの事大好き、銀ちゃんが他の女と仲良くしてるの見るとすごく悲しくてすごくイラってするネ。これ「嫉妬」っていうアル。お昼のドロドロドラマで言ってたネ嫉妬する女はすごく醜いネ。こんなの銀ちゃんが知ったらきっと私の事嫌いになるネ。そしたらもうここにいられなくなるヨ…』だからちょっとだけ、今回だけ、ぎんちゃんのせいにさせて、少しだけ私の嘘を許してほしい。
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