小さな嘘

「ぎ、銀さん!?ちょ、ちょっと神楽ちゃん!!」
倒れこんだ銀時と、押入れの向こうにいる神楽とを新八は交互に見やる。が、新八が振り向いた時、神楽のいる押入れは既に再び固く閉ざされた後だった。
「ここは神楽ちゃんの機嫌が直るのを待つしかないみたいですね」
横でのびている銀時に向かって新八は再び深いため息を落とした。



朝食を済ませ洗濯物を干し終わると新八は満足したようにふぅと一息ついた。が、すぐに
「あっ今日は卵の特売日だった!」
と休む間もなく今度はせかせかと買い物に出かける身支度を始める。
「銀さん、僕買い物に行ってきますから」
「ああ…」
相変わらずソファーでゴロゴロとジャンプを開く銀時に声をかけると短い返事が返ってきた。
「銀さん、何か買ってくるものはないですか?」
「ああ…」
銀時の言葉に新八は目を丸くした。『これはもう重症だな』
「今週号のジャンプとイチゴ牛乳ですね。昨日、最後の一杯を神楽ちゃんに取られたって大騒ぎしてたでしょ?それからそのジャンプ、先週号ので上下ぎゃくになってますから」
新八の言葉に銀時ははっと我に返る。いつものようにふるまっていたつもりが、やはり二日酔いの頭に加えて今朝の神楽との事を思い出すとどうも思考がうまく回らない。
「こっこれは別に!ジャンプってのはなぁ一度読んだジャンプはひっくり返して読むもんなんだよ。色んな楽しみ方をして初めて通になれんだよ!!」
『思いっきり額に汗かいて言い訳してるよこの人』
「はいはい、じゃあ行ってきますね」
慌てふためく銀時をさらっと受け流して新八は押入れの前に立った。
「神楽ちゃん、僕買い物に行ってくるけど何かほしいものある?」
「…酢昆布」
しばしの沈黙の後、小さな声が返った。『よかった、少しは落ち着いてるみたいだ』
「酢昆布ね、了解」
神楽の様子に少し安堵すると新八は銀時を振り返った。
「じゃあ銀さん、僕行ってきますけど、くれぐれもこれ以上神楽ちゃんを刺激するような事しないでくださいね」
小さく囁くように告げて新八は部屋を出た。
「どうやら二人の問題みたいだし、うまく解決したらいいけど…」
ぴしゃりと閉めた玄関先で新八は一人ごちるとゆっくりと階段を下った――。



手にしたジャンプをぱさりと横に置くと銀時は天井を仰いだ。
新八の去った部屋に張りつめた沈黙が流れる。新八が気を利かせてくれた事ぐらい銀時にも分かる。卵の特売日は今日ではなく明日だからだ。だからこそ、そんな新八の気遣いを無駄にはできない。
3/6ページ
スキ